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第十六話

 それから数日後のある深夜、アルフレッドとエメラインは夜の街を歩ていた。デートの帰りだった。二人は宿へ向かう途中だった。アルフレッドは魔剣は帯びていたが防具は装備していない。エメラインはマジックローブを着ているが杖は持っていなかった。杖がなくても魔法に支障はないが。


 そんな二人の帰り道。人通りのまばらなところで、二人の行く手を遮る者がいた。黒衣の外套の下には戦闘服を着こみ、腰に魔剣を帯びている。顔には黒いマスク。


「アルフレッド・スカイに、エメライン・レ=ラ=マイラだな」


 二人は尋常ならざる気配を感じて、戦闘態勢に入った。


「何者だ」


 アルフレッドは魔剣を抜いた。


「暗黒士が一人、ヴィクトロヴィチ」


「暗黒士だと? 馬鹿な。暗黒士など数世紀前に滅亡した勢力だ」


 アルフレッドは言ったが、ヴィクトロヴィチは笑声を上げた。


「ザカリー・グラッドストン、ジルベール・ド・ベアトリクス、このような闇の勢力の復活は決して偶然ではない。グラッドストンを復活させたのは我らなのだからな」


「何だと?」


「少しは目が覚めてきたかな冒険者諸君」


 ヴィクトロヴィチは魔剣を抜いた。その肉体から黒いオーラが立ち上る。


「勇名なるアルフレッド、お前には死んでもらわねばならぬ。勇名なればこそ、我々にとっては邪魔となる」


「さて、そう簡単に殺せるかな」


 すると、ヴィクトロヴィチはぶわっと、外套を風で巻き上げ、片手を持ち上げると、暗黒の魔弾を放ってきた。


「マジックバリア!」


 エメラインがバリアを展開する。魔弾はバリアに阻まれて消失した。


 だがヴィクトロヴィチの動きは速い。直後には加速し、アルフレッドに打ちかかった。アルフレッドはその一撃を跳ね返し、クリティカルヒットを見舞った。しかしヴィクトロヴィチはふわりと舞い上がってその一撃を回避し、地に降り立った。


「今の一撃は危なかった」


「エメライン、援護を頼むぞ!」


 アルフレッドは加速した。


「出でよ連星爆炎岩弾! メテオファイア!」


 エメラインが放った燃え盛る弾丸がヴィクトロヴィチを捕らえる。爆発がヴィクトロヴィチの態勢を崩した。アルフレッドは駆け抜けながら剣撃でソニックブームを連打する。さらなる衝撃刃がヴィクトロヴィチを襲う。この暗黒士は苛立たしげに苦痛のうめき声を上げた。アルフレッドは止めとばかりに魔剣を振り下ろした。しかし。


 暗黒士はその一撃を受け止めた。ヴィクトロヴィチは笑った。


「残念だったな英雄」


 ヴィクトロヴィチはアルフレッドの腹部に手を当てると、魔弾を放った。黒いオーラが爆発し、アルフレッドは吹っ飛んだ。


「アルフレッド!」


 エメラインが駆け寄る。アルフレッドの腹部から出血している。


「大丈夫だ」アルフレッドは口許の血を拭って、ヴィクトロヴィチを見据えた。「どうやら本物らしいな」


 ヴィクトロヴィチは笑った。


「今頃お前の仲間たちも殺されているだろう」


「ちっ……エメライン、一時撤退だ」


「分かった」


 エメラインはアルフレッドに触れると、テレポートした。二人は宿へ瞬間移動する。


 ヴィクトロヴィチはマスクの下で笑みをかべていたが、やがて剣を収めると、テレポートで消えた。

 仲間たちは無事だった。みな暗黒士と交戦に入ったという。アルフレッドはフローラの治療を受けた。


「くそっ……つまるところ、グラッドストンの件に始まり、事の発端は暗黒士どもの仕業か」


 エイブラハムは毒づいていた。


「奴ら……各地に封印されている魔物たちを復活させる気か」


 アルフレッドも苛立たしげだった。


「ねえ……その暗黒士て、何?」


 エメラインは問うた。アルフレッドがそれに答える。


「闇の勢力を信奉する連中だ。俺たち普通の人間は助け合ったり、誰かを守る誠実な心、愛情、そう言ったものを大事に思うだろう? だが奴ら違う。人々の悲しみ、苦しみ、怒りや憎しみ、恐怖、そういったものに喜びを感じるんだ。俺達には理解出来ないが、そういった世界の負の側面に干渉し、世に混沌をもたらす。そうしたことに心血を注ぐ連中なんだ」


「な、何それ? やばい人たちじゃないの」


 エメラインは困惑気味だった。


「ただの変人趣味ならいいんだが、連中は組織だって現実世界に干渉して混沌を招く。俺達とは明確な敵対勢力なんだ。無論、人間である以上怒りや悲しみを抱くのは当然だ。それは否定できない。だからと言って、負の感情をパワーの源とするわけにはいかない」


 アルフレッドの言葉に、エメラインは納得した様子であった。


「ですが……暗黒士は滅亡したと思っていましたが……」


 ベルナールの言葉にフローラが応じる。


「この数世紀、復讐の機会を窺っていたのでしょう。そう考えると、その怨念たるや恐ろしいものがありそうです」


「そうだな。これから俺たちも狙われるぞ。注意を怠らないようにしなければ。だがグラッドストン復活の謎が解けたな。暗黒士が関わっていたか……」


 エアハルトは言って吐息した。


 その晩、冒険者たちは眠れぬ夜を過ごした。

 それからひと月ほど警戒態勢をとっていた冒険者たちであったが、差し当たり何事もなく時間は過ぎていった。


「そうこうしているうちに一か月が過ぎたな」


 暖炉に手を当てながらアルフレッドはエメラインに言った。


 ここは宿である。二人はツインルームにいる。


「そうね。敵さんも冬は巣ごもりしているのかしら」


「それならいいんだがな。俺たちの活動が低下する間に暗躍しているやもしれん」


「考え出したらきりがないわね……」


 エメラインは化粧台の鏡に向かって髪をといていた。


「全くだ。厄介なことになったな」


 これまでの間に、アルフレッドらは王に謁見し、暗黒士復活の件についても報告していた。王は「由々しき事態」として受け止め、全国の貴族や都市の執政官に向けてこれまでの経緯を早馬で飛ばすことになる。


 冒険者たちは冬は遠方への仕事を休むことにしており、食事以外で普段外出する機会も減った。王都もうっすらとではあるが雪化粧されており、外は寒い。


 ともあれおでんやラーメンの屋台は冬の中でも人気で、常に満席だった。アルフレッドとエメラインも屋台に足を運んだものである。

 


 ……闇の中で七人の暗黒士が円を描くように立っていた。その周りには、信徒の暗黒信者たちがいて、闇は熱気に包まれていた。


「ザカリー・グラッドストンはロード・ベアトリクスを復活させた」


「我々の思惑通りだ」


「グラッドストンはそろそろ反撃を開始するだろう」


「ベアトリクスはすでに行動を起こしている」


「残る我々が為すべきは、この世界に戦乱の世を生み出すこと」


「そのためにグラッドストンとベアトリクスを利用するのだ」


「奴らが混沌となって全てを流し去ったあと、我々が全てを一掃する。そして、世は再び闇の手による支配を受け入れることになるだろう」


「この二、三年で世界は変わることになるだろう」


「平和などというものがまやかしでしかないことを誰もが思い知るだろう」


「同志たちよ! その日のために暗黒信者を結集せよ! 我々が支配する時はもうすぐそこまで来ているのだ!」


 暗黒士の一人が剣を抜いて天に突き出すと、暗黒信者たちから歓声が上がった。


 全ては暗黒の世のために! 暗黒よ永遠なれ!


 闇は熱を帯びていた。世界を転覆させんと図る闇の勢力は、長い時を経て、着実にその力を伸ばしていたのだ。

 冬が明けた。山野の雪解け水が川に流れ込み、溶けた雪の下には新芽があって、新たな生命の息吹が生まれようとしていた。冬眠から覚めた熊が川に向かい狩りをする。キツネや狼、鳥たち野生動物も冬の終わりとともに活動を開始し、空腹を満たさんと動き始める。


 そして冒険者たちも、敵もまた、動き出そうとしていた。

 ザカリー・グラッドストンは、冬の間に勢力を伸ばしていた。密かに己の分身となる見た目は人と変わりない強力な人造アンデッドを人界に送り込んでいたのだ。その人造アンデッドは高度な知性と人間をアンデッド化させる力も持ち合わせており、人界に溶け込んだ。そして人界のアンデッド化が始まる……。

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