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第十五話

 大神官コンラートのもとへ報告に訪れた冒険者たちはリナルドの案内で王城に入った。再び謁見の間に向かう。今度は雑然とした謁見の間の人混みの中を抜けて、直接コンラートのもとへ向かう。コンラートは王の傍に立っていた。リナルドが声をかける。


「大神官様」


 コンラートは振り返った。


「む? リナルドか。どうであった」


「はい。バンパイアはおよそ五十体ほどが確認できました。その場で倒しました」


「五十か……。他のブロックからも似たような報告が上がってきている。これは我々も覚悟を決めねばならんか」


 そこでエイブラハムが言った。


「大神官殿、差し出がましいようだが、この様子ではもはや貴族たちやこの王城でさえ危うい。何か手を打たないと、瞬く間に吸血鬼の都になってしまうぞ」


 コンラートは頷いた。


「お主の言うことは尤もだ。無論こちらにも考えがある」


「打つ手があるのか?」


「今のところこうなっては、結界を敷くしかなかろうと思っておる」


 するとフローラが口を開いた。


「聖なる結界を展開すると仰せですのね。確かにそれは有効であると存じます大神官様。ぜひ私にも助勢させて下さい」


「その……聖なる結界とやらで都が守れるのか?」


 アルフレッドが問うた。コンラートは答えた。


「冒険者よ、ただの結界と思うでないぞ。我々高位の僧侶によって生み出されたバリアは強力だ。ベアトリクスと言えど結界内ではかなり活動が制限されるだろう。その配下ともなれば逃げだすしかあるまい。結界内にいれば確実に死ぬ」


「それほどの業が存在するとは知らなかった」


「リナルド」


「はい」


「全国の上級神官を至急王都へ招集せよ。無論テレポートアイテムを使ってな」


「かしこまりました」


 リナルドは足早にその場を立ち去った。



 かくして、全国から招集された上級神官に交じって、フローラもこの大儀式に参加することになる。


 大神官コンラートと上級神官百人余りにフローラが、王都を取り囲むように展開する。アルフレッドらはフローラの傍にいてその様子を見守った。


 コンラートからのテレパシーが上級神官とフローラに伝えられる。


(では始めるぞ。私が起点となる。よいな)


 各神官たちは了解した旨伝える。


 そして、ホーリーバリアの展開が始まった。コンラートは両腕を持ち上げ、両隣のフローラと上級神官に白いビームのようなものを発射した。フローラはそれを片方の手で受け、もう一方の手で隣の神官へビームを送る。そうして、神官たちは次々とビームによって連結されていく。それは王都を取り囲むように伸びていき、ついにビームのリングは完成した。そして、コンラートは神の加護を祈った。


「神々よ! 主よ! 我らに邪悪なる者を祓う力を! 今ここに聖なるパワーを降臨せしめたまえ!」


 すると、コンラート始め、連結された神官たちが光り始め、ビームの輝きが増す。


 そして。


 白い閃光フラッシュ。


 王都の大地が白い輝きに包まれ、光はウィンザレアを覆うようにドームを形成した。


 そして第二のフラッシュ。


 静寂。


 冒険者たちは目を開けた。


 ブウウウウウン……。と、フローラは真っ白に光っていた。ウィンザレアを覆う白い光のドーム。


「凄いな……」


 エアハルトは言葉を失っていた。


「私もこのような秘儀を目にするのは初めてです」


 ベルナールが言った。


 やがて、光は徐々に消滅し、何事もなかったかのように大地は元に戻った。


「光が消えてしまった」


 エメラインは呟いた。


 コンラートはみなの労をねぎらった。


(ご苦労だった。結界は成功した)


「みなさん、結界の儀は成功しました。光が無くなったのは魔法の視覚効果のようなものだからです。結界は確実に張り巡らされています」


 フローラは仲間たちに言って、儀式の成功を伝えた。


 と、王都のあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。バンパイアたちは蝙蝠に変身して王都からの離脱を試みる。バンパイアたちは結界に激突して往生していたが、高位の吸血鬼たちが結界に穴をあけると、そこから逃げ出していった。



「これで全てが変わるとは思えない。現実問題として結界を全国の町に張り巡らせるのは不可能だろう」


 エイブラハムはコンラート大神官に言った。


「確かにその通りだ」大神官は答えた。「各東西南北の都には結界を張るとして、それ以外の町や村にはどう対処するかだが……」


「そうこうする間に被害は拡大していくだろうしな」


「そこは今後の課題となろう。至急会合の場を設けよう」


 大神官は言った。


 それから冒険者たちは報酬の十万マーネを受け取って、城を出た。



 都にて冒険者たちはカフェに入った。


「ベアトリクスを倒さない限り、吸血鬼はどんどん増えるぞ」


 エイブラハムは唸るように言った。


「だが奴の拠点が判明するまでは手の打ちようがない」


 エアハルトの言葉に一同沈黙する。


「まあ仕方ない。こればかりはどうしようもない。手の届かぬことに思案を巡らせても仕方あるまい」


 アルフレッドはそう言ってコーヒーカップに口をつけた。


「そのうちベアトリクスはどこかに拠点を構えるでしょう。一族を築いて生活を開始するはず。バンパイアが無限に増え続けることもないとは思いますが」


 ベルナールは言った。


「私もベルナールさんのようになると思いますね。一族を形成することに成功したベアトリクスは今のように表に出てくることもないでしょう」


 フローラが言うと、エメラインがまた口を開いた。


「吸血鬼との共存て、過去にも経験があるものなの?」


「ありますよ」フローラが答えた。「ベアトリクスの時代はもちろん、最近では私たちが倒したバンパイアキングの一族がいました。その生き残りも恐らくベアトリクスと合流するでしょう」


「そうなんだ……」


 王都には結界が張り巡らされたことでそのことが周知され、吸血鬼騒動はひとまず落ち着きを見せた。


 そうして、人々は無事に年を越すことが出来た。


 アルフレッドらも都内の高級レストランで新年を祝う。


「とにかくも、新たなる年に、乾杯!」


「乾杯!」


 一同グラスを打ち合わせた。


 運ばれて来る料理に冒険者たちは舌鼓を打ち、食事会は二時間ほどに及んだ。


 料理は一人五万マーネとなかなかの高値である。


 食事を堪能し、スタッフにチップを渡すと、冒険者たちは店を出た。


「なかなか腕のいいシェフの店だったな」


 エイブラハムは言って笑った。


「滅茶苦茶おいしかった! こんな味覚初体験、芸術ね!」


 エメラインは言ってはしゃいだものだった。

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