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第十四話

「レジェンダリーバンパイアが関わっているらしい。吸血鬼が言ったそうだ。ジルベール・ド・ベアトリクスと」


 エイブラハムは酒場に集まった仲間たちに言った。


「ベアトリクスって……伝説のバンパイア君主じゃないか」


 アルフレッドは憮然として言った。


「そうだ。俺たちが以前倒したバンパイアキングとは比較にならん化け物だ」


 エイブラハムは言ってビールのジョッキをあおった。


「また年末にとんでもないことになりましたね」


 ベルナールが言うと、エアハルトは応じた。


「全くだ。隣人が吸血鬼かも知れないとなると、パニックに発展するかも知れん」


「私たちもバンパイア狩りを行うべきでしょう」


 フローラが言うと、エメラインも頷いた。


「詳しいことはお城で聞けるみたいだから、私たちも協力すべきね」


「だが」と、エイブラハムは言った。「ベアトリクスはそう簡単に捕まる相手ではない。それに奴の直属の部下ともなるとそれだけでもかなりの強敵だろうな……こいつは厄介だぞ」


「とにかく行ってみましょう」


 フローラが一同を促す。冒険者たちは王城へ向かった。



 ウィンザレアの王城は大陸最大の巨城である。分厚く高い城壁が城を守る。平時は城壁の中への出入りは自由であり、冒険者たちは特に止められることなく城の敷地へ入ることが出来た。だが城の中枢へ至る門の前には衛兵の詰め所があり、厳しく立ち入りが制限されている。


 アルフレッドらは、吸血鬼の件で来たことを伝えると、屈強な衛兵二人が出てきて、冒険者たちを城内へ案内した。


 長大な列柱回廊から見える広大な庭園には水が引かれていて噴水があった。廊下では宮廷人と思しき貴族らとすれ違う。その都度衛兵は道を開けて敬礼をしていた。黄金の細工がふんだんに使用されており、天井から釣り下がっているシャンデリアには魔法の明かりが灯っていた。そうして城の中を進むこと十分ほど、冒険者たちは謁見の間に通された。


「では行くがいい。陛下に無礼の無いように」


 衛兵たちはそう言って戻って行った。


「国王との直々の対面か」


 アルフレッドは呟いた。


 そうして一同は謁見の間に入った。室内は広く、宮廷人や請願に訪れている民間人がいて、天井には光の周りを飛び交う天使たちが描かれている。壁や柱にも金細工が施されている。そのまま入ろうとすると、衛兵に呼び止められた。用向きを伝えると、「では名前が呼ばれるまで待ちなさい」そう言って衛兵は呼び出し人にアルフレッドらのことを伝えに行った。


 アルフレッドらは適当に周りの人々に紛れて、順番を待つことにした。


 待つこと一時間余り。


「冒険者エイブラハムとその一行! 陛下への謁見を許可する!」


 呼び出し人が大きな声でパーティを呼んだ。


「順番だ」エイブラハムは言って、壇上にいる国王の前に出ると、ひざまずいた。仲間たちもそれに倣う。


 国王グレアムは口を開いた。


「吸血鬼狩りに力を貸してくれるそうだな」


「はい。我々はそれなりに色んな事態に対処してきた冒険者です。ザカリー・グラッドストンと戦ったのは我々です。お役に立てるはずです」


 エイブラハムは答えた。グレアムは驚いた様子であった。


「何? グラッドストンと戦ったのはお前たちか」


「はっ、残念ながら取り逃がしましたが」


「ふむ、ではベアトリクスの脅威は知っていような」


「はい。伝説のバンパイアですから」


「よろしい。こちらの大神官コンラートから案内がある」


 すると、王の傍に控えていた大神官コンラートが壇上から下りてきた。コンラートは瓶を何本か持っていた。


「冒険者たち、これは聖水だ。ただの聖水ではない。私を筆頭に大神官クラスの僧侶たちが祝福を込めて作り上げた聖水だ。並の聖水ではベアトリクスの手下に通じぬかもしれぬが、この聖水は強力なアンデッドといえど触れればその肉体は崩壊するだろう。これをいわば踏み絵にして、バンパイアを見つけるのだ。発見したらその場で殺して構わん。目下のところ人海戦術で行っているから、お前たちにも案内役を付けよう」


 そうして、コンラートは僧侶を一人呼んだ。


「リナルド、この者たちを案内してやれ」


 リナルドはまだ若い僧侶のようだ。


「はい。冒険者のみなさん、よろしくお願いします」


「では早速だが始めてもらおう。よろしく頼んだぞ」


 グレアムは言って、冒険者たちの謁見は終了した。



 リナルドの案内で民間人の居住ブロックにやってきた冒険者たちは早速仕事に取り掛かった。一軒一軒端から人々に事情を説明して聖水を触らせる。


「しかし、こうも大々的にやっていては敵も察知してここから逃げ出してしまうのではないか」


 アルフレッドはこぼしたが、リナルドは頷いた。


「そうです。逃げ出してくれれば幸いなのです」


「ふむ……なるほど、そういう考え方もあるか」


 そうしてアルフレッドらはこの地道な仕事をこなしていく。そして。


 とある家の家族らに聖水を差し出したところ、これを拒否された。


「聖水でバンパイアが分かるなんて馬鹿馬鹿しい。そんなの迷信だろう」


 主の男が言った。家族は主の男に妻の女、そして娘が一人だった。


「いえいえ、これは特別な聖水です。触れるだけで結構です。それとも何か不安がおありですか?」


 リナルドの言葉に、主の男は「分かった」そう言って、聖水の瓶の口に触れた。すると肉が焦げる音がして、男の手がぼろぼろと崩れ始めた。


「おのれ!」


 男は念力でリナルドを吹っ飛ばす。


 エメラインがファイアボールを放ち、エアハルトとベルナールはライトニングボルトを放った。バンパイアはぼろぼろと崩れて灰になった。


 アルフレッドらは踏み込んだ。問答無用で妻と娘に切りかかる。妻のバンパイアは霧に変態して攻撃を回避した。


 娘は念動力でアルフレッドとエイブラハムを吹っ飛ばした。


「ホーリーレイ!」


 フローラが聖なる光線を放った。光線はバンパイアを貫通する。


 エメラインがマジックミサイルを放ち、アルフレッドは魔剣を投げつけた。縦に回転しながら飛来した魔剣は絶妙のコントロールでバンパイアの心臓を串刺しにした


。バンパイアたちは悲鳴を上げて灰となって崩れ去った。


「お見事です。さすがですね」リナルドがやってきた。「しかしこれは大変な作業だ」


 それから作業を進め、冒険者たちはバンパイアを五体ほど倒した。


「こいつは……王都のどこまで広がっているか見当もつかんぞ」


 エイブラハムは言って険しい顔だった。


 そうしてひとまず冒険者たちは最初のブロックを検査し終えた。発見したバンパイアは五十体近くに及んだ。その全てを殺した。


「おい、居住ブロックだけで幾つあるんだ」


 アルフレッドはリナルドに問うた。


「はっきりしたことは分かりません……数えたことなどありませんし……」


「参ったな」


「それじゃあ……すでに凄い数のバンパイアが王都に潜んでいるかもしれないわ」


 エメラインは言った。


「こいつは対処不能だぞ。バンパイアとの共同生活など」


 エアハルトの言葉にベルナールが応じる。


「ですが、とにかくもこの検査を全てのブロックに行うことで、バンパイアを撃退するしか手がないでしょう」


「そうですね」フローラが口を開く。「今はまず全てのブロックを検査するのが先決でしょう。スピードが大切です」


「だが」とエイブラハムが言った。「貴族たちの屋敷があるブロックは安全なのか。そして王城も。今となってはウィンザレアそのものが安全地帯とは言えんぞ」


「ひとまず大神官様のもとへ報告に行きましょう。他のブロックの検査結果も来ているかも知れません」


 リナルドの言葉に冒険者たちは頷く。

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