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第十三話

 パーティはそれから王都ウィンザレアへ移動し、年末を迎えることになる。盗賊ギルドの依頼を終えてから仕事はしていなかった。トレーニングを怠ることはなかったが。


 王都では連日のようにカウントダウンイベントが行われており、パーティはそれぞれ自由行動をとった。アルフレッドはエメラインとともにイベントを楽しんでいた。あちらこちらで歩行者天国が行われており、広場でも屋台が軒を連ね、嗅覚を刺激するグルメな匂いに満ちている。


 アルフレッドとエメラインはお好み焼きを購入して、外席に座った。


「今年もあとわずかか……色んなことがありすぎた一年だったわ」


 エメラインが言うとアルフレッドは頷いた。


「確かにな。エメラインにとっては激動の一年だったよな」


「うん……故郷を失ったかと思えば魔法使いになって、それがレ=ラ=マイラの一族だって判明して……そして冒険者になって……」そう言って、エメラインはお好み焼きを頬張った。「あ、これおいしい」


 アルフレッドもお好み焼きを食べてビールのジョッキに口をつけた。


「それにしても、あれからグラッドストンの話を聞かないが、奴はまた仕掛けてくるだろうな」


「ザカリー・グラッドストンか……私は黒衣の魔導士を見ていないけど、とんでもない奴よね。エイブラハムの一撃を素手で受け止めるとか」


「奴は必ず動く。尤も、奴にとって時間など意味をなさないのかも知れないが」


「ザカリー・グラッドストン……私もいつか相対する時が来るのかも」


「それにしても、次の仕事はどうするかな。みんなと話す必要があるが、営業マンのエイブラハムは大金狙いだからな」


 アルフレッドが苦笑すると、エメラインも同じように応じた。


「そうよね。エイブラハムは大金狙いだから」


 それから二人はお好み焼きを肴に雑談に興じた。一息つくと、二人はチケットをとっていたオペラハウスへ向かった。


 オペラではヒロインの演技に共感したエメラインが涙して、アルフレッドの手を握り締めていた。アルフレッドはエメラインが泣いているのを見てやや驚いた。オペラが終わると、一礼する劇団員たちにスタンディングオベーションが送られた。エメラインも拍手喝采を送った。アルフレッドも拍手を送る。


「お前泣いてたな」


「そうよ。もう涙腺が崩壊しちゃった」


「ちょっとびっくりしたよ」


「何でー? もうヒロインが可哀そうじゃん。泣けちゃうよー。アルフレッドには


分からないかなあ」


「全く」


「でもとにかく今日のオペラは最高だったわ。王都での公演に外れはないわね」


 そうしてオペラハウスを後にした二人は、雑踏の中へ消えていった。



 深夜。年末の王都は眠らない。まだ魔法の明かりは煌々と照っており、歩行者天国は人々で溢れ返っていた。教会の尖塔にベアトリクスは立っていて、眼下を見下ろしている。ベアトリクスは飛び立つ。このレジェンダリーバンパイアは空を飛び、王都の裏通りに着陸した。若い娘たち三人が黄色い声で笑いながら歩いていた。その前にベアトリクスは降り立つ。娘たちは、酔っていて、ベアトリクスに対して全くの無防備であった。


「なあにお兄さん? 私たちと遊びたいの?」


「お金持ってる? ご馳走してよ!」


 娘たちはベアトリクスに歩み寄った。


 ベアトリクスは手を持ち上げると、念力で娘たちを全員引き寄せた。


「な、何!? 何すんのよ! 魔法使いなの?」


 ベアトリクスは指を鳴らした。娘たちは声を出せなくなった。


 そして、ベアトリクスは三人の娘たちの首筋に噛み付き、血を吸収していく。


「ああ……忘れて久しい血の味が蘇る」


 ベアトリクスは歓喜に身を震わせた。


 一方、娘たちは恐怖で青ざめていた。しかし、ベアトリクスは言った。


「娘たちよ。お前たちは偉大なる不死の命を与えられたのだ。歓喜するがよい。余はレジェンダリーバンパイア・ベアトリクス。バンパイアの最高君主なり。数日もすればその力に目覚めるだろう」


 ベアトリクスは立ち去る前に娘たちの頭に手を触れ、巧妙にも血を吸われた記憶を消しておいた。そして、娘たちは地面に倒れて意識を失った。


 その日、ベアトリクスは次々と若い娘たちに襲い掛かり、数十人の血を吸った。


 数日もすれば娘たちは吸血鬼として目覚めることになる。レジェンダリーバンパイアから血を吸われた者は強力な力を手に入れることになるのだ。



 数日後、目覚めた娘たちは、吸血衝動に駆られて家族に襲い掛かった。ベアトリクスはテレパシーで目覚めた娘たちと念話し、密かに眷属を増やすために記憶の消去をするよう指示した。こうして更に人知れずバンパイアは増えていった。


 だが全員が密かに行動できたわけではない。同居人のいない娘は人目のある路上で夕刻に他人へ襲いかかり、騒ぎとなる。ここで襲われた者の首に吸血鬼の牙の痕が見つかり、初めて王都にバンパイアが潜んでいることが発覚する。


 国王グレアムは王都に触れを出し、バンパイア狩りを行う旨を都民に知らせたのである。

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