第十一話
それからしばらく、冒険者たちは南の都で羽を伸ばした。少し南に行けば海水浴場があり、海開きがされて冒険者たちも泳ぎに行った。
アルフレッドは海辺をのんびりと泳ぎ、海水浴を楽しんでいた。エメラインとフローラはビキニ姿でビーチチェアに身を横たえていた。エイブラハムは沖の方まで泳ぎに行っている。泳ぎから上がってきたエアハルトとベルナールはパラソルの下でカクテルを飲み交わしていた。
平和である。
ああ……やっぱり平和が一番だな。
アルフレッドは泳ぎながら胸の内に独りごちた。このために生きているようなもんだ。死ぬには若すぎるよ。アルフレッドはそうして海から上がった。
やがてエイブラハムも海から上がってくる。
男四人はパラソルからビーチを眺め、女性に目をやっていた。
「さてと……俺は今夜の相手でも見繕うとするか」
エイブラハムはビールを一杯飲んでからパラソルを後にする。
「私はすでに約束を取り付けてありますので」
ベルナールは言って笑った。
「しかしフローラはいつも見ているけど、エメラインも見事な体をしているな。若いっていいもんだ」
エアハルトは言ってスタイル抜群の女性陣二人に目を向けた。
「ああ。服を着ていると全く分からなかった。エメラインの奴」
アルフレッドは言って、ビールジョッキをあおった。
「アルフレッド、もしかして」
ベルナールはアルフレッドを見やる。
「惚れてしまいそうだな。誕生日が来て二十一歳になったっていうし。アタックしてみるか」
アルフレッドは視線をエメラインに送った。
その夜。アルフレッドはエメラインを誘って夜に開かれている海辺のキャンプファイアに向かった。若いカップルたちが炎を囲んでいちゃラブしている。エメラインは鼓動が高鳴るのを感じていた。
「アルフレッド……ここって」
と、アルフレッドはエメラインを抱き寄せると、優しくキスをした。エメラインはかすかに抵抗したが、やがてアルフレッドに身を委ねる。アルフレッドは唇を離すと、「向こうへ行こう」と、エメラインを木々が茂っている木立に誘った。エメラインは「うん……」とアルフレッドの腕に顔を寄せた。そして、二人は茂みに隠れていった。
「アルフレッド……駄目ね、私やっぱり……」
エメラインはアルフレッドを見上げる。
「エメライン姫殿下、わたくしアレックス、あなたのことを大事に思っています。この胸の高鳴りを抑えることはできません」
「何よそれ。姫殿下って」
「今この時は君にくびったけ」
おどけてみせるアレックスにエメラインは肩をすくめた。
「それで? 騎士アレックスよ、私の胸の内は知りたくないのか」
「もちろん、存じ上げたく思います」
「よろしい。では言おう。私の気持ちもそなたのそれと等しい」
「ありがたいお言葉、姫殿下」
そうして、アレックスはエメラインの手を取ると、彼女に身を寄せた。
翌朝、アルフレッドとエメラインはホテルから出てきた。エメラインはアルフレッドの腕にべったり自分の腕を絡めていた。あれからホテルに宿泊したのだ。
「朝飯食ってくか」
アルフレッドが言うと、エメラインは「うん」と頷いた。
二人は適当なカフェに入ると、モーニングを頼んで外席に座った。
エメラインはにやにやしていた。
アルフレッドは笑みを浮かべている。
「昨日は……最高だったね」
エメラインは言って、笑みをこぼしてくすくすと笑った。
アルフレッドは「何とも……」と笑みをこぼした。
そんなこんなで時を過ごしていた冒険者たちであったが、彼らの前に再び運命のコインが投げ落とされようとしていた。そこにはあの、黒衣の魔導士の影があった。