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第十話

 遺跡は都から馬で四日ほどの山の中だった。入口は湖畔近くの岩山の切れ目。


「松明がいるな」


 アルフレッドは松明を取り出そうとしたが、イヴァンナが「いらないわ」と言った。


「中は魔法の光で照らされてる」


 冒険者たちは迷宮に入って行く。中の通路はかなり広く、幅は三メートルはあった。


 彼らはすぐさま会敵することになる。


 壁の傍に立っていた武装した人造人間が三体、襲い掛かってくる。


「人造人間よ!」イヴァンが注意を喚起する。


 エイブラハムにアルフレッド、ベルナールが前進した。


 エアハルトはファイアボールを一発叩き込んだ。エメラインはライトニングボルトを撃ち込む。


 人造人間は声を上げることなく立ち向かってくる。ダメージが入っているかどうかも分からない。


 アルフレッドは人造人間の剣撃を弾き返すと、魔剣を敵に叩き込んだ。ガン! と鈍い音がして、人造人間の腕にひびが入ったが、切れなかった。


「何だと?」


 アルフレッドはやや驚いたが、魔剣に念を込めると、剣のオーラを引き出しそのまま撃ち込んでいく。だが人造人間は剣術もレベルが高く、アルフレッドの攻撃も跳ね返された。アルフレッドは十合ほど打ち合い、ようやく人造人間の腕を破壊した。


 ベルナールは打ち合いの末に、自らの魔法でエンチャントを魔法剣に付与すると、人造人間の首を跳ね飛ばした。


 エイブラハムは魔剣のオーラを引き出すとともにエアハルトから剣にエンチャントを貰って、ようやく人造人間の胴体を真っ二つにして倒した。


「こいつら、なかなか出来るな」


 エイブラハムは剣を下ろすと、その亡骸を見やる。


 人造人間は体表は人間の皮膚と変わらないように見えるが、内側は高度なからくり構造になっていた。


 それでも、イヴァンナは驚いていた。ここまで人造人間を圧倒した冒険者たちは初めてだった。


 冒険者たちは前進すると、鋼鉄の扉に突き当たった。


「ここからが遺跡の内部よ。油断しないで」イヴァンナは言って、観音開きの扉を押し開けた。


 冒険者たちは驚いた。


「これは……」


 明かりに照らされた通路が伸びているが、天井は水面であった。


「何で水が天井なんだ?」


 エイブラハムはイヴァンナに問うた。


「魔法の力のようね。ここは湖の真下なの」


「この水が落ちてきたら俺たちは溺死だぞ」


「それは大丈夫だと思うわ。今までの例から言っても水が落ちてきたことはないし」


 そうして用心しながらも冒険者たちは進む。


 続いて現れたのはクリーチャーだった。天井の水から落ちてきた。人型をしているが、頭部が異様に肥大化しており、鋭い爪を持っていた。数は四体。ざらざらした奇声を上げて、冒険者たちに襲い掛かってくる。


「フローラ、エアハルト、エメライン、強化魔法を頼むぞ!」


 エイブラハムは言って異形のモンスターに立ち向かう。


 アルフレッドにベルナールも魔法の助成を得て、このクリーチャーに相対した。


 と、クリーチャーは口から液体を吐き出した。


「何だっ」


 アルフレッドらはよけた。地面の岩が少し溶けた。


「今のを食らったらやばいぞ。気をつけろ!」


 エイブラハムは加速すると、クリーチャーの胴体を切り裂いた。悲鳴を上げる異形。


「お前には何もさせん」


 エイブラハムは言って、そのまま剣を跳ね上げ。クリーチャーの首を切り飛ばした。


 エメラインはマジックミサイルで援護射撃する。クリーチャーは苦痛に喚いた。アルフレッドは飛び上がると、魔剣をクリーチャーの顔に叩きつけた。魔剣はクリーチャーを真っ二つに切り裂いた。


 ベルナールは素早くクリーチャーの爪を回避し、魔法剣を打ち込んでいく。そして、自らエンチャントを付与し、クリーチャーの頭部を跳ね飛ばした。


 残る一体を、フローラが神霊光線を放って仕留める。


「強い……」


 イヴァンナはアルフレッドらの圧倒的パワーにびっくりしていた。


「この冒険者たちは……」


 それからも、冒険者たちは待ち受ける人造人間とクリーチャーの群れを倒していく。しかし、奥に進むにつれ、敵のレベルも上がっているとアルフレッドらは感じていた。スピードもパワーも、防御も確実に強くなっている。


 そして、広間に出た冒険者たちは、人造人間とクリーチャーの混合パーティと遭遇する。敵の数は八体。


「エメライン! エアハルト! ありったけのメテオを撃ち込んでやれ! ここでいったん補給する」


 エイブラハムは言った。


「了解した」


「分かりました!」


 エアハルトとエメラインは上位魔法ウルトラメテオを連射した。無数の岩弾がモンスターの群れに炸裂し、悲鳴が上がった。近い方にいたモンスターが壊滅する。


 エイブラハム、アルフレッド、ベルナールは突進した。


「主よ! 勇敢なる者たちを守り給え! 大いなる祝福を!」


 フローラは強力な祝福を三人に付与する。


 エアハルトにエメラインは残りの魔力を以てアルフレッドとエイブラハムの攻撃力を上げた。ベルナールも自らの魔法剣に強化魔法を付与する。


 アルフレッドは万力を込めて人造人間にクリティカルヒットを繰りだす。人造人間の腕は砕け、アルフレッドはそのまま頭部を破壊した。人造人間は倒れて動かなくなった。


 エイブラハムも同じ技を持っている。クリティカルヒットを繰り出すと、人造人間を叩き伏せた。


 ベルナールは自立行動できる炎の魔人と氷の魔人を召還すると、クリーチャーを攻撃させた。クリーチャーは魔人に液体を浴びせかけたが、精霊には通じなかった。魔人の吐息に焼かれ、凍てつく吹雪を浴びせかけられ、動けなくなったところをベルナールはその首を跳ね飛ばした。


 最後の人造人間を冒険者たちは集中攻撃で倒した。


「ふう……」


 アルフレッドは汗を拭った。


 イヴァンナは冒険者たちに声をかけた。


「こんな深いところまで来たのはあなたたちが初めてよ」


「そいつはどうも。だがいったん休みだ。心身ともに休憩がいる」


 エイブラハムが言うと、エアハルトが答えた。


「確かにな。少し疲れたな」


「というわけで、ここいらで休める場所を探そう」


 エイブラハムの言葉を受けて、彼らは少し後退し、壁の窪みになっているところで食事を取り魔力の補給をした。



 

 そうして、冒険者たちは休憩を終えると、また前進した。


 次々と現れる人造人間を倒して前進する。それが終わると、次はクリーチャーが連続で出現する。そうして傍若無人なまでに、さらに人造人間とクリーチャーがどんどん襲ってくる。冒険者たちはそれらを排し、通路の奥に到達した。再び観音扉である。


「この先は……何かしら。かなり深くまで来た」


 イヴァンナは言った。


「さて、この奥に何があるのでしょう」


 ベルナールが扉の向こうに霊眼を飛ばした。


 中にいたのは、五メートルはあろうかという巨人の人造人間だった。


「ラスボスかどうかは分かりませんが、これまでの敵とは違うでしょう」


 そこで、冒険者たちはいったん迷宮から離脱し、翌日また観音扉のところまでやってきた。


「よし、行くぞ」


 アルフレッドが先頭に立って扉を押し開けた。


 パーティ全員が入ったところで、巨人のファイアブレスが来た。全員激しく焼かれる。


 フローラがすぐさま回復魔法をかけ、冒険者たちもポーションを飲んだ。フローラは炎耐性の魔法をかけておく。


 それからエメラインとエアハルトは全員に高速飛行を付与する。


 冒険者たちは飛行状態に入ると、巨人を取り囲んだ。


 と、巨人の目から熱線が放たれる。巨人の頭は三百六十度回転し、冒険者たちを熱線で焼いた。


「主よ! 癒しの御手を!」


 フローラがまた回復魔法をかける。


 エアハルトとエメラインはメテオを連射する。さすがの巨人の胴体装甲にも穴が開く。からくりがむき出しになった。


 と、巨人は拳を持ち上げると、エアハルトとエメラインにロケットパンチを撃った。


「何!?」


 不意を突かれた魔法使い二人は直撃を食らって、壁に叩きつけられた。二人とも血を吐く。


 フローラが飛んで来た。回復魔法をかける。エアハルトもエメラインもポーションを飲んだ。


 巨人の腕には砲門のようなものが出てきた。


 エイブラハムにアルフレッドはクリティカルヒットを繰り出し、巨人の右腕を狙って注意をそらす。ベルナールは突撃雷獣を二体召還し、精霊を叩きつけた。雷獣が爆発する。


 そこで巨人は両腕の砲門をベルナールに向ける。ベルナールはとっさにバリアを張った。砲門が火を噴き、火炎弾がバリアを破壊する。ベルナールは少しダメージを受けた。ポーションを飲んで回復すると、瓶を投げ捨てた。


 エイブラハムにアルフレッドはエメラインとエアハルトに強化魔法を要請する。


「エメライン! 強化マックスでくれ!」


「分かりました!」


 エメラインはアルフレッドの魔剣にエンチャントを付与する。


「大いなるパワー、無敵の刃と化せ! 出でよ魔剣の王!」


 そしてエアハルトはエイブラハムに強化魔法を付与した。


 二人の戦士は高速旋回すると、巨人の傷跡に突撃した。


「こいつを食らえ!」


 アルフレッドとエイブラハムは巨人の胸に激突する。魔剣に念を込めオーラを引き出す。二人の魔剣は巨人の装甲を貫通した。


 巨人は咆哮し、滅茶苦茶に目から熱線を放った。魔法を使える四人はシールドを展開した。


 アルフレッドは上方に飛ぶと、頭に取り付き、魔剣で巨人の目を潰した。


 巨人は頭上のアルフレッドに砲門を向け、放った。


 ベルナールがすんでのところでアルフレッドにバリアを張った。バリアは破壊されたが、ダメージは軽減された。アルフレッドは回復ポーションを飲んだ。


 エイブラハムは貫通した剣をねじ込んで、巨人の動きを封じようとしていた。


 巨人はしぶとく暴れまわっている。


 アルフレッドはエメラインとエアハルトに再度エンチャントを要請した。


「エメライン! エアハルト! 奴の装甲をぶち抜いてやる! 何かエンチャントはないか!」


 エアハルトが選択したのは上位魔法であった。


「お前の体ごと鋼化するスティールドラゴンを撃つ! 奴の装甲を貫け!」言って、「エメライン! アルフレッドの一撃に魔力を集中させろ!」そう言って彼女を促した。


「はい!」


 エアハルトとエメライン立ち上がると、魔力を高める。二人の体からオーラが立ち上り、それが杖に集中されていく。


「行くぞアルフレッド! 放て! いざ敵を貫かん! 召霊! エンチャントスティールドラゴン!」


 二人の魔法使いの杖から放たれた鋼竜のオーラがアルフレッドを包み込む。


 アルフレッドは上空に舞うと、巨人目がけて加速した。魔剣のパワーを更に引き出す。


 そして。


 金属的な破砕音とともに、アルフレッドは巨人の胴体を槍となって貫通し、巨大な穴を開けた。


 アルフレッドは反転して巨人を見上げる。


「やったか……?」


 アルフレッドは巨人を見上げた。


 巨人の胸にはぽっかりと穴が開いている。


 一同震撼して、その様子を見守った。


 巨人は膝をつき、そして大地にその巨躯は崩れ落ちた。巨人は死んだ。


「てこずらせやがって……」


 アルフレッドは肩で息をした。


「やりましたね。お見事です」


 フローラは言って、エアハルトに微笑みかけた。


「やった……? やったわね」


 エメラインはアルフレッドに駆け寄り、「やったねアルフレッド!」とその肩に手を置いた。そのエメラインを抱き寄せると、アルフレッドは彼女に激しくキスをした。


「……!?」


 エメラインは頭が真っ白になった。え? え?


 やがてアルフレッドはエメラインをゆっくり離した。アルフレッドは笑っていた。


「キスしちまった」


「な……馬鹿!」


 エメラインは顔を真っ赤にして怒った。


「あれアルフレッド、お前そりゃ犯罪だぜ」


 エイブラハムはにやにやしていた。


「エメラインはこれでも二十歳だ。なあ?」


「もう! 知らない!」


 エメラインはぷんぷんしてその場から離れると、巨人の亡骸を見に行った。


 ベルナールが人造人間の巨人だったものを観察していた。


「このからくりは凄い作りですね。ロンゴレラというのは高度な知識を持っていたのでしょう」


「アルフレッドの奴、私にいきなりキスしたの。どう思うベルナールさん」


「あなたはどうなんですか?」


 ベルナールは問うた。エメラインはまた顔が赤くなった。


「別に……アルフレッドは嫌いじゃないけど……」


「では好きなんですね?」


「だ、だからそうじゃなくて! もう、ベルナールさんも私のことからかって!」


「まあ、時間が経てばいい思い出になりますよ」


 ベルナールは言って笑った。


 ずっと様子を見ていたイヴァンナは、ようやく姿を現した。イヴァンナは冒険者たちに拍手を送った。


「お見事ね。さすがだわ。想像以上ね。イェレミアスも喜ぶわ」


「まあまあだったな」


 エイブラハムは言った。


「で、プリンスオブシーフとやらはどうするんだ」


「後のことはこちらで処理するわ」


「そうか。では帰るとするか。都へ凱旋報告だ」


 そうして、冒険者たちは迷宮から離脱し、テレポートで南の都まで瞬間移動した。



 ゴールデンライオンに戦勝報告にやってきた冒険者たちはイェレミアスと再び対面した。イヴァンナが詳細を報告し、イェレミアスは手を打った。


「よくやってくれた! まさかラスボスまで倒すとはなあ。お前たちの名前は忘れないぜ」


「報酬を貰おうか」


 エイブラハムは言った。


「もちろんだ」


 すると、イェレミアスは部下に命じて報酬を持ってこさせた。


「確かに」


 それを受取ったエイブラハムは頷いた。


 そうして、一同は盗賊ギルドを後にする。


「今日は打ち上げと行くか」


 エイブラハムは言った。


「いいね」


 エアハルトも応じる。


「よし行こう」


 アルフレッドは言って、エメラインを見やる。


「お前まだ怒ってる?」


「べ、別に、もう怒ってないけど」


「そいつは良かった」


 アルフレッドは笑った。エメラインは憮然として「怒ってなかったらどうだっていうのよ」とぼやいた。


 その夜、冒険者たちは焼き肉専門店で打ち上げをした。五万マーネは使った。贅沢な焼肉パーティーであった。

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