ナオト君の話
私は同年代の異性に全くモテないが、なぜかたまに、幼い男児から好意のようなものを、寄せられることがある。その一人がナオト君だ。
彼が五歳の頃、「どうしても私に渡したい」と言って、くれた物がある。それは名刺大のカードだった。どうやら、とある写真スタジオで、七五三の写真を撮ると、オプションで付いてくる物らしかった。
「あげる」と目を逸らしながら、カードを渡してくれたナオト君の可愛さは今でも思い出せる。
それだけなら、甘酸っぱい、いい話なのだが、そのカードの写真に私は引っかかっている。
ナオト君母の話によると、そのスタジオでは、子どもが自由に衣装を選べるという。衣装もめちゃくちゃたくさんあるそうだ。そんな数ある衣装の中から、ナオト君が選んだのは、真っ赤なタキシードだった。
「え? それ……?」と、ナオト君母は思ったらしいが、息子の意思を尊重した。そして次に小道具を選ぶ。数ある小道具の中から、ナオト君が選んだのは、音楽記号の、ヘ音記号に似たステッキだった。
ナオト君母は、またしても「何でそれ……」と思う。
いざ撮影。ナオト君は繊細なところがあるので、にっこりとは笑わず写真に収まった。
「なんか、マジシャンみたいになって……」
ナオト君母は、カードを受け取った私に言った。
確かに。耳が大きくなるマジックをネタにしている、某マジシャンみたいに見えた。
そのカードを私は今も大切にしている。
次々といろんな思い出の人を紹介してしまいました……
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。