白銀の騎士
衝撃的なニュースだ。僕が魔法使いの子孫!? 正確には『業魔』らしいけど。どっちだっていい。魔法を習得するためにあれこれ試さなくてもよくなったんだ。
旅の支度をするにあたって、母上は馬車一台分の大荷物を用意してきた。僕個人としては身軽な方がよかったし、母上には悪いけど断った。自分の足で歩いて、世界を見て回る。これも楽しみの一つだったから。
父上は予想に反して、過保護ってわけでもなかった。
「お前のために護衛を選んでおいたぞ。武芸に秀で、知性にあふれる騎士だ。こんな逸材は百年に一人と言ってもいい」
護衛をつけたがるだろうとは予想していたけど、まさか一人だけだとは思わなかった。
僕自身には、身を守る術が皆無と言っていいほどない。剣術は習っていたけど、慣習でしていたようなものだ。狩りで使うボウガンだって、決して腕がいいとは言えない。
曲がりなりにも王族だし、否が応でも僕の命や身柄を狙う人間がいるだろう。そんな連中から身を守るのに、騎士が一人だけ? いくら腕利きでも、ちょっと不安だなあ。
「今日からエインズ王子の護衛の任に就く、ルテア・フベルフェンだ。」
美しく整った中性的な顔立ち。灰色の長髪に、澄んだ水色の瞳。ルテアは絵に描いたような容姿の持ち主だった。
「えーと、よろしく。その、ルテアさん」
挨拶を返しても、ルテアはどこかふてぶてしい。
これが『白銀の騎士』なのか? 僕は父上の言葉を思い返す。
父上は『お前につけた護衛こそ、白銀の騎士で間違いない』と自信たっぷりに言っていた。
「なぜだ」
ルテアは鋭い目つきでこちらを睨んだ。
「え、なにが?」
「なぜ私が、お前のような子供のお守りをせねばならん」
聞き間違いだろうか? 今、ものすごく失礼なことを言われた気がするんだけど……。
「それ、僕に言ってる?」
「当たり前だ。お前以外に誰がいる」
王子に向かってお前呼ばわりする上に、子供のお守りとは。
こんな礼儀知らずな騎士と旅をするなんて、考えられない。別に不敬だからといって打ち首に処したりはしないけれど、僕だって王子だ。譲れない矜持ってのがある。
「あのさ、これから長い間、一緒にいなくちゃならないんだ。もう少し丁寧な言葉遣いとか、できない?」
「はあ? なぜだ。年下の人間に向かって、なぜ私がへりくだらねばいけないのだ」
「君、僕の身分、知ってる?」
「お前こそ、さっき私が言った一言目を覚えているか?」
一言目? 自己紹介のセリフか?
「そこで言っただろう。エインズ王子の護衛の任に就く、と。もう忘れたのか?」
どうしてなんだ、父上! どうしてこいつなんだ! もっと他にマシな奴はいくらでもいただろう!
待て、冷静になるんだ、エインズ。何も僕が引け目を感じることはない。堂々としていればいいんだ。こいつは所詮、僕の護衛。僕の命令には逆らえないはずだ。
「それじゃあ、ルテア。最初はオルムって村に行こうと思ってるんだ。先導してもらえるかな?」
「オルムだと? そんな村は知らん。私はお前の後をついていくだけだ。好きにしろ」
なんて無礼で可愛げのない男なんだ。
――ん? 待てよ。そもそもこいつは男なのか? 勝手に男だと思い込んでいたけど、外見からは全く判別がつかない。そればかりか、声まで中性的だ。
「ねえ、一つ気になったんだけど……」
「その先を言ってみろ。今すぐお前の両腕を切り落として、父親のもとに送り返してやるからな」
おっかねえ。こっちが何を聞こうとしたか、察知したんだ。
性別について聞くのはタブーってことだな。メモしておこう……。
さて、村までの道順も案内してもらえないとなれば、もう自分で調べるしかないな。荷物の中に母上が地図を入れてくれていたはずだ。それを見て、自力で行こう。
「おい」
「なに? ルテア」
「何か勘違いしているようだから言っておくが、私は王国に仕える騎士ではない。雇われただけの傭兵だ。国にも王にも、忠誠心など微塵もない。肝に銘じておけ」
「わ、わかったよ」
高圧的な態度はそれが理由か。合点がいったよ。
そうだな、僕も気持ちを改めよう。外に出てからは王子として振る舞うんじゃなく、一人の市民として旅をするんだ。
城の中にいたら、いつでもどこでも王子としての振る舞いを求められた。それはそれでいい面もあったけど、窮屈な思いをすることの方が多かった。その点、城の外で僕の顔を知る人間は数少ない。心機一転、新鮮な気持ちで旅ができるんじゃないだろうか。
「ルテア」
「なんだ、まだ何か用か」
「僕からも言っておくよ。これからは王子として接するんじゃなくて、普通の一般市民として扱ってほしいんだ」
「おかしなことを言うやつだな。お前はただの護衛対象だ。はなから王子でも何でもない」
う……。そうだった。わざわざ言うまでもなかった。
個人的には前途多難だけど、こうして僕とルテアの二人旅は幕を開けたのだった。
小説のタイトルを変更しました。




