決闘の幕引き
剣と剣による壮絶な打ち合いは、周囲の空気をビリビリと震わせるほどだった。両者とも魔力の帯びた剣を使っているので、刀身がぶつかり合うたびに火花が散り、電撃が走ったかのような音が響き渡る。
客席からは歓声ではなく、恐怖の色に染まったどよめきが上がっている。しかし、人の姿をした悪魔たちに、そんなことは関係ない。
ひとしきり剣をぶん回した両者は、ひときわ大きい衝突の後で示し合わせたかのようにパッと距離をとった。
『どうしたの?』
「ちょっと息が切れただけや。借り物の体が素直に言うこと聞かへんなってきたん、あっちも気がついたんやろ」
『言うことを聞かない? 僕の体を動かしてるのはゼヴでしょ?』
「元の自分の体とは全くの別モンや。魔法の負荷に耐えられるだけの作りやないってことやな」
見ているだけでも、魔法によって強化された技の応酬は凄まじい威力だとわかる。それがたとえ、軽い剣の一振りであってもだ。
プラントンがさっと空いた手を前にかざす。
「体が動いてくれんとわかったから、遠距離にシフトする気や」
プラントンの手から放たれたのは、黒く禍々しい靄を纏った球体だった。人の頭ほどの大きさのそれは、矢のような勢いでこちらへ向かってくる。
数発の黒い球の一発目が真正面に来たので、ゼヴは体をそらせて避けた。続く二発目は、空に飛翔して回避する。
宙を舞った状態では体を動かしての回避ができず、こちらを追うように飛んできた三発目は間近まで接近してきた。
「ミカ・エラ!」
ゼヴが叫ぶのとほぼ同時に、黒い球に掴みかかるようにかざした手から、同じような黒い球が出現する。
球同士がぶつかり、目の前で大きな爆発が起きる。
爆風でバランスを失ったゼヴだったが、落下の最中に立て直し、なんとか着地に成功した。
あれがもろに直撃していたら……。想像するだけで身の毛もよだつ。
何もないところから、あんな異次元の攻撃を繰り出すなんて、前代未聞だ。
「来よるで!」
『わかっておりますわ!』
四発目だ。五発目も、ほぼ並進してきている。
ゼヴが先行する四発目を切り伏せたが、球体はまたしても爆発を起こして消滅した。
――五発目が見えない!
そう思ったのも束の間、僕の右肩から、なんともう一本の腕が生えてきた。
その腕は半分透けていたが、飛んできた黒い球を直接握りつぶした。
「なんや、アンタ、実体化できるんやんか」
ゼヴが言うと、ミカ・エラは『誰かと一緒にしないでくださいます?』と返した。
実体化? 今のが、ミカ・エラの体の一部なんだろうか。
「……二人か。力を完全に取り戻していないというのに、道理で強いわけだ」
プラントンに取り憑いた何者かが呟く。
「手の内、明かしてしもたな。ほんなら、今度はこっちの反撃タイムといくで!」
息巻くゼヴ。
しかし、プラントンはまるで意識を失ったかのように、ばったりとその場に倒れこんだ。
「なんや? 死んだふりのつもりかいな」
ゼヴの声にも反応がない。
『さっきまで感じられていた気配がありませんわ。もう彼の中にいないのではなくて?』
「なんやて!? そんなこと可能なんかいな。近くに乗り移れる対象があらへんかったら、魂だけの移動はできひんはずやろ」
ミカ・エラの言葉を聞いて、ゼヴは驚いた様子を見せる。
ビックリするのはいいんだけど、僕の体を使ってオーバーリアクションしないでほしいな……。なんというか、キャラが崩壊するでしょ。
『そうですわね。近くにあったものに移動したのでしたら、そちらから気配が感じられるはずですし……。まだ不安定な状態で、自身の気配を完全に隠しきるのは至難の業ですわ』
「じゃあ、なんやいうねん。アイツはどこ行ったんや!?」
動揺するゼヴたちをよそに、突如倒れたプラントンに駆け寄る親族や救護兵たち。
彼の体を支配していた者の行方はわからずじまいだが、エインズ王子としては、とりあえずプラントン王に勝利したということでいいのだろうか。
両陣営に困惑した空気が流れたまま、決闘は幕を下ろしたのだった。




