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戦いの第二幕

『さ、いくで』


 体の操舵権をゼヴに奪われた僕は、自分の目を借りてプラントンを見据えた。変な言い方だけど、実際の話だ。


 プラントンの様子には別段、大きな変化は見られない。僕がゼヴやミカ・エラから力を借り受けているときも、身体的変化は起こらないので、見た目には判別できないのだろう。ただ、ゼヴたちからしてみれば、魔力を有しているということははっきりと感じられるみたいだった。


 常人ならざるスピードで一気にプラントンとの距離を詰め、横薙ぎの一閃を放つ僕。


 他人事みたいに聞こえるのは、僕が僕じゃないからだ。


 剣のリーチ的に考えて、もう一歩踏み込まなければ届かないはずが、切っ先から放たれた鋭利な衝撃波によって間接的な攻撃を可能にしている。


 最初、プラントンは余裕の表情を浮かべていた。僕の剣が届かないことをわかっていたからだろう。


 が、次の瞬間、何かに弾かれたみたいに空高く飛び上がった。


 僕はそのときの彼の顔が、何かに驚いているようにしか見えなかった。


 無論、こちらが悪魔の存在に気がついているということは、あちらも同様と考えられる。僕が悪魔の力を借りて攻撃の手を加えてくるだろう未来は予見できていたはずだ。


 それなのに、僕が放った衝撃波を見て、彼は目を丸くしていた。


 自分も魔法が使えるなら、それを行使して対処すれば事なきを得られるというのに。


 ……プラントンは何に驚いていた? 僕がこんなにも目に見える形で魔法を使ってくるとは思わなかったとか? いや、お互いに背負うものが大きすぎる戦いで、持てる力の全ても出さないだなんて思えるだろうか。


 ふらつきながら地面に着地したプラントンは、呆けた様子で空を見上げている。


『ゼヴ、なんか様子がおかしいよ』


 明らかにプラントンは、状況を呑み込めていないようだった。


『そうやな……。自分の身に何が起きてるんか、わかってないみたいや』


『もしかして、プラントンは悪魔を宿してる自覚がない……?』


『それはあり得るな。体に侵入した悪魔と意思疎通ができてないまま、一方的に助けられてるんかもしれん』


 彼の中の悪魔は、まだプラントンと話したことすらないのか。はたまた、力を貸そうと申し出たが、高尚なプライドを持つプラントンに断られたか。


 僕の体を借りたゼヴは、半ば放心状態のプラントンに向かって、今度は手の平から空気の塊を飛ばした。


 砲弾のごとき勢いで放たれた不可視の攻撃を、またしても彼は容易く避けて見せる。剣の間合いに入っていなかった僕には、まったくと言っていいほど意識を向けていなかったにも関わらず。


『やっぱり、自分の身に起こってることの自覚がないみたいや』


 今の行動で、ゼヴもそう判断したようだ。


『こういう場合は、どうしたらいいのかな?』


『どうもこうもあらへん。戦わへんかったら、こっちがやられてまうだけやで? それともなんや、本人に自覚がないから、ノーコンテストにでもしようっちゅうんか?』


 現実的に考えて、無効試合にするのは不可能だろう。ここにいるのは僕らだけではない。モーバリウスの重鎮たちが雁首揃えて見物しているのだ。相手がプラントン本人じゃないと説得するわけにもいかない。


 幸い、ゼヴの放った魔法攻撃は衝撃波を飛ばすものだけだったので、周囲の人間の関心を引くほどではなかったみたいだ。魔法を使える人間がいるだなんて、あまりに突拍子もない話なので、ちょっとやそっとのことでは疑いそうにもないが。


『ゼヴ。たしかにわたくしたちは戦わなければいけませんわ。ですけれど、わたくし、気になりますの。あの中に巣食っている悪魔の正体がなんなのか。確かめる必要があるのではなくて?』


 ミカ・エラが口を挟む。


 それは僕も気になるところだ。ゼヴやミカ・エラの仲間という可能性もある。二人もできれば同士討ちは避けたいんじゃないのか。


『それもそうやけど、無理やり引っぺがすとなると、ちっとばかし骨が折れるで』


『放っておいたら、同化してしまうかもしれませんわよ』


 ど、同化? それはどういう……?


『あの王さんの体を、完全に乗っ取ってしまう、っちゅうことやな』


 僕の疑問に答えたゼヴは唸り声を上げた。


 何やら考え込んでいるようだけど、僕としては今の発言、聞き捨てならないぞ。その気になれば、僕の体だって簡単に乗っ取れるって意味じゃないのか?


『心配ありませんわ。だってあなたの体には、別の人間が二人もいるのですもの。片方が乗っ取ろうとすれば、確実にもう片方が反発するはずですわ』


 ……ある意味、僕は幸運だったのかもしれない。ミカ・エラのセリフを聞いた僕は安心したが、手放しで喜んではいけない気もした。

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