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話し合いの行方

『ちょっと下手に出すぎとちゃうんか。完璧になめられてしもとるで』


 僕とプラントンの会話に、ゼヴが脳内で口を挟む。


『わかってるけど、刺激したくないんだ。従兄は結構怒りっぽいからさ』


 プラントンをよく知っているからこその作戦だったが、事はそう上手くは運ばない。


 下手に出れば出るほど、彼が付け上がっていくのが手に取るようにわかる。


 だからって、今さら方向転換して強気に出てどうなるものでもない。


 こうなったら、とことん下手に出よう。情に訴えかけて、泣き落としにかかるんだ。


「どうしても戦争をしたくないんだ。僕も限界なんだよ。父上も命を落としそうになるし……」


 この一言に、プリスダット陣営の椅子が揺れた。言ってはいけないセリフだと、誰もが知っているからだ。


「ガスティノ王が? それで、助かったのか?」


 差し詰めプラントンが送り込んだ刺客であることはわかりきったこと。彼の食いつきようを見れば一目瞭然だ。


「なんとかね……。だけど、もう長くはない。じきに僕が後を継ぐことになる」


「それは大変な思いをしたのだな」


 とても差し向けた人間が言うような言葉ではなかったが、僕が怒りを覚えることはなかった。もはやそれを通り越して、呆れかえる思いだった。


『そんなこと言うてもムダやろ。わかってんのとちゃうんか』


『いいから黙ってて』


 ゼヴの横槍を制して、僕はプラントンに意識を集中する。


「本当に大変だよ。まだこの事実は国の中でもごく一部しか知らない。君に打ち明けるのは、まだ君の中にほんの少しでも良心があると信じてだ」


「……それで?」


「もうやめにしよう。君が一言、やめると言ってくれればいいんだ。それで全て終わる」


「無理だと言ったら?」


「どうしても戦うというなら、犠牲は最小限で済ませたい。僕と一騎打ちをするんだ。王と、これから王になるであろう人間との一騎打ち。国の命運を賭けた仕合だ」


 もう一押ししたかったが、言葉が出てこなかった。


 彼はプライドの高い人間だ。決闘を申し込まれて、断れるはずがない。それも、国を統べる者同士の誇り高き戦いだ。


 普通に考えたら、いかにも敗色濃厚な雰囲気を出している相手に、五分の勝負を挑まれて受ける馬鹿はいない。


 けど、相手はプラントンだ。彼の性格はよく知っている。


 モーバリウスの王は、即答しなかった。


 これでも、一国を背負っているという自負があるのか。


「貴様が負けたらどうする?」


「僕が負けたら、プリスダットは君のものだ」


「オレが負けたら?」


「戦争の終結を約束してほしい」


「それだけでいいのか?」


「ああ、それだけでいい」


 乗ってくる。彼は必ず、挑戦を受ける。


『断られたらどうすんねん。門前払いされてへんだけでも儲けもんやで? これで追い出されたら、身内の不幸を報告しに来ただけになってまうやん』


『断られたって、やることはわかってるでしょ? ただ、一騎打ちなら倒す相手は一人でいい。他の誰も傷つかずに済むんだ』


『まあ、そう言われたらそうやな。つまり、相手の返事を聞く必要は初めからあらへんかったっちゅうことか』


『そういうこと』


 申し訳ないが、遅かれ早かれプラントンにはやられてもらう。


 一騎打ちを申し込んだのは、ある意味、彼の尊厳を守るチャンスを与えたということかもしれない。……結果を考えれば、そんなこともないか。


「いいだろう」


 考えあぐねた末、プラントンが出した結論はそれだった。


『戦争、終わってまうで』


 プラントンの耳には聞こえない忠告をゼヴがするので、僕は思わず吹き出しそうになった。

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