再び旅路へ
結論から言うと、僕は王にならなかった。
父上は死んでいないのだ。僕が即位すれば、暗殺者を送り込んだ何者かに企みの成功を知らせるようなものだろう。
それに、モーバリウス王国とのゴタゴタも、僕がある程度自由に動けるうちに解決してしまいたかった。恐らくは僕に関係あるであろう問題を、王になったからと別の誰かに丸投げしてしまうのはよくないと思う。
ただし、残された時間は多くない。考えたくはないが、父上はかろうじて生きている状態だ。いつ死んでもおかしくない。そうなったら、僕は強制的に即位させられてしまう。しばらくは王としての仕事を覚えて果たすため、国から出ることさえ、ままならなくなってしまうだろう。
物事の優先順位を決めなければ。
幸いにも、内政に関しては母上やオースティンといった心強い身内がいる。僕はそっちの方面じゃからっきしなので、即位したとしても当面の間は頼ることになるだろう。
では、目を向けるべきは何か。決まっている。モーバリウスの、とりわけプラントンに関する問題だ。いつまでも隣国と戦争状態にあるというのが芳しくないことくらい、僕にだってわかる。加えて、解決できるのが自分しかいないことも。
オースティンにそのことを話すと、彼は戦の用意をするのかと訊いてきた。
対して僕が武力を行使するのは最終手段だと返すと、彼は目尻にしわを作って「よきご判断かと」と言った。戦争は誰もが望まない方法だ。
では、どうするか。その問いに対しても、僕は自分自身の中で答えが出ていた。
「直談判しに行く」
危険は承知の上である。そう付け加えずとも、オースティンには伝わっているようだった。
ただし、これは内緒の話だが、今の僕に危険の二文字は当てはまらない。むしろ、こっちが無防備だからと刃を向けてきた場合、相手の安全のほうが保証しかねる。そうならないことを願うばかりだ。
モーバリウスへの出立に際して、僕は護衛にルテア、ミラス、パルマの三人を選んだ。一度はともに旅をした仲間だし、万が一、奇襲を受けた場合でも、三人にはゼヴやミカ・エラについて話しておくつもりだったので、魔法も使いやすい。
ということで、僕は招集に応じてくれた三人に件の悪魔について打ち明けた。
真偽を問われたときに備えてゼヴにも協力を仰いでおいたのだが、意外にも全員、あっさりと信じてくれたみたいだった。
そもそもルテアは、赤錆傭兵団時代にレンとは仲間だったらしく、彼の異常な強さについてよく知っているらしかった。その猛者相手に僕が渡り合ったというのだから、何らかの原因があるのではないかと勘繰っていたらしい。彼女の予想は的中したわけだ。
ミラスに関しては、僕に疑いの目を向ける理由が特にないということで、信じるという結論に至ったのだという。なんとも不思議な理由だが、信用してくれるならそれに越したことはないと思う。
パルマは――、「へー、すごいねー」とだけ言っていた。信じたというより、無関心に近いかもしれない。ぶっちゃけ、彼女は何を考えているのか予想がつかない。まあ、仮に反旗を翻したとて、今の僕にはさして影響もないので、傍に置いておくことにした。国に残すほうが危険なんじゃないかという予感もしたからだ。
こうして、またまた奇妙なパーティを組んだ僕たちは再びプリスダットの地を離れ、国境を越えてモーバリウスへの旅路へと乗り出したのだった。




