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集合

 遺跡を出ようとしたところで、僕は後ろから声をかけられた。


「レンは――あの男はどうした?」


 声の主はルテアだった。


 僕の体に感覚が戻ってくる。どうやら、ゼヴが操縦権を返してくれたみたいだ。


「ルテア! 無事でよかった。レンなら、たぶん外にいると思う。君は? どこにいたの?」


 見た感じ、彼女に大きな怪我はないみたいに見える。鎧の傷が増えている気がしないでもないが、数多の戦場を潜り抜けてきた彼女の装備は、手入れが行き届いてはいるものの傷まみれだったので、判別はできない。


「戦ったのか?」


 いつも無表情に近い彼女にしては、大きなリアクションだった。信じられないといった様子だ。


「うん、まあ、そんなところかな」


 変にお茶を濁したので、ルテアの疑念はますます膨らんだようだったが、それ以上は追及してこなかった。


「とりあえず、お前も無事で何よりだ。私はあいつの一撃を食らって気を失っていた。恥ずかしい話だ」


 レンの放つ魔法の攻撃だろうか。あれをまともに受ければ、常人ならただでは済まないところだ。


「変な技を使ってこなかった? その……、火を放ってくるとか……」


「火? 知らないな。だが、あの男は危険だ。お前一人でなど、到底敵わぬ相手だと思っていたが」


 そう思うのも無理はない。ルテアは今の僕の身に起きていることを知らないのだから。


 ただ、レンは彼女に対してあからさまに魔法を使うということはしていないようだ。正体を明かすことを嫌っているのかもしれない。


「そうだね。運が良かっただけだと思う。けど、外に出たら僕が相手をするよ。ルテアは下がっててほしいんだ」


 いかにも彼女が嫌がりそうなセリフだが、敵が容赦なく魔法を使用してきたときのことを考えれば致し方ない。


「何か策があるのか? 私でも苦戦するような相手だぞ。お前が勝てる見込みがあるわけなかろう」


 そうくると思った。だけど、今ここで彼女を説得している暇はない。外にはミラスもいるのだ。パルマがついているとはいえ、それすら安心材料にはならない。


「とにかく、後ろに下がってて。できたら、ミラスとパルマを守ってほしい。パルマも今は味方のはずだから」


 不満げな視線を向けながらも、ルテアは答えを返さないことで意を示した。


『いいよ、ゼヴ。お願い』


『おっしゃ、待っとったで』


 ゼヴに支配された体が一人でに歩みを進め始める。


 後ろにルテアを連れて、僕は外に出た。



◇  ◇  ◇



 遺跡の入り口前にある開けた場所に出ても、レンの姿は見当たらなかった。


「エインズ! ルテアも!」


 そこら中に響き渡るような歓喜の声を上げて駆け寄ってきたのはミラスだ。


「ミラス、僕たちの前に、男が出てこなかった? 細身で背の高い、変わった剣を持った人なんだけど」


 その質問に答えたのは、ミラスの後ろから歩いてきたパルマだった。


「見た見たー。すごい勢いで吹き飛んできてさ、立ち上がったと思ったら、こっち見てフッて笑ってさ、どっか行っちゃったよ。気持ち悪かったな~」


 ……どこかに行った?


『ゼヴ、どういうことだと思う?』


『さあな。諦めたわけやないやろから、出直してくるつもりやろな。さすがにジェルド二人を相手にすんのは分が悪いと踏んだんちゃうか』


 それならいいんだけど。僕の体に二人の悪魔が潜み続けている以上、戦っても数的有利は恒久的に変わらない。つまり、不利だと思うなら襲ってくる心配はなくなるということだ。


「……僕たちも帰ろうか」


 そう言うと、三人は個々に違う反応を見せた。


 ルテアは、どこか腑に落ちないといった様子。


 ミラスは、嬉しい反面、表情に陰りがある。アムリボーを失った感情だろうか。もの悲しさが見て取れる。


 パルマは、これが一番わかりやすいが、「おなか減ったー」と言っていた。


 今回の旅で得たものはいろいろとあるが、代わりに失ったものもあった。旅の目的地だったルーテルムダークに到着し、形はどうあれ、伝承の通りの『業魔』の力を手に入れたのだ。


 アムリボーの死をなかったことにはできないが、彼がいたからこそ、ここまでたどり着けたのだと思う。


 パルマという仲間(?)も新たに加わり、レンという強敵も現れた。


 ゼヴやミカ・エラの話は、三人にもしておかなければならないだろう。そして、この海の向こうからやって来たという二人にも、いろいろと聞きたいことがある。


 でも、今は帰ろう。話をするのは、帰って体を休めてからだ。


 なんだか、ひどく疲れた気がする。いや、気のせいじゃないか。油断すれば、気が遠のいていきそうだ。


 王子と騎士と奴隷商と刺客という奇妙な四人組は、こうしてルーテルムダークの地を後にしたのだった。

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