魔法を使う種族
『どんなもんや』
ゼヴは自慢げに言ったが、心なしか元気がないように聞こえる。
『少し力を使いすぎましたわね』
ミカ・エラも、いつもの気丈な物言いに覇気が感じられない。
間違いなく、二人とも疲弊していた。
『せやけど、この程度でくたばるような相手やない。この体、もうちょっとだけ借りるで』
あんなド迫力の戦闘を特等席で見た側にしたら、今からステージに立てと言われるほうがイヤだ。
『せっかくやから、わしらのこともちょっと話しとくわ。あの長髪野郎にいろいろバラされてもたことやしな。ええやろ、ミカ・エラ』
『反対したところで、わたくしに止める術はありませんわ』
……それはつまり、反対って意味だよね?
お構いなしにゼヴは話し始める。
『わしらのおった大陸――わしらはメノアと呼んどるんやけど――そこにはな、大きく分けて4つの種類の人間がおるんや。1つはセディア人。古代セディア人の血を引く、魔法が使える種族や。次に、ジェルド族。これも魔法が使える。ただ、セディア人の使うもんとは性質が違うけどな。わしやミカ・エラもこれや』
この2つは、レンの口からも聞いた名前だ。
『他のはどっちも魔法を使う能力はない。ノーレリア人と、グルシナ人や。やから、魔法が使えるってなった時点で、この世じゃセディアかジェルド、どっちかの可能性があるっちゅうことやな』
だからレンは僕にそれを訊いてきたんだ。まあ、僕自身はそのどれでもない、プリスダット人なんだけど。
『あのレンって人は、セディアなの? ゼヴがさっきそう言ってたけど……』
『恐らくな。まだ確証はあらへん』
どういう違いがあるのだろうか。魔法って言うからには、思い通りのことが何でもできそうなイメージだけど……。
『2つの魔法は本質が違いますの』
ここでミカ・エラが口を挟んできた。
『セディア人の使う魔法は、古くに神が分け与えたとされる神力の下位互換ですわ。体から導気と呼ばれる気を放って、それに様々な効果を付与しますの』
……なんだか難しい話になって来たぞ。つまり、魔法を放つ前に予備動作が必要ってことか?
『なかなか勘が鋭いやないか。その通りや』
なるほど。と言うからには、ジェルド族にそれは必要ないってことだろうか。
『そうですわ。高貴なるジェルド族の魔法は、神力のそれに限りなく近いもの。魔力さえあれば、意のままに魔法を発動できますの』
へえ、すごいじゃん。どっちかと言うと魔法って言ったら、そっちのイメージだな。
てか、渋ったわりにすごい流暢にしゃべるじゃん、ミカ・エラ。
『い、致し方ありませんでしょ。もうわたくしたちは無関係というわけにはいかないのですから』
思ったことが伝わったのか、ミカ・エラは咳払いをして言った。
『セディア人は、人によって得意な属性っちゅうのがある。火、水、雷、土、風、氷、それから無。まとめて七元属性って言うんやけどな、自分の得意な属性以外は、基本的に使われへんのや』
『それじゃ、レンの属性は――』
『ピンときたか? あの男は火の魔法を使いおった。一概にそれしか使えんってわけやないけど、違う属性を使えたとしても、あと1つくらいや』
なら、火を念頭にもう一つの属性を警戒していればいいってことか。でもそれって、役立つ情報なんだろうか。
魔法自体がそもそもどういうものかよくわかっていない以上、相手の使う属性がわかったことが戦況にどう有利に働くのか、イマイチわからない。
『属性はそれぞれに得手不得手がある。それさえわかっとけば、あとはこっちの行動次第や。ま、このあともうひと悶着あるやろうから、そこでよう見とったらええ』
ゼヴが言い終わると、僕の足が一人でに動き出す。
『ミカ・エラ、準備はええか?』
『いいもなにも、行くしかありませんわ。悠長にしていたら、あちらも回復してしまいますもの』
二人の戦意はまだまだ十分なようだ。
僕はまた、最高のスリルと興奮を最前席で体感することになるのだろう。




