はじめての共闘
この様子だと、レンという男も魔法を使える血筋の人間とみて間違いないだろう。
つまり、これは魔法対魔法の勝負。剣や拳でしか戦ったことのない経験が、どれくらい役に立つものなのか見当もつかない。まあ、何をするにしても、されるにしても、使われるのは僕の体なわけだが……。
レンが手を前にかざす。何かを仕掛けてくるつもりだ。
『ミカ・エラ、アイツはセディア人や!』
ハッとしたようにゼヴが言った。
『存じておりますわ』
ミカ・エラが言う間もなく、僕の目の前に半透明のガラスのような壁が現れ始める。
間一髪、レンの手から放たれた炎は半透明の壁に阻まれて霧散した。
僕は今、正真正銘の魔法を目の当たりにした気がする。
圧巻だ。人間にできる芸当じゃない。だけど、たしかに目の前で起こった。すごすぎる。もしかしたら、僕が期待していた魔法はレンが放ったようなものかもしれない。
『感心しとる場合か!』
ゼヴのツッコミを受けるが、僕は反論した。
『そんなこと言ったって、僕に何ができるんだよ!?』
『気が散るから、なんも考えんな!』
んな無茶な。前代未聞の出来事を前にして、心を無にしろっていうのか? なんなら僕は、命の危機にも瀕してるんだぞ?
『ごちゃごちゃとやかましいわ!』
『だったら、僕にも状況を教えてよ! セディアがうんたらかんたら言われても、何言ってるのかさっぱりだよ!』
『教えてどないかなるんかいな!?』
『頭は二つより三つあったほうがいいでしょ!?』
『脳内で喧嘩しないでくださいます!?』
こうなったら三つ巴の、文字通り頭脳戦だ。頭がガンガンするのは、きっと気のせいじゃない。
『来ますわよ!』
レンは刀を振りかざして、床を滑るように迫ってきた。
『ミカ・エラ! 武器!』
『そんな都合のいいもの、あるわけありませんでしょ!』
僕の右手がさっと前に上がる。
細身の体からは想像できないほどの力で、レンは刀を打ち込んできた。
ビリビリと痺れるような感覚が右腕を伝ってくる。
立て続けに何度か剣で攻撃を受けていると、あろうことか刃が真っ二つに折れてしまった。
『なんちゅう脆い剣や』
仮にも僕の剣は、国で一番の鍛冶師が打ったものだぞ。それを数発で砕く相手がイカれてるんだろ。
『この刀、魔法の力が付与されておりますわ』
再び僕の眼前に半透明の壁が作り出される。それに向かって、レンは思い切り刀を打ち付けてきた。鋭い刃は壁に食い込んだが、なんとか食い止めている。
『これ、なんなの!?』
『魔法による障壁ですわ。あらゆるものをシャットアウトする力がありますの。ですけれど、これはちょっとマズいですわね』
ミカ・エラのしかめっ面が目に浮かぶようだ。……顔は見たことないけど。
『破られちゃうよ!』
ガラスの割れるような音を発して、障壁を引き裂いた凶刃が迫る。
しかし、その刃は僕の目と鼻の先で止まった。
そして、レンの刀に交差するようにして、その刃を止めた正体が徐々に現れていく。
『魔力で作った剣ですわよ、ゼヴ』
『思とった通り、やるやないかい』
形状の判然としない濃い紫色をした長い何かを、僕の右手は握っていた。それがレンの刀をすんでのところで止めているのだ。
『ですけど、あまり長続きはしませんわ。ものすごい魔力の消費量ですもの』
『よっしゃ、ほんなら、わしも一肌脱いだろかい』
ゼヴの声に合わせるかのようにして、僕はレンの攻撃を弾き返した。
しかし、レンは怯まない。またも手をかざし、何かをしようとしている。
『おんなじ手は食らわへんで!』
空いた左手を突き出すと、遺跡内部を揺るがす轟音とともに、そこから不可視の衝撃波が放たれた。
攻撃の体勢に入っていたレンは、防御にワンテンポ遅れをとったように見えた。
両手で飛ばした時より威力は低いが、人を吹き飛ばすには十分すぎる強さだ。
レンの体は見えない何かに引っ張られるかのようにして、宙に浮いたまま遺跡の外に飛んでいった。




