パルマの気まぐれ
「……こんなことなら、あいつの言うことなんて聞くんじゃなかった。ほんっと、散々だよ」
『まだ動けるんか。見た目の割に、タフな女やのう』
僕の衝撃波に吹き飛ばされて茂みの中に姿を消したパルマは、愚痴を言いながら再び戻ってきた。
『あの女、さっきのを見てまだわしらに立ち向かおうっちゅうんか?』
よろめきながら近づいてくるパルマだったが、そんな風には見えない。
「もうその体じゃ戦えないでしょ? 殺す気はないから、大人しくしていてよ」
「なにそれ。あたしにケンカ売ってんの?」
言葉通りの意味だったのだが、返って逆効果だったようだ。
「違うよ! ただ、むやみやたらに人を殺したくはないんだ」
「ちょっと自分が優位に立ったからって、いい気になって。ま、別にいいけど。あんたの言う通り、あたしはもう戦えないしね。というか、戦う気がなくなっちゃった」
そのセリフを聞いて胸をなでおろす。
「レンと戦うつもりなら、覚悟したほうがいいよ。あいつはそんじょそこらの連中とは桁違いの強さだから」
「レン? 遺跡でルテアと戦ってる男のこと?」
「そう。ってか、ルテアっていうんだ、あの女騎士。どっかで見たことあると思ったんだよなー。道理でレンが苦戦するわけだ」
パルマはルテアのことも知っているらしい。名の知れた傭兵団の長ともあれば、その筋の人間にとっては常識なのかもしれない。
「そういえばさっき、あいつの言うことなんて聞くんじゃなかったって言ってたけど、誰のこと? 雇い主かなにか?」
パルマのセリフで引っかかっていたことを僕は聞いてみた。十中八九、プラントンの指示であろうことは明白だが、念のためだ。
「違う違う。あの毛皮をかぶったでっかい男のことだよ。ここじゃ姿が見当たらないけど、仲間割れでもしたの?」
毛皮のでっかい男? それってもしかして――。
「アムのこと?」
「アム? 名前は知らないけど、あんたらの仲間じゃないの? あんたたちを追ってるとき、あたしの前に現れて取引を持ちかけてきたんだ。あんたの身柄を引き渡すから、少しの間、手を引いてくれってね。意図はわかんないけど、面白そうだから乗っちゃった。ま、経緯がどうあれ、失敗しちゃったみたいだけどね」
間違いなく、アムリボーのことだろう。自分の目的を果たすために、パルマを牽制していたのだ。結果的に、彼の行動は僕たちにとってプラスに働いたわけだが。
「もうわかってると思うけど、あたしを雇ったのはプラントンっていう王様。強いヤツと引き合わせるって言うし、金払いもよかったから引き受けたんだけど、正直、あんたのは想像以上だったよ」
……まあ、僕のは後天的なものというか、自分の実力じゃないというか。複雑だけど、褒め言葉として受け取っておくべきかな。
「ねえ、あたしも仲間に入れてよ。今さらプラントンのとこになんて戻れないしさ。あんたの強さの秘訣に興味あるんだ。あんたには負けちゃったけど、あたし、その辺のごろつきよりはよっぽど使えると思うんだよね。どう? ねえ、どう?」
急にすごい勢いで詰め寄られて僕はたじろいだ。
まだそんなに動けるなら、十分戦えるんじゃないか……?
それに、この至近距離でこの角度だと、ちょっと、その……。
『おい、どこ見てんねん!』
ゼヴに指摘されて、僕は慌てて彼女の胸元から目をそらした。
『まったく、男というのはどうしようもない生き物ですわね』
ミカ・エラが呆れたように言う。
『この状況でよくそんなことしてられるな。まだ仲間が戦っとるんちゃうんかい。はよ助けに行かんかい』
『わかった、わかったよ。悪かったって。すぐに行くよ』
だって、仕方ないじゃないか。パルマは怪力ってことを除けば、見た目は快活な女の子って感じだし、胸だって小さくないし……。
『ええから、さっさと行け! 耐性のないヤツはこれやからアカンねや』
目を輝かせるパルマに「また後で」と言い残し、僕は遺跡へと歩き出した。
『あのパルマっちゅう女は、もうほっといても大丈夫やろ。ミラスのことは、彼女に任せといたらええ。オマエはルテアと戦ってるレンっちゅう男にだけ集中せえ。わかったな?』
ゼヴに言われて、僕は気を引き締めなおした。
レンはパルマが警戒するほどの相手だ。そして何より、あのルテアが苦戦を強いられている。
『またわしが力を貸したる。オマエに死なれたら、元も子もないからな』
ゼヴの心強い一言に背中を押され、僕は遺跡の中に足を踏み入れた。




