表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/68

タミアの悪魔的デザート

 私は侍女のタミアです。プリスダットの王城に仕えて、かれこれ2年ほどになります。


 実はここに来る前、9歳のときから侍女をしています。みなしごだった私を、隣国モーバリウスの女王であるキレニア様が拾ってくださり、立派な使用人に育て上げてくださいました。


 そんな私がプリスダットにいるのには、理由があります。それは、この国の王子を暗殺することです。キレニア様のご命令で、私はプリスダットに潜入しているのです。


 2年の歳月をかけて、私は城中の誰からも疑われようのない信頼を勝ち取りました。もはやここでの暮らしに居心地の良ささえ感じています。ですが、そろそろ任務を遂行するときです。エインズ様に恨みはありませんが、キレニア様にはもっとありません。裏切るような真似はしたくないです。


 とはいうものの、ここ何か月か、エインズ様の行動は予測不可能でした。誰かと一緒にいるとき以外は、どこで何をしているのか、全く見当がつかないのです。いつも雲隠れしたかのように姿を消してしまいます。


 食事に毒を入れて殺そうかとか、事故に見せかけて上に物を落とそうかなどとも考えましたが、どれも実行する気にすらなりませんでした。


 それもこれも、エインズ様のご両親であるガスティノ王とウィネク女王のせいです。チャンスが来たと思えば、あの二人がいつも邪魔をしてきます。まるで私の計画を見透かしているかのようです。正直、怖いです。


 正体がバレたら、私もただでは済まされません。壺を持ちだしたエインズ様以上に、恐ろしい目に遭うでしょう。エインズ様が壺を盗んだと報告したのは私ですが、あのいたたまれない様子を見たら、少し後悔したくらいです。


 エインズ様はあの壺で何をされるおつもりだったのでしょうか。中には海水が半分くらい入っているだけで、他には何もありませんでしたけど……。ほんとに、よくわからないお方です。


 今日はウィネク女王とエインズ王子、そしてプラントン王子の三人で、お茶会を開くそうです。


 あの二人の王子の仲は、とてもいいようには見えませんが、そんな顔ぶれでテーブルを囲んで楽しいのでしょうか? 私には理解できません。これも人付き合いというものなのですかね。


 お茶会での私の役割は給仕です。お茶やお菓子をテーブルに運び、皿を引き上げてはキッチンに運び、また新しいお菓子をテーブルに運び……。ひたすらその繰り返しです。


 今もまた、次のケーキを持っていく途中です。今日はこの仕事だけで、足がむくみそうです。


「へ……?」


 思わず声が出てしまいました。なんでしょう、あれは。


 黒っぽくてツヤツヤした物体が、廊下の真ん中に落ちています。


「わあ……」


 近づいて見てみると、なんだか気持ち悪い。丸くてヌメヌメの体から、触手のようなものがうねうねと――。


「いち、にぃ、さん、しぃ、ご、ろく、なな……」


 八本も生えています!


 それにこれ……。吸盤でしょうか。


 ああ! わかりました。これはタコですね。海の悪魔とも呼ばれている、気味の悪い生物。


 よかった。正体がわかってすっきりしました。これで仕事に戻れます。


 いやいやいや、そうじゃありません。なんでこんなとこにタコが?


「ハッ!」


 今日の私は冴えています。こんなに勘が鋭いと、明日の天気も当てられそうです。


 そうです。エインズ様はこれを隠していたのです。


 どうやって捕まえたのかはわかりませんが、壺に海水が入っていた謎も説明が付きます。


 そういえば昨晩、狩りから帰ってきたプラントン王子が騒いでいました。「悪魔が出た! オレの部屋に悪魔がぁ!!」って。


 きっと壺から逃げ出したタコを見たんですね。悪魔なんて、そういるはずがありませんもの。


 ですが、用途がわかりません。こんなもの、食べておいしいのでしょうか? 見るからに不気味で気持ち悪いですが……。


 まさか、ペットにでもしようとしたのでしょうか? 海の悪魔なんて飼っていたら、すごい非難を浴びそうですけど。


 ……海の悪魔。たしかに巷ではそう呼ばれています。私はおとぎ話でしか聞いたことはありませんが、災いをもたらすのだと言う人もいます。


 食べたらきっと、毒があるに違いありません。もしかしたら、悪魔に取り憑かれて死んでしまうかも……。


 ああ、神様、ありがとうございます。私、わかりました。これをエインズ様に食べさせようというわけですね。


 幸い、このタコはもう死んでいるようですし、私でも簡単に調理できそうです。


 フフフ。こんなこともあろうかと、実はポケットにいつでもナイフを常備しているのです。抜け目ないでしょう?


 足を数本刻んで、ケーキの間に忍ばせてしまえば、誰にもわかりません。完璧です。


 死骸はちょっと脇に退けておいて、あとで始末しましょう。


 エインズ王子も因果ですね。ご自分で捕まえたタコに呪い殺されるのですから。


 ああ、キレニア様。このタミア・ミュルヘン。ようやく胸を張って、故郷に帰れます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ