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ルテアの釣り出し作戦

「ミラス一人で大丈夫かな?」


 暗がりの中、僕は隣で息を潜めるルテアに問いかけた。


「あいつの役割は、ただ走るだけだ。それ以上のことは望んでいない」


 そりゃそうなんだけどさ。


 相手方の正体も不明だし、どんな手を使ってくるかわからない。万が一ってことがあるでしょ。


『心配したってしょうがないやろ。今は各々にできることをやるだけやん』


『わかってるよ』


 ゼヴにしろ、ルテアにしろ、肝が据わっているというか、なんというか……。そこは僕と大きく違うところだな。


 遺跡の中は、少し足を踏み入れただけで、ほとんど視界のない暗所だった。僕とルテアのいる場所は内部と言ってもほんの入り口付近で、断じて奥地などではない。しかし、外の光の届かないこの場所は、冷たい空気に満ちていた。


 段取りとしては、ミラスを囮にして遺跡の中へと誘い込み、僕とルテアで挟撃するというものだ。先に中へ入っておくことで、ある程度の地形は把握できるし、もう一つ、ルテアの考えた奇襲の策もある。


 準備は万端だが、ミラス一人を外に残していることだけが気がかりだった。もちろん、この作戦は彼女がいなければ成り立たない。


 僕も、やるべきことをやる覚悟だ。みんなを守るために。


『心配性やなぁ。こっちまで気分が沈んでしまいそうや。わしらにはオマエの考えてることがわかるんやで? もうちょっとプラス思考でいこうや。これから戦いになるかもしれへんってときに、そんな暗い気分で大丈夫なんか?』


『うるさいなあ。僕だって集中してるんだよ。ちょっと黙っててくれないかなあ』


『なんや、言うやないか。そんな雑念だらけの頭で、集中してるやと? なら、目にもの見せてもらおか』


 思考がすべて読まれていると思うと、それだけでも落ち着かない。せめて感じたことをなんでも話してくる悪いクセだけでも、なんとかしてくれると嬉しいんだけどなあ……。


『また悪口か? 全部お見通しなんやで?』


『ちょっと黙っててよ!』


「おい、ゴソゴソするな」


 頭の声を振り払おうとして、体が動いてしまっていたらしい。ルテアに指摘され、僕は努めて心を落ち着けた。


「そろそろ来るぞ」


 ルテアの第六感とも言うべき直感が、外の様子を感じ取っている。


 はたはたと速いペースで近づいてくる軽い足音。これはたぶん、ミラスのものだ。


 足音は一人分しか聞こえない。もしかして、彼女に釣られなかったのか?


 ミラスはそのまま、僕たち二人の間をすり抜けて奥へと走っていった。ここまでは計画通り。あとは後ろがついてきてるかどうかだが――。


「おい! ボーっとするな!」


 ルテアの怒号が遺跡内に響き渡る。それと同時に、壁掛けの松明に火が灯されて周りがパッと明るくなった。


 暗い場所に入った相手に対する目くらまし作戦だ。これも計画の内。


 なんだけど、誰か入ってきた気配なんてあったか?


「ほう……。なかなかに小癪な真似をしてくれる」


 聞き覚えのない男の声に、僕の背筋は凍りついた。


 いつの間に目の前に?


 いつぞやに城で見た、異国の衣装みたいだ。たしか、羽織袴みたいな名前だったと思う。


 その長身の男が、片刃で反りのついた細身で長い刃物を手に、ルテアと剣を打ち合っている。


「クソッ! エインズ! ミラスを連れて外へ出ろ! ここは私が食い止める!」


 いつになく、ルテアの声が緊張感で張っている。


「わ、わかった!」


 こういう場面になったら、ルテアの言うことは絶対だ。彼女の判断はいつでも冷静だし、間違った結果を生み出さない。


 苛烈に打ち合うルテアと羽織袴の男を尻目に、僕は奥へと向かった。ミラスはそう遠くない場所にいるはずだ。


「ミラス。外に出よう。ルテアの指示だ」


 光の及んでいないところから、まだ息を切らしているミラスが顔を出す。


「どういうこと? 計画と違うじゃない」


「ごめん、僕がヘマをしたんだ。今、ルテアが入り口で戦っている。相手は一人だ。彼女が敵を引き付けているうちに、外に出るんだ」


「わかったわ」


 ミラスも、ルテアの判断に身をゆだねることに異論はないみたいだ。それだけ、彼女への信頼感は厚いということか。


 僕たちは二人して、光差す入り口のほうへと走り出した。


 一段と明るい場所で男の背後を通り過ぎるとき、僕は顔が気になって横目でちらりと見やった。


 息が詰まりそうになった。目が合ったのだ。


 たしかにルテアと剣を交えているはずなのに、向こうもこちらを横目で見てきた。


 冷ややか――だけど、強い意志を感じさせる目だった。


「なぜ、お前が――ッ!」


 外へと出る間際、ルテアの声が後ろから聞こえてきた。


 聞いたこちらが震えるほど、戦慄しているように思えた。


 ルテアが動揺している。あの男と知り合いなのだろうか。


 そんな疑問を感じる間もなく、僕たちは次の困難へと直面した。

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