行き止まり
追手を炙り出すために、一行は最適な場所を探して流麗の地の奥へと進んでいた。
歩みを進めるほど、木々はまばらになり、岩の露出している部分が多くなっていく。空気は薄く霧がかかったように白い。誰かに、この世の最果てへと誘われているかのようだ。
待ち伏せをするなら、開けた場所より、両側を岩に挟まれたようなところのほうが行く手を遮りやすい。しかし、進めば進むほど、障害物は少なくなっていく。
かといって、今さら引き返すことなんてできない。後方から敵か味方かわからない誰かが迫ってきているのに、こっちから向かって行ってどうするんだ。
まるでこちらが追い詰められているみたいだ。ミラスも同様の不安を抱えてか、しきりに辺りを見渡している。追手がすぐそこまで来ていないか、心配なのだろうか。
反対に、ルテアはそうでもないようだ。良くも悪くも、いつも通り。落ち着き払った冷静な眼差し。彼女の表情を見て不安を煽られるのは、僕たちじゃない。剣を向けられた相手だ。
「来るところまで来た、という感じだな」
立ち止まったルテアは、前方を見上げて言った。
先頭が歩みを止めたので、僕もミラスも顔を見合わせる。
「どうしたの? 何かあった?」
ミラスが声をかけると、ルテアは振り返った。
「見ろ」
薄い霧の中、僕たちの前に立ちはだかる大きな黒い影。よく見ると、両側には岩壁に彫られた装飾が見て取れる。
「遺跡……?」
ミラスの言った通り、前方で黒い口を開けているのは遺跡の入り口だった。巨人用かと思えるほど大きな四角い穴がぽっかりと開いている。
「これを行き止まりと言うのかどうかは、賛否が分かれるところだろうな」
再度、遺跡に向き直ったルテアが言う。
追手が来ている以上、早い段階でどうするか決めてしまわなければいけない。だが、進むにしても、内部の構造はわからないし、どんな危険が待ち受けているとも知れない。進まないなら待ち構えるしかないわけだが、付近に隠れられるような物は見当たらない。視界も良好とは言えず、待ち伏せには不適だ。
「ここで迎え撃とう」
意を決した僕は言った。
遺跡の中で追い詰められてしまったら、逃げ場がなくなってしまう。この場で戦いになったとしても、逃げる先は一つしかないわけだが、暗い遺跡の中でなら、少しくらいは時間を稼げるはずだ。今は、それ以上最悪の状況なんて考えたくはない。
「それがいいだろうな」
ルテアも賛同してくれた。
「ただし、タダでは見つかってやらん。どうせ相対するなら、こちらも相応の策を講じておく」
そう言うと、ルテアは僕たちに指示を出し始めた。




