再開する王と王子
派手に藪の中へ突っ込んだのは確かだ。投げ飛ばされた拍子に四肢を数か所擦りむいたし、わずかながら血も出ていた。
けど、事前に聞かされていたような毒の症状は感じなかった。即効性のあるものでもないのだろうか。
体が思った以上に元気なので、僕はアムリボーに食ってかかった。
「アム! 正気!? ここがどういう場所なのか、わかってやってるのか!?」
「わかってるとも。むしろ、この場でだからこそ、意味があるんだ。お前には悪いと思ってる。最初からずっと騙していたこともな」
「騙していたって、どういうことだよ!?」
「お前も死ぬ運命だ。冥土の土産に教えてやるよ」
そう言ったアムリボーだったが、僕たちの会話はミラスの叫び声に遮られた。
「サム! 危ない!」
ミラスは何を血迷ったか、アムリボーの背中にいきなり体当たりした。
予想外の出来事に対応しきれなかったアムリボーは体勢を崩し、僕の脇に倒れこむ。
「ミラス……!?」
信じられないといった様子で立ち上がろうとしたアムリボーだったが、彼はすぐにバランスを失った。
「見つけたぞ、エインズ……!」
さっきまでアムリボーがいた場所に立っていたのは、衝撃の人物だった。
「プラントン……?」
いるはずのない人間を前にして、驚くあまり声も出ない。
「お前がここに来ると、大方の予想はしていた。だが、ここまでうまくいくとはな! 我ながら完璧な計画だった」
ミラスがタックルをかました相手はプラントンだった。アムリボーの背後から奇襲をかけようとしたプラントンを突き飛ばしたのだ。
しかし、結果として押し飛ばされたプラントンはアムリボーにぶつかってしまったのだ。
一度は起き上がろうとしたアムリボーだったが、そこから倒れたきり動かない。
「ここで決着をつけてやる。オレが喫した敗北の記録を、永遠に無きものにしてくれるわ」
息巻くプラントン。
アムリボーが倒れて動かないなら、この場で戦えるのは自分しかいない。パルマから受けたダメージが残ってはいるが、やるしかない。
痛みにきしむ体をもたげ、どうにか立ち上がる。こちらが体勢を整える時間は与えてくれるようだ。奇襲をかけようとしたにもかかわらず、正々堂々と戦ってやってるつもりか。
パルマみたいな戦闘狂ならいざ知らず、相手はプラントンだ。幼い頃から、こいつがどんな人間かは知ってるし、戦いにしたって経験値は僕と大差ないはず。
アムリボーやミラスが僕に何をしようとしていたにせよ、まずはこいつをなんとかしなければ。
しかし、ちょうどいい機会でもある。プラントンの目的が何なのか、ここではっきりさせておきたい。
「どうして僕たちを狙うんだ? どうしてプリスダットを混乱に陥れるような真似をする? 君たちに何の得があるっていうんだ?」
プラントンは狂気に満ちた顔面を歪めた。
「キサマ、何も知らずにぬけぬけと……。オレにそんな質問をするな! イライラするんだよ。お前の顔を見ているとな。お前も、お前の母親も……、偽りで塗り固められた地位と名誉の上に立っているのだ! そんなことも知らずに、オレの前に間抜け面をさらすんじゃない!」
そうは言われても、やって来たのはそっちのほうじゃないか。
「意味がわからないよ。僕や母上が何をしたって?」
「黙れぇっ!」
――話にならない。なぜかは知らないが、彼はすごく腹を立てているようだ。僕の知らない何かが原因で、どうやら彼は伝承の旅人になろうとしているらしい。
「なら、伝承の話は? 誰から聞いたんだ? 君は何の役割を担ってる?」
ダメ元だ。会話にならないようなら、あとは剣で語るしかない。
「お母上だ。伝承はオレの母親と、その姉であるお前の母親の家系が受け継いだものだからな。オレにも権利があるということだ」
答えるんだ……。イカれてるのか、冷静なのか、どっちかにしてくれ。こっちが混乱するだろ。
「で、どっちが伝承の旅人になるか決着をつけに来たってわけだね。でも、こうは考えられない? 二人ともが受け継いでいるのなら、どちらも伝承を再現すべき仲間だって」
嘘でも彼と手を組みたくはないが、その線は捨てきれない。僕が『業魔』である以上、『東の王』がどこかに存在するはずなのだ。プラントンが該当している可能性もある。
「なんだと!? なるほど、言われてみれば――って、騙されんぞ! お前と寝食を共にしようなど、想像するだけで吐き気がする!」
別にプロポーズしてるわけじゃないんだからさ……。でもまあ、僕も乗り気じゃないし、なんならお断り案件だ。ここはもう、潔く雌雄を決するという判断でいいのかもしれない。
「それじゃあ、ここで一騎打ちだ。いいね?」
「望むところ――というか、もとよりそのつもりだ!」
僕たちは互いに剣を構えた。




