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ルテアとミラス

 僕とアムリボー、そしてミラスの三人は、城で待っていたルテアと合流した。


 どうやらルテアは、傭兵団の人たちと話をつけてきたみたいだ。


「あいつらは、ここに残していく。王と契約をしていれば、当分は食うに困らなさそうだからな」


 父上は赤錆傭兵団を戦力として迎え入れ、モーバリウスに対抗する切り札の一つとするそうだ。


「ゲッ。なんで赤錆がここにいるのよ」


 苦虫を噛み潰したような表情を見せたのはミラスだ。


「なんだ、お前は」


 僕たちが連れて来た新しい仲間に対して、ルテアはネズミでも見るかのような視線を向ける。


「彼女はミラス・テリアス。伝承の旅人の一人ではないが、今回の旅に同行することになった」


 アムリボーが紹介すると、ルテアは鼻を鳴らした。


「ふん。またろくでもないお荷物が増えたのか。金はもらえるんだろうな」


 ルテアときたら、まだ報酬を要求するつもりか。


「こっちはルテア・フベルフェン。『白銀の騎士』で、俺たちの護衛をしてくれる」


 今度はミラスに、ルテアを紹介するアムリボー。


「あんたたち、こんな野蛮なやつと一緒にいて平気なの? 近くにいたら、そのうち斬り殺されるわよ」


 ミラスは冗談じゃないといった様子だ。そういえば、彼女は伝承の旅人についても知っているような口ぶりだった。彼女の家系も、繋がりがあるのだろうか。


「安心しろ。私は女は斬らない主義だ」


「あ、あんたも女でしょうが。ねえ、なんでこんなのがいるのよ。聞いてないわよ」


 僕とアムリボーに説明を求めるミラス。


 何がそんなにマズいのだろうか。ルテアはこれまで何度もピンチを救ってくれたし、頼りになる存在だ。


「ルテアがいると問題でも?」


 尋ねた僕に対して、ミラスが目を丸くする。


「問題も何も、あなた、赤錆傭兵団を知らないの!?」


 次いで、彼女は呆れたように天井を見上げた。


「サム、あなたは知ってるわよね?」


「あー、まあな」


 ミラスにすがりつかれたアムリボーは困った面持ちで頭をかいた。


「じゃあ、この世間知らずの坊やに説明してあげて」


 坊やって……。これでも王子なんですけど。みんな、僕の身分を忘れてない? まあ、ルテアには王子として扱うなって言っちゃってるし、いいんだけどさ……。なんか引っかかるものがあるんだよね。


「赤錆傭兵団は、かつて一国を滅亡に追いやったと言われている。その逸話の内容もなかなかのもので、まるで死の世界からよみがえったゾンビのような戦いぶりだったらしい。死を恐れず、敵の兵士だけでなく貴族も王族もすべて惨殺したという噂だ」


 国を滅ぼしたって……、まじ? 100人かそこらの傭兵団が?


 道理でルテアが強いわけだ。その点では納得できるけど、父上は大丈夫なのだろうか? その気になれば、ルテアの仲間たちはプリスダットだって滅ぼせるんじゃ……?


「赤錆って名前は、返り血で染まった鎧が赤く錆びるまで戦い続けていたからとかなんとか……。ま、あくまで噂だ」


 話しながらぞっとしたのか、アムリボーは最後に「噂」を強調して付け足した。


「ね、恐ろしい話でしょ? だから、こんなのを連れて行くのはやめましょうよ。護衛ならもっとマシな人間がいるはずよ。そうだ、私の人脈を使って奴隷を呼び寄せてもいいわ。とびきりの上玉を連れてきてあげる。ね?」


 今はルテアより、ミラスの必死さ加減のほうがよほど恐ろしい。


「どうしてそんなに嫌がるの? ルテアは白銀の騎士だし、連れてかないって選択肢はないよ」


 僕の発言で、ミラスはしどろもどろになった。


「どうしてって、それは、その、別に、なんでも……」


「過去にうちの傭兵の何人かを売りさばいたからだ」


 キッパリと言い放ったのはルテアだった。


 決まりの悪そうな顔をするミラス。


 そりゃアウトだ。ルテアの仲間を商売道具にしたっていうんだから、怒られたって仕方がない。赤錆傭兵団がどんな人間の集まりだろうと、関係のない話だ。


「しかし私は、そんなことで頭に血が上ったりはしない。奴隷になった連中は、己の力が及ばなかっただけのことだ。自分の身は自分で守る。まして、傭兵稼業をしている人間なら、当然だ」


 ルテアの意見は至極全うに思えて、すごく冷徹だ。力のない人間は見放される。彼らがあとでどうなろうと、知ったことではない、と。


「僕たちのことは、そう簡単に見捨てたりしないよね?」


 ちょっと怖くなった僕は、おっかなびっくりルテアに聞いてみた。


「護衛対象に死なれては、報酬が貰えんだろうが」


 よかった。金で動いているとはいえ、一応、守る気はあるみたいだ。


「まあ、死ななければいいと言うのであれば、多少の損壊は辞さぬがな」


 ルテアの言葉で、彼女以外の面々は凍りついた。


 なんかこう、妙に重みがあるんだよな、ルテアの発言って。信憑性が高いというか、言ったことは本当にやりかねないというか。


 表情筋がひきつったままのミラスを連れて、僕たち4人は出発した。


 目指すは『業魔』ゆかりの地、ルーテルムダーク。自然豊かな絶景が広がり、流麗の地という呼び名で知られる場所だ。プリスダット王国とモーバリウス王国を隔てる地点にあり、そこまでの道のりは長く、危険が付きまとうだろう。


 それでも僕は、一人ではない。仲間と一緒なら、必ずたどり着けると信じている。


 きっと、魔法の秘密も明らかになる。根拠のない期待を、僕は胸に抱いていた。

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