信頼できる仲間たち
「この戦争を起こしたきっかけは、あのプラントンとかいう王様なんだろ? 殺すまではいかなくても、ひっ捕らえればよかったんじゃないか?」
ルテアを捜しに行く道すがら、アムリボーが聞いてきた。
「そうだね、そうすべきだったかも」
「おいおい、今さらか? 甘ちゃんだなあ、エインズは」
アムリボーには言わないが、僕には確かめたいことがあった。プラントンこそが『東の王』ではないかという仮説だ。古き英雄の伝説の真実を知っているのは、4人の旅人の末裔だけなはずだ。だが、プラントンはなぜか知っていた。
誰かがこっそり教えた可能性もあるが、そうだとしたら理由がわからない。その線はないと見てよさそうだと考えた。
それに、彼とはいずれまたどこかで対峙することになるだろう。『東の王』がプラントンなら、きっと何かのカギを握っているはずだ。次に会ったときまでに、こちらもいろいろと準備しておきたかった。
「にしても、あの『稀代の奇術師』とか言ってたやつが使ってた球を隠し持ってたとは……。お前もなかなか手癖が悪いなあ」
褒められてるのか、けなされてるのか、どっちなんだ?
それに、痛い。でっかい手でバシバシ背中を叩くんじゃないよ。
でも驚いたのは君だけじゃない。僕だってアムには驚かされた。
「そっちこそ、薬草医だったなんて聞いてないよ」
獣のような見た目と大きくてゴツい手からはとても連想できない。見た目とは裏腹に、彼の手先は器用だった。
「そりゃあ、言ってないからな」
この際だからと、アムリボーは自身の生い立ちについて話してくれた。
父親が伝承のまじない師の家系で、母親のほうが薬草医を営んでいたらしい。
「あんなにガサツで大雑把な人が薬草医だなんて、誰も信じないだろう。それくらい、お袋は豪快な女性だった。親父が村の自警団の団長でな。地元のごろつきとやり合ってケガしたときに、お袋が手当てしたんだ。それが出会いだったんだとさ」
後に別の野盗と戦ったときの古傷が原因で、父親は亡くなったらしい。
「伝承については、親父が死ぬ前にお袋が聞いていた。伝えられたときは、現実味がなかったよ。けど、世の中を救う英雄たちと旅をするかもしれないのに、お前だけ何もできないでいいのかって、お袋に言われてな。それで薬草学を学ぶことにしたのさ」
「アムが薬草に詳しくなっててくれて助かったよ。この火傷も放置していたら、もっとひどいことになってたかもしれない」
「なに、軽い火傷だ。ほっといたからって死にはせんよ。まあ、魔法の影響があるっていうなら話は別だが」
魔法、か。アムもまだ、あれが魔法だと思ってるんだ。
ゴドは魔法使いだか奇術師だかを自称していたけど、魔法使いを目指している僕から言わせてもらうなら、あれは魔法なんかじゃない。いかにもそれっぽく、巧妙に手の内を隠してはいた。初見なら誰もがびっくりしただろう。僕だってそうだった。
だけど、間近で体験してわかった。僕がゴドからくすねた丸い球は、衝撃を加えられると爆発する、小さな爆弾だ。
それをアムリボーに伝えると、彼はどことなくガッカリしたような面持ちだった。
「僕だって、あれを受けて気絶してたら、トリックを見破れなかったかもしれない。魔法じゃないってわかったのは、ただ運が良かっただけだ」
「それでも、相手の技を見抜けたからこそ勝てたんだ。君の勇気は称賛に値する」
「ありがとう」
アムリボーの言葉を、僕は素直に受け止めた。
なんだろう。僕はこういうのを期待していた気がする。危険な目にも遭うけれど、仲間と笑ったり、励まし合ったり……。そうやってお互いに成長していくんだ。
ルテアを見つけたら言ってやろう。アムリボーを見習え、と。
アムリボーと他愛のない会話を挟みながら歩いていくと、やがてルテアと別れた森の辺りで彼女を見つけた。何かを取り囲むようにして、ルテアの仲間たちが集まっている。
「ルテア!」
傭兵の一団に呼びかけると、すぐにルテアがやってきた。
敵か味方かもわからない血を全身に浴び、泥で薄汚れた姿を見て、なぜか目頭が熱くなる。
「どこにいたんだ、お前たち。散々探したんだぞ」
「うん、ちょっと、城のほうにね」
「泣いてるのか……?」
ルテアに顔を覗き込まれて、僕は目を逸らした。
「大丈夫。大丈夫だよ。無事でよかった。ルテア。ほんとに……」
「気持ち悪いやつだ。アムリボー、なにがあった?」
聞かれたアムリボーははぐらかした。
「まあ、いろいろとな。それより、あの人だかりはなんだ?」
「ああ、私が倒したクレインという男なんだが、腕を斬り飛ばされていてな。応急処置は施したが、かなり弱ってきている。いい剣筋をしているので仲間にと思ったのだが、それも無理そうだ」
それって、ルテアが腕を斬ったって意味だよね? なんだか他人事のように聞こえたけど……。
「言ってなかったかもしれんが、俺はこう見えても薬草医だ。なにか力になれるかもしれん。見てやろうか?」
「ああ、聞いてないな。頼む」
ルテアがアムリボーを連れて、道を開けるよう仲間に言う。
クレインという青い髪の男の容態を診るアムリボー。その隣で、腕を組んで様子を見守るルテア。僕は、この二人に出会えて本当に良かったと思う。
友達とは少し違うけど、なんだかんだで頼れる仲間。二人となら、伝承の旅を成し遂げられるんじゃないだろうか。僕が魔法使いになる日も、近いかもしれない。




