覚悟を決める隣国の王
……なぜだ? なぜこうなった?
1万の軍勢を率いての国取り合戦。軍配は確実にこちらに上がるはずだった。
背後からの奇襲も退けたはずだ。バルエスダとクレインという、こちらの切り札的存在まで使ってな。
なのに、あの狂気に満ちた兵士どもは、開き直ったかのように再び現れた。おまけに「クレインは打ち取られた」とバルエスダは言う。
クレインは軍の頭脳だぞ!? そんな平然と報告するな! 軽く聞き流すところだったぞ!
それから、なんだ? 赤茶瓶みたいな名前だったな。バルエスダは、その赤茶瓶が来るから退却すべきだと言い出した。赤茶瓶だぞ!? そんな腑抜けたハゲ茶瓶みたいな名前の集団に負けてたまるか。
こうなったらヤケだ。全軍で王都を攻め落とし、後ろから追いかけてきた赤茶瓶を王都の外門で切り離す。どうせ補給部隊も壊滅したんだ。我々に残された時間は少ない。
存外、悪い作戦でもないかもしれないぞ。目的を果たしながら、ケツについた火も消せるのだ。一石二鳥じゃないか。
「全軍に伝えよ。前進開始。王都に攻め入るのだ!」
「はっ」
これでいい。もう長いこと時間が経つが、ガスティノ王が出てくる気配はない。籠城して長期戦に持ち込む気なのだろうが、そうは問屋が卸さんぞ。
ん? 相手は長期戦を狙って、こちらの兵站が尽きるのを待っているのか……。そのための補給部隊襲撃だった……?
なるほど。合点がいった。なかなか策を弄するじゃないか。少数では勝ち目がないから、姑息な手を使いやがって……。
だが、もう終わりだ。そら、オレの軍が大波のように押し寄せてくるぞ。どうする、ガスティノ。
「門が開いたぞ!! なだれ込めえぇ!!」
って、え? 門が開いた? 今、誰かそう言ったよね?
もしかして、ゴドがうまくやったのか? 暗殺部隊とともに王都へ送り込んでやったが、大した報告もなかったので忘れていた。オレの全軍前進の号令に合わせて開門するとは、なかなかやるじゃないか。
我が軍が侵入してしまえばこちらのもの。ガスティノの無様な姿が目に浮かぶようだ。
「門が閉まるぞ!! 退け、退けぇ!!」
は? 今度はなんだ? 門が閉まるだと? まだ半分ほどしか王都に入ってないぞ!
「おい、早く行け! 退くんじゃない! オレは退却命令など出していないぞ!」
「外壁の上から矢を射かけてきてます! 陛下、下がってください!」
なんだとッ? それは危険だ、危険すぎるッ!
「下がれ、下がれぇ!!」
「分断された……」
バルエスダ! わかりきったことを無表情でつぶやくんじゃない!
「陛下! 後方からさっきの傭兵が!」
「なにィッ!?」
マズい。これでは兵を半分失った上に、挟み撃ちだ。
「バルエスダ、なんとかしろ! 赤茶瓶どもを抑えるんだ!」
「御意……」
その間にオレは――逃げ……!
「プラントン! お前が黒幕だったのか!」
なっ!? エインズだと!? なぜこんなところに……!
それに、後ろにいる獣みたいな男は誰だ?
いや、そんなことはどうでもいい。エインズ、エインズをどうにかしなければ。
しかしよく見たら、あいつは兵を連れてないじゃないか。……勝てる。勝てるぞ。
あいつを生け捕りにでもしてガスティノを脅せば、一気に形勢逆転。我々の勝利だ。
「おい、誰か、あいつを捕らえろ!」
……。
ダメだ、完全に混乱状態だ。さっきまで全員が城に向かって進んでいたはずなのに、今はてんでバラバラの方角に逃げ惑っている。
「ええい、仕方がない! オレが直々に相手をしてやる!!」




