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魔法使いと戦う王子

「オイラと殺り合おうってのか? ケケッ、おもしれぇ。いいぜ。相手になってやる。あの話が本当か、確かめたいとも思ってたしな」


 ゴドと名乗った丸い男は、被っていたフードをとった。下から現れたのは再びフード――ではなく、目の部分に穴の開いた麻袋だった。


 妙な格好のヘンテコ野郎め……。


「話? 何を確かめたいんだ?」


 威勢よくアムリボーに返したはいいものの、具体的にどうするかまでは考えてなかった。だから、路線変更だ。時間稼ぎをして、スキをうかがう。もしかしたら、センティが目を覚ましてくれるかもしれない。


 ちょうど、ゴドも気になることを言ってくれたし。


「伝承の話さ。オマエもその一員なんだろう? 王サマが言ってたぜ。エインズとその一味を殺して、自分が伝承の再現者になるんだってな」


「王? それは誰のことだ?」


「誰って、モーバリウスの王に決まってるだろ」


 プラントンの父親が? まさか。


「なんだ、腑に落ちねぇって顔してるな。まあ、オイラもそんなにベラベラしゃべっちまうわけにもいかねぇし、これだけ教えといてやるよ。モーバリウスの王は、伝承の英雄になって世界の覇権を握るつもりだ。そのために仲間を集めてる。オイラもその一人。伝承の『業魔』。またの名を、『稀代の奇術師』ゴド・ラプサマだぁ!」


 え? え? え?


 これは予想をはるかに超えた展開。何に驚いたって、そりゃもう何もかも。


 モーバリウスの王――つまり、プラントンの父親が世界征服を目論んでて、伝承の英雄を捜してて、目の前にいるのがそのうちの一人? しかも業魔? このチビデブが? 見た目は僕より業魔してるかもだけど……。


 ちょっと待て。だったら、この丸型人間は魔法を使えるってことにならないか? あらやだ、興奮しちゃうじゃないの。


 ゴホン。暴走はよくない。だけど、魔法は見てみたい。


「業魔ってことは、君は魔法が使えるの?」


「当たり前だ。魔法も使えないで、業魔は名乗れねぇ。オイラは魔術って呼んでるがな」


 えらく自慢げなゴド。ありもしない身長で必死に威張っている。


「それじゃ、一つ披露して見せてよ」


「よぅし、んじゃ、簡単なやつをひとつ――ってアホか! 敵に手の内明かすバカがいるか! ってか、オマエも旅人の一人だろが。身内の業魔に見せてもらえ!」


「あー、いや、僕が業魔なんだよね」


「なにいィィィッ!!?」


 いい驚きっぷりだ。なんだろう、彼が少し可愛く見えてきたぞ。


「オ、オマエが業魔だと!? それじゃあ、オマエも魔法を使えるんじゃねぇか! あれこれ言って、オイラを試そうとしたな!? もう許さねえ。消し炭にしてやるぜ!」


 話が急展開すぎないか? 僕、消し炭になるの!?


 ゴドはポケットから拳大くらいの球体を取り出すと、ひょいと地面に転がした。そして、自身の身長の数倍は高く跳ね上がると、あっという間に階段の上まで登っていった。


「おい、伏せろ!」


 声と時を同じくして、僕の上に何かが覆い被さる。重みで地面に突っ伏した頭上で、またも強烈な爆音が鳴り響いた。


「ケケッ。これがオイラの魔術さ。身をもって知ったろ?」


 階段の上であざ笑うゴド。


 僕の上に被さったのはアムリボーだった。


「アム、大丈夫?」


 彼の意識はおぼろげだったが、問いかけには答えてくれた。


「お前こそ、大丈夫か? というか、なんだ、その呼び方は」


「こっちのほうが呼びやすいと思って」


「……いま、する話か?」


「違うかもね」


 アムリボーを石畳の地面に寝かせ、僕は立ち上がった。


 センティに続いて、アムリボーもやられてしまった。二人とも大怪我ってわけじゃなさそうだけど、戦えるような状態でもない。


 僕がやるしかない。あいつの魔法を、攻略するんだ。


「まだやろうってのか。ケケッ。懲りないやつだ。けどまあ、今ので証明されたな。どっちが真の『業魔』なのか。この世に同じ肩書きを持つ人間は二人もいらないんだぜ。『東の王』は、オマエたちを完全に潰すッ!」


 ……誰もが伝承の旅人になれるなら、そんなのに興味も価値もない。選ばれた人間だけが、『業魔』の称号を手に入れるんだ。


 じゃあ、誰にどうすれば選ばれる? 魔法が使えたら、選ばれるのか?


 違う。ゴドを見てわかった。4人の旅人になれるのは、勝ち取った人間じゃない。ルテアやアムリボーのように、誰かのために行動できる人間だ。


「君は『業魔』の器じゃない」


「なんだって?」


 僕は、腰に携えるだけでお飾りになっていた剣を引き抜いた。


 そして、脇目もふらずに階段を駆け上がった。


「ヤケクソか? いいぜ、来いよ!」


 ゴドに退く気はないようだ。


 上等だ!


 一気に距離を詰め、素人なりに教わった剣術の記憶を呼び覚ます。


 狙いも距離も正確だったはずだが、振った剣は相手をかすめもしなかった。


 ゴドが超人的な跳躍で頭上高く飛び上がったのだ。次いで、彼はポケットからさっきと同じ球体を取り出した。


 あれだ!


 ゴドの後を追うように、僕は地面を強く蹴った。跳躍力は彼の足元にも及ばない。だが、それで事足りる。


「ケケッ、届くわけないぜ~」


 空中で嘲笑するゴドをよそに、剣の柄を90度返して握りなおす。


「おりゃあっ!」


 思い切り振りぬいた僕の剣は、落ちてくる球体にクリーンヒットした。


「イゲァッ!?」


 弾き返された球体がゴドの顔面に命中し、鈍い音を立てる。


 ドンッ!!


 着地した僕の上空で球体が炸裂した。


 次いで、黒焦げになったゴドの体が目の前に落ちてきた。


 かろうじて息はあるようだが、これでは再起不能だろう。


 ――勝った。初めて人と戦って、勝ったんだ。


 喜びと安堵に打ち震えながら、僕は二人のもとへと駆け寄った。

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