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復讐の機会をうかがう王子

 プラントン・モーバリウス・エニバッド。この名前にオレは誇りを持っている。モーバリウス王国の次期国王。偉大なるルイジスタン王の息子。


 今はこうして隣国のプリスダット王国で酒を飲んで浮かれたフリをしているが、これは仮の姿。オレはある重要な役目を果たすために、この磯臭い小国までわざわざやってきたのだ。


 どんな役目か? フフフ……。そんなに気になるなら教えてやろう。その名もズバリ、諜報活動!


 いいか、これは秘密なんだぞ? お母上から告げられた、特別な任務なのだ。


 オレが言うのもなんだが、お母上のキレニア女王は狡猾で抜け目のないお方だ。プリスダットの国王に隣国へ無理やり嫁がされてからというもの、復讐の機会をずっと狙ってきたのだ。プリスダット王国に侵攻して姉のウィネク女王をその座から引きずり下ろし、故郷で女王の座に返り咲く。それこそが、お母上の大願。そのためになら、オレは卑劣極まりないスパイにだって成り下がろう。


 もとはと言えば、ウィネク女王が悪いのだ。プリスダットでお母上は女王の座に就く予定だった。それをあの下劣なウィネクは横取りした。話を聞かされたときは、オレもはらわたが煮えくり返る思いだった。お母上の怒りはきっと、オレの数倍以上だろう。


 だからこそ、オレはお母上の手となり足となり、この国に仕返しをしてやることにした。これは決定事項だ。誰にも覆せん!


「ワインはいかがですか、王子」


「ん? ああ、いただこう……」


 クソ! オレは今、復讐の炎に燃えているんだ。気やすく話しかけてくるんじゃない!


 ああ、ダメだ、こんなことでイラついてどうする。せっかく内情視察のためにやってきたというのに、冷静さを欠いてはいけない。


 そうだ、少し外で風にあたろう。いつものオレに戻るんだ。気高く、知的で優雅なオレに。


 舞踏会も嫌いではないが、こうして夜の静けさに身を置くのも悪くない。気品あるオレの雰囲気にピッタリではないか。


 満天の星空と、遠くで打ち付ける波の音。潮の生臭さだけは慣れんが、片手にワインがあれば些末なことだ。


 こんな素晴らしい月夜は美しい貴族の娘と夜の逢瀬でも――。


 ……ん? なんだあれは。


 黒くて不気味な何かが、海手の方角から向かってくる。


 人か? いや、向こうは海だぞ? この時間帯にやってくる者などいるはずがない。それにここは城の敷地内だ。衛兵だって巡回している。


 それになんだ? あいつの歩く音。ビチャビチャと音を立てて、まるで服のまま湯浴みをしたかのような……。


 ――まさか、海からやってきたのか? バカな。この夜の闇の中を、いったい誰が?


「ククク……」


 わ、笑っている。あの得体の知れないものは、なぜか知らないが笑いながらこっちに向かってきている。


 落ち着け、オレ。ここで声を出そうものなら、あの化け物に見つかってしまう。


 とにかく、気配を殺して通り過ぎるのを待つんだ。幸い、化け物は垣根の向こうを城に向かって進んでいる。待っていれば、鉢合わせずに済むはずだ。


「寒い……、寒い……。悪魔……契約……」


 やはりそうだ。ヤツは人外の化け物。悪魔と取引をして海に引きずり込まれた、人の成れの果てなのだ。夜な夜な海から這い出しては、悪魔へ捧げる生贄を探して彷徨っているに違いない。


 ……行ったか。


 危ないところだった。見つかったら、オレの重大な役目を果たせないどころか、命さえ危うかっただろう。


 それにしても、この城はどうなっているんだ。あんな化け物を野放しにしておくなんて。まさか飼っているわけではあるまいな。あり得ない。悪魔の手先と手を組んで、無事でいられるはずがない。


 このことはお母上にも報告しなければ。この城での諜報活動も、より一層慎重に進めていかなければならないな。

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