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復讐に燃える隣国の王

 華々しいオレの初陣は、大軍勢を率いてのプリスダット攻城戦となった。


 新生モーバリウス王国の門出にふさわしい戦じゃないか。ここで戦果を上げれば、プラントン王の名に箔がつくというものだ。


 オレがあの忌々しいプリスダット城から脱出して間もなく、偉大なる我が父、ルイジスタン王が非業の死を遂げた。死因は不治の病によるもの。もともと寝込みがちではあったが、容体が急変したのだ。王の死に、モーバリウス王国の全国民が悲しみ、涙した。


 とまあ、表向きはそういうことにしてある。だがオレは、父の死には何者かの陰謀が渦巻いているのではと感じている。……そう、悪魔だ。


 父の容態が悪くなったのは、オレがプリスダットから帰ってからだった。つまり、プリスダットの悪魔がオレについてきてしまった可能性があるのだ。誰かが悪魔をオレに取り憑かせた。そうとしか考えられない。


 クソッタレなプリスダットめ。必ず復讐してやる。お麗しきお母上のためにも、クソ・プリス・クソ・ダットには、これ以上ない屈辱と苦痛を味わわせてやるのだ。


 ここまでは悪い話ばかりだったが、それだけではない。謙虚でひかえめなオレにも、仲間がいたのだ。


 王に即位してすぐに、お母上からある話を聞かされた。オレも子供の頃から馴染みのあるおとぎ話だが、細部が異なっていた。その上、過去にあった実際の出来事だというではないか。話によると、オレはそこに出てくる登場人物の末裔なのだとか。


 お母上は伝承を再現するようオレに言いつけた。伝説の英雄の子孫を集めれば、大国に負けない力を手に入れられるという。オレは早速、部下や貴族たちを使って国中を探し回らせた。


 結果的に、大した時間もかからず仲間は集まった。というか、オレを含めて4人でよかったはずが、どの段階からか「王が側近にするための人間を集めている。身分は問わず、実力が伴えば誰でもいい」みたいな話にすり替わっていた。おかげで、100人超の腕自慢や権力者、果ては成り上がりを目論む流浪人まで合流して、いつの間にか大所帯になってしまった。


 伝承を再現するのに100人以上の旅人が街道を闊歩したら、それはもはや行軍といえる。さすがに多すぎると判断したオレは、特に優秀な人材3名を選りすぐり、傍に置くこととした。


 バルエスダ・レヂエルト。王国軍内で騎士として名を馳せていた男だ。20代半ばながら、フサフサの金髪に似合わぬ濃い青ヒゲのせいで、女性とは縁がないそうだ。しかし騎士としては優秀で、大柄な体格から繰り出される剣の一撃はオレでも受け止められるか怪しいところだ。


 クレイン・リバーサル。バルエスダとは対照的に小柄で細身の騎士だ。イケメンというより渋さが勝る、いい男だ。年は30くらいと聞いている。特徴的な青い髪をしていて、ヘルメットをせずに戦う姿が戦場では印象的だ。戦闘スタイルも一風変わっていて、カウンターを持ち味とする。攻撃を仕掛けようものなら、たちまち反撃を食らうだろう。


 ゴド・ラプ。こいつが一番偏屈なやつだ。自称『稀代の奇術師』。身長が成人男性の半分ほどしかなく、坂でこければころころと転がっていきそうなほど丸い。頭には穴の開いた麻布の袋を被っていて、本人曰く「これを外したら死んじまう」そうなので特別に着用を許可した。オレが仲間を選ぶ際に行った模擬戦闘で、見たことのない突飛な技を使っていたので登用した。自分で気に入ったから選んだものの、なにをしてくるのかわからないのが本音だ。


 お母上が言うには、伝承の旅人には肩書きがあり、準ずる役割が備わっているそうだが、あまり深く考える必要はないらしい。重要なのは、伝承の再現。これを成し得なければ、力は手に入らないのだと言う。


 聞くところによると、あの偏食王子のエインズも仲間を募って旅をしているのだとか。オレが伝承に伝わる英雄だとも知らずに、ご苦労なことだ。あいつの旅は徒労に終わるだろう。ましてや、国が一大事というときに、呑気に放浪しているとはお笑い草だ。じきに優劣がハッキリする。


 現に、プリスダットの王都は陥落目前だ。オレの敏腕策士としての本領が発揮されれば、こんな攻城戦、いとも容易い。ぬくぬくと平穏をむさぼり続け、怪しげな降魔の儀式を研究していた愚弄な者どもとは違い、我々は備えてきた。いつ何時でも、他国からの干渉に対応できるようにな。逆に言えば、いつでも攻撃に転じられるということ。


 国境の領地を任されていたプリスダットの貴族など、その最たる例だ。前持った根回しが功を奏し、我々は王都周辺まで敵に悟られることなく行軍できた。


「申し上げます! 自軍右翼後方より、敵の援軍が現れました!」


 なに?


「敵の、なんだと?」


「て、敵の、援軍にございます!」


 援軍だと? あり得ない。事前の偵察で、王都周辺に展開している兵力はいないとの結論が出たはずだ。報せを聞いて救援がやって来るとしても、最も近い隣の領地から軍が到着するまで猶予はまだあるはずだ。まさか、伏兵か? 有事の際に備えて、王都の近辺に兵を忍ばせていただと?


「うろたえるな。それで、戦況は?」


「何とか持ちこたえておりますが、援軍を要請しております」


 こ、こういうときは、どうするのが正解なんだ? 本隊は王都陥落のために城壁に張り付いているし、備えの両翼の部隊は敵が打って出てきたときの保険だと、クレインは言っていた。後ろからの敵襲の対応など聞いてないぞ!


「クレイン! クレインはどこだ!」


 こういうときのために、あいつらを傍に置いているのだ。使わない手はない。


「どうしたんすか、陛下」


 ぐっ……。こいつは剣の腕は確かだが、態度が目に余る。しかしこらえろ。オレは戦争に関しては経験がまるでない。ここは有識者に判断を仰ぐのが一番だ。


「後ろから敵が来てるぞ。どうすればいいんだ!」


「んな慌てるこたないっすよ。ちょいと兵を貸してくれたら、俺とバルエスダでサクッとやってきますよ」


おお、なんと頼もしい。だが、ちょっと待て。兵を貸せだと? 平民出の騎士風情が小癪なことを……。兵の数は金と同義。王に向かって金銭を借用しようというのか?


待て待て待て。落ち着くんだ、オレ。王たるもの、兵のいくらかも出せないでどうする。今のオレは、こいつらに頼らねば馬に乗ったお飾り同然。兵くらい余裕の顔してぺっぺっと出せ。


「よし、では兵を貸そう。後方の不届き者を討ち取って参れ」


 我ながらカッコいいセリフじゃないか。見直したぞ、プラントン。

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