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まじない師

 中央の大きな円卓を取り囲むように並べられた背もたれの高い椅子。壁際には燭台がいくつも並び、ろうそくが暖かみのある光を放っている。奥には石造りの暖炉があり、パチパチの火の爆ぜる音を発していた。


 この家の外見よりも、中のスペースは数倍大きく見える。円形の部屋から、さらに別の部屋へ行くための扉もいくつか見受けられた。


「なんだ、これ……。どうなってるんだ」


「驚いた。まさか、本当に実在するとは……」


 僕に続いて室内に入ってきたルテアも、さすがに驚嘆の表情を隠せない様子だ。


「もしかして、これって魔法……?」


「ご名答」


 僕の問いかけに応えるかのように、部屋の奥から声がした。


 見ると、暖炉の脇でグラスを片手に佇んでいる人影がある。毛皮のコートを羽織った、クセのある黒髪を肩まで伸ばした男性だ。髭が口全体を覆っていて、見た感じ毛むくじゃらといった印象だ。


「あなたが、まじない師?」


「これまた、ご名答。よく来たな、東の王とそれから――そちらは白銀の騎士か?」


 まじない師は歓迎するように手を上げて歩み寄ってきた。


「まじない師の名前には似つかわしくない風体だな」


 ルテアが率直な感想を述べる。


「先祖がそう呼ばれていただけだ。俺自身は別に、まじないができるわけじゃない」


「それなら、この部屋は?」


「ああ、東の王よ。これは正真正銘、魔法だ。特定の条件を満たしたときにのみ、扉がここに通じるようになっている。日時計の謎を解いたのだろう?」


「日時計……? 村にあったのは魔法陣じゃ……?」


「魔法陣? 誰かがそう言ったのか? あれはそんな大層なものじゃないぞ。東の王よ」


 拍子抜けした。魔法陣が作動したから、謎が解けたとばかり思っていた。


 というか、東の王ってずっと言ってるけど、僕のこと言ってる?


「あの、さっきから誤解してるようだけど、僕は東の王じゃない」


「なんだと? 東の王じゃない? だったらなんだ?」


 今度はまじない師が驚く番だった。謎は東の王ありきで解けるものだったのだから、無理もない。


「たぶん、僕は業魔……らしい」


 現時点で魔法の使えない自分が業魔などと名乗っていいものか、我ながら疑問に思う。


「業魔? バカな。なら、日時計が動作したのはなぜだ? あれは王にしか反応しないはずだが――。まあいい。そんな話をしていても仕方がない。自己紹介がまだだったな。俺はアムリボーだ」


 彼が差し出した手は薄汚れていて、ゴツゴツしていた。


 アムリボーはルテアにも握手を求めたが、断られて肩をすくめた。


「僕はエインズ。こっちは護衛のルテア。白銀の騎士だ」


「ほう。彼女はちゃんと、白銀の騎士なのだな」


 言われたルテアは腕を組んでそっぽを向く。疑われたのが気に入らないらしい。


 え? というか、アムリボー、今、ルテアのこと彼女って言った? ルテアの性別がわかるの? それに、ルテアも否定しない? ルテアって女なの?


「さてさて、ここに4人の旅人のうち、3人がそろったのだ。皆、やるべきことはわかっているな?」


 アムリボーが言うので、僕は彼とルテアを交互に見た。


 やるべきことってなんだ? 全然わかってないんだけど。あと一人捜すって意味かな?


 そんなことより、魔法が実在したって事実のほうが、圧倒的にインパクト強いんですが。まだ魔法っぽい魔法は見てないけど、これって要するに、扉を使って違う場所にワープしたって理解でいいんだよね? それだけで十分すごい。


「アムリボー。一つ言うが、こいつは何もわかっていないぞ」


 ルテアがこちらを顎でしゃくる。


「そうなのか?」


 アムリボーに問われて、僕はぎこちなくうなずいた。


「両親から聞いてないのか? それか、先祖代々伝わる話があるとか」


「伝承なら知ってるけど、自分が業魔だなんて、つい最近まで知らなかった。古き英雄の伝説が嘘だったのもね」


「信じられん。何も知らない状態で来たのか? だが、どうやって?」


「父上から言われたんだ。ここに行くようにって」


「ふむ……。なら、君の父親はすべて知っていて、君をここに寄越したようだな」


 さあ、どうだろうか。父上は旅を途中で断念している。つまり、仲間全員に会えなかった可能性もある。知っているのは伝承だけで、その先のことは詳しく知らなかったのではないだろうか。だからこそ、何も伝えずに僕を旅へ送り出した。


「だが、君が話を聞いていないのでは意味がない。この際だから、我々がこれから成すべきことをおさらいしておこう」


 そう言うと、アムリボーは奥の部屋へと引っ込んでいった。


「……ルテア、まさか、君もすべて知ってたの?」


 小声で尋ねると、彼女は冷たい視線を向けて一言、「無論だ」とだけ言った。


 なんだよ、それ。知ってるなら言ってくれたっていいじゃないか。どうして、護衛専門だから他のことは何もしません宣言なんてするんだよ。


「待たせたな。そこの坊やのために、俺が話をしてやるよ。白銀の騎士様も、俺の話に食い違いがないかどうか聞いててくれ。さあ、掛けて」


 円卓の席を勧めたアムリボーは卓上に古びた地図を広げ、僕らの顔を見渡した。

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