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奇妙な村

 オルム村は城から半日もかければ到着する、小さな村だ。中心にちょっとした広場があって、取り囲むように家が建ち並んでいる。広場の真ん中にはこの村で一番高さのある石造りのオブジェが建てられていた。


 大きな一枚岩の塔のようなオブジェだ。先端付近には穴が開いていて、水晶みたいな透明な球体が埋め込まれている。


 何を象徴したものなんだろうか。


 しげしげとオブジェを眺めていると、背後からルテアが声をかけてきた。


「さっきの盗賊だが、何者からかこちらの情報を聞いたような発言をしていた。村についたからといって気を抜くな」


「あ、ああ」


 そんなこと、言ってたっけか。まあ、ルテアが言うんだ。覚えておこう。


 最初の目的地をオルム村にしたのには理由がある。父上に言われたからだ。なんでも、ここには旅の助けになる人物がいるらしい。


 円形の村を一通り回って、僕はそれらしき家を一軒見つけた。


 軒先に吊るされた薬草や根菜の数々。庭に植えられた色とりどりの植物たち。


 父上が捜せと言っていたのは、まじない師と呼ばれている人物だ。それが、伝承の『天体を占う者』に相当するそうだ。


「見つけたよ、ルテア。まじない師の家だ」


「私は外で待つ。用が済んだら言え」


 ぶっきらぼうに答えたルテアは、家の壁に背を預けて剣の手入れを始めた。


 わかったよ。君の仕事はあくまでも護衛。これから会う人にも、この先の旅路にも、全然興味がないっていうんだろ。素っ気ないなあ。


 旅というからには、にぎやかで楽しいものだと勝手に想像していた。いや、仲間になった相手が悪かっただけか。


 僕の心情など気にも留めず、ルテアは武器の具合を確認している。


 さて、僕もやるべきことをやろう。いきなり身の危険を感じるようなトラブルもあったけど、五体満足でここまで来れたんだ。さっさと魔法使いになれば、盗賊に怯えなくてもいいはずだ。


 円形の模様が彫られた、意匠の凝ったドアだ。中心には小さなガラス玉が埋め込まれ、そこから渦巻くように彫刻が施されている。


 ドアをノックするが、返事はない。扉を開けて、埃っぽい室内に入る。窓に張られた布のせいで、中は薄暗い。


「あの、すみません」


 本当に人がいるのか? 家財道具はあるものの、どれも長い間使っていないみたいだ。埃をかぶっている。


「誰かいませんか?」


 そんなに大きくない家だ。部屋数で言うと、二つしかない。しかもその部屋も簡単なパーティションで区切られているだけだ。声が聞こえないはずがない。


 不在なのかな……。


 そう思った僕は、玄関に戻ってドアに張られたメモに気が付いた。


 なんだろう。走り書きで何か書いてある。


「東の王に凶兆あり。黒き魔の手が迫りしとき、金色の眼は開かれん」


 声に出して読んで、頭に疑問符が浮かぶ。


 外に出た僕は、一応ルテアに報告することにした。


「こんなものが貼ってあったんだけど」


「これを私に見せて、どうしろと?」


 ルテアは冷たく言い放った。


 ま、そうだよな。君が非協力的なのはわかっていたさ。旅のお供に連れて行くなら、こういうタイプは選ばないこと。僕が得た教訓だ。


「おい」


 歩き出した僕はルテアに呼び止められた。


「この村、人がいない。何かあるかもしれん。注意しろ」


 言われて初めて気が付いた。村に来て間もないが、まだ一人も村人を見かけていない。家の数も少ないし、そこまで大きな規模の村ではないが、たしかに異常だ。


「もう誰も住んでいない? 廃村ってこと?」


「知らん。だが、この村はどこか妙だ。気づいていたか? どの家の前にも、変わった像が置いてある」


 ルテアの観察眼はすごい。


 僕は素直に感嘆した。


 なるほど、広場をぐるっと囲む家々の前に、腰ほどの高さの石像がある。


 近寄ってよく見てみると、それは動物の形を模したものだった。


 フクロウ、オオカミ、リス、ネコ、ヘビ、カラス、そしてシカ。種類の違う動物の像が、それぞれの家の前に置いてあるのだ。


 僕の中に、ある図が思い浮かんだ。


 円の外周に等間隔で並ぶ像。上から見れば、そう、これは魔法陣だ。城にあった本で見たことがある。魔法使いは、円形の模様を描くことで特別な魔法を使うことができるのだ。


「ルテア! これは魔法陣だ!」


 頭にひらめいたアイデアの嬉しさで、思わずルテアに言ってしまった。どんな反応が返ってくるかなんて、目に見えているのに。


「ほう、そうか」


 あれ? 思ってたのとちょっと違うな。まあいいか。


 これが魔法陣だとわかったところで、次はどうすればいいんだ? 僕はまだ魔法を使えないし……。


 そうか! あの走り書き! あれがヒントになってるんだ。冴えてる。冴えてるぞ、エインズ!


 手に持ったメモに視線を落とす。


 東の王? 像の中に人の形をしていたものなんてあったか?


 村を再度一周してみるも、人型の像は一つもない。


 もしかして、東の王はこの中の動物のどれかを指しているのか?


 でも、どれなんだ? 王様っぽいのはオオカミか……、シカ? フクロウだろうか。いずれにしても、決定的な理由はないし……。


「いつまでこの村にいるつもりだ? もう用がないのなら次に行くぞ」


 辺りをぐるぐるしていた僕に、しびれを切らしたルテアが言う。


「ちょっと待って。何かあるはずなんだ」


 でないと、父上が意味もなく行けと言うはずがない。


 だけど、わからない。状況的に、何かの謎を解けと言われている気はするんだけど……。


 こんなことなら、魔法陣についてもっと勉強しておけばよかった。


 僕は頭を抱えた。

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