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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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ここから

これで一応このお話は終了となります。読んでいただければ、幸いです。

「私はどうしたらいいんだろう」

マユリの手を握って、フィルが小さな声で呟いている。

思いがけない言葉に驚いて思わず顔を上げた。


「皆、真剣だ。 私はこれからどうすればいいんだろう」

(あれ? フィル様が何だか 変な感じです。落ち込んでいるみたい)

思わずフィルの顔を見ると、

少し苦しそうに眉を顰めたフィルの長い睫毛が小さく揺れていた。


途切れがちな小さな声で呟いている。

(フィル様が苦しそう。辛そうなお顔。でもそんなお顔でもなんて綺麗なんでしょう。

睫毛が長くて羨ましい。美形ってこういう人の事よね、本当に王子様だし。

そんな人が私が居ないと駄目ってねぇ。やっぱり、信じられない )


「私は皆みたいに、仕事の実力もないし、まだ何の実績も功績もない。男として誇れるものは今は何もない。

森に1人で生きていただけの人間でしかない。シオンの様な音楽の才能も、ジークの様な力もない。

マユリにあげられる物は私だけなんだ。」


思いつめたような言葉が頭の上から降って来る。


「男として優れている所なんてないし、選んでもらえるものが何もない。

私みたいに力のない男じゃ、誰かを幸せにできるはずがない。

そんな私では、君に選ばれない」


「あ、 あのう。」

目を瞑ってうなされたように話すフィルはこちらを見ようともしない。


「私が傍に居たら、また呪いで君が傷付くかもしれない。

私のために君が又、辛い思いをしたり、苦労をするんだ」


「あ、あのう。フィル様」


「うん。呪い持ちの私が傍に居たらいけないんだ。

でも、でも。 私は、私は、…… 傍に居たい。

君が誰か他の人の傍に居ると考えると、じっとしていられないんだ」

マユリが声を掛けても、フィルはこちらを見ようともしない。



「フィル様。フィル様。 大丈夫ですか?」

少し大きな声で呼び掛けるが、視線は合わない。


「大丈夫じゃない。大丈夫じゃないんだ」

苦しそうなフィルの声に、何だか胸が締め付けられるようで息苦しい。

少しでも安心して欲しいと、握られていた手を両手でギュッと握り返した。

「大丈夫。フィル様は大丈夫。私がお傍に居ます」


その声と繋がれた手に、やっと気が付いたようで俯いていた顔が上がった。

紫水晶の瞳が不安そうに揺れてこちらを見た。


視線が合うと困った様に眉が下がり、少し横に視線を逸らしながら、

「君がシオンの所に居る時、そこに居ると分かっていても、どうしようもなく寂しかった。

君の声や姿が見えないと、つい探してしまうんだ」

少し震える声で話すフィルは色気が駄々洩れで目が離せない。


「私、そんなに言ってもらえる程の人間ではないです。役に立ったとは思えませんし、

何も知らない上に、デブで美人でもないし…… 迷惑な居候でしたし」

「デブとか、役に立つとか、関係ないよ。

君が傍に居てくれるだけで、それだけで安心して嬉しくなるんだ」


フィルがマユリの顔に手を伸ばしその頬に触れる。

「マユリ。君は私が居なくても、きっと1人でも生きていける。でも私はどうも駄目なようだ。

1人では寂しくて耐えられない。いつの間にかそうなっていたみたい」

フィルは力なく小さく笑った。


「そんな…。 私を助けて下さった方なのに」

頬に当てられたフィルの手に手を重ねて、不思議そうに小首を傾げると、

「違うよ。救われたのは私の方なんだ」

「私はお家に住まわせてもらって、迷惑を掛けただけです」


フィルは小さく苦笑すると。

「あの頃、私はもうどうでもよかった。命を諦めていたんだ」


「そ、そんな……」

衝撃を受けたマユリは驚いて口元に手を当てた。


「私は情けない男なんだ。笑っていいよ。

兎って一羽になると、寂しさで死んじゃうってよく言うけど、分かる気がする。

君が傍に居てくれるから、今私は笑えるんだ。ホントだよ」

フィルはマユリの額に自分の額をこつんと押し当てて言った。


(うわぁ。何。ち、近い。綺麗なお顔が近過ぎ。おでこが。おでこがくっ付いています。

フィル様、何てことをするんですか。お顔が近過ぎてどうしよう。恥ずかし過ぎます)

一気に全身が火を噴きそうに熱くなってしまった。


「んん。額が熱くなった。また赤くなってる。可愛いなぁ。

今すぐに私の妻になるって言ってくれたら簡単なのに。

皆、意地悪だ。何で私の幸せの邪魔をするんだろう」

目の前の美麗な顔の王子様がため息交じりに話す。


「当たり前だ。お前に譲れるはずがないだろう?

マユリを知れば、傍に居たくなる。温かい幸せをどうして掴まない?

簡単に他の者に譲れるわけないだろう。」

シオンがいつの間に傍に立って、冷ややかにフィルを見下ろしていた。


「シ、シオン様……。どうしてここに」

「何の用ですか? シオン様」

くっついていた額が離れ、マユリはほっとして小さく息を吐いた。


「ね。マユリ。フィルに同情して返事をしては駄目だよ。

私なら君に辛い思いをさせない。泣かせない。私と一緒に美しい音楽を奏でよう。

私達はいいパートナーだよね。そうでしょ?」

ニッコリと美麗な笑顔を向けられると、その美しい顔に見惚れて言葉が出て来ない。


「シオン様。あなたがマユリに渡したペンダント。あれはどういう事でしょうか?

あれは呪いの込められた物でしたよね。何の意図があったのでしょうか?」

フィルはいつになく、鋭い視線でシオンを睨んで言った。


「ああ、あれはまったくもって私の失態だ。

母上からのささやかなお礼として、母上のコレクションの中から選んだんだ。

できるだけシンプルでマユリが気にしないように。一番小さな石の付いた物を探して渡したんだ。

もちろん、似合う物と思って選んだよ。

それが呪物だったなんて。私も気が付かなかったんだ。

マユリ、本当に許して欲しい。辛い思いをさせてしまったね。すまなかった」

とマユリに向かって深々と頭を下げた。


尊敬するシオンの謝罪に驚いて、

「何てことを。頭を上げて下さい。私なんかに謝罪なんて」

焦った様にシオンに言うが、

「頭は上げられない。君は呪いを受けたでしょ。本当にすまなかった」

と言って頭を下げ続ける。


「困ります。シオン様。頭を上げて下さい。お願いします。

私どうしたらいいのでしょうか?」

「本当に許してくれるの?」

「はい。シオン様が故意にそんな事をするわけありません。

シオン様は最初から私には優しさしかありませんから」

マユリは最初の出会いを思い出していた。


出会った時からこんな子供を馬鹿にすることなく助けてくれた。

ローブの中に隠して悪意から守ってくれた。

涙を、気持ちを、黙って見ていてくれた。

シオンはいつもそうだった。


心底信じていると分かる瞳と声でシオンに言うと。


「ああ。マユリ、君は私を信じて許してくれるんだね。ありがとう。嬉しいよ」

シオンの満面の笑顔が輝かしくて直視ができない。


「はい。シオン様はいつもお優しいです」

「私は優しくないよ。好きな人にだけ。他の人には興味ないからね」

「そんな事信じられないです」

「そうかな。マユリはそう思ってくれるんだね」

ニコニコと笑顔で話をする2人に


「シオン様。マユリはああ言いますが、失礼ながら私は疑っています」

「そうだね。私でもそう思う。信じない。それが普通だよね」

「はい。なので、マユリに近付いて欲しくありません」

固い声で話すフィルはマユリの見たことのない顔をしていた。


「それはできない。私はマユリに選ばれたいから」

「引いていただけませんか?」

「無理だね。マユリに拒否されるまでは引かない」

シオンは馬鹿にしたように流し目でフィルを見て、薄く笑った。


「マユリ。私を選べばいいのに。こんな面倒な男のどこがいいの? 

呪い持ちだよ。王子様だけどね」

「シオン様。何でそんな酷い事を。フィル様は私の大切な、大事な方なのに…」

マユリの悲しそうな声に、


「ああ、ゴメン。君を悲しませるつもりはないんだ。ただね、私も必死なんだ」

「音楽のパートナーは何時でも致しますけど……」

「それだけじゃ足りないから。一緒に居たいから、妻にと望むんだよ」

「それこそ、意味が分かりません。妻って、結婚するんですよ。冗談では済みません。

シオン様に私なんて、身分違いも甚だしいと思います」

「君には分からないんだね。君の価値は」

不憫な子供を見る様なシオンの視線に首を傾げてしまう。


「マユリ。シオン様の話はいいから、私の事だけ考えて」

「フィル。その言い方はどうかと思うぞ」

不毛な会話が続けられる。



ここの人達は過大評価をしていると思う。

こんな平凡な自分なのに、価値なんてどこにあるのだろう。

そんな自分なのに結婚なんて、この歳で考えられない。


大好きなフィルとシオンの2人の諍いも見たくない。

1年後まではどう生きるかを考えていいと猶予を与えられている。

自分は何ができるか、何をするか、この際ゆっくりと考えよう。

選択肢は一つではない。


この世界をもっと知って、この国の優しい人々をもっと知ろう。

傍に居ていいと言ってくれるフィル様にもう少し甘えてみよう。

自分の価値何て分からない。

でもまだ私は成長途中、のはず。

周りには優しい人ばかり。


おばあちゃまの笑顔が目に浮かぶ。

「幸せはどこにでもあるのよ。どんな事もあなたの見方次第。

沢山の人を、世界を好きになってね。

好きな物を沢山見つけて、幸せになるの。

私の大切な、大好きなマユリ。

ずっと一緒に歩いていける大事な人を見つけてね。おじいちゃまみたいな人よ」


私はまだ大人じゃない。迷うことは悪い事じゃない。

素敵な人達が沢山居る、この世界は美しい。

魔法は使えない自分だけど、ここに居てもいいみたい。

明日に何が起きるのか、また違う世界に飛ばされるかもしれないけど、今はここに居る。


フィルとシオンはまだ睨み合っている。

大好きな2人には仲良くして欲しいのに、困ったことだ。


その時、落ち着いた声がした。

「マユリ。面倒なヒースクリフが帰って来たぞ」

「アレン、何言ってるの。邪魔だよ。マユリ、お待たせ。僕だよ。

これから又一緒に居るからね。僕が守ってあげる」


今日のヒースはユニコーンの姿で傍に寄り添った。

「元気になって嬉しい。でも人の姿にはあんまりならないで欲しいな」

「何でだよ。麗しい人型の僕の方がよくないの」

「ユニコーンの姿の方が安心するの。首に抱き付けるから」

「そうか。ならこのままで」

表情は良く分からないが、ヒースが喜んで笑ったように見えた。


「フィルとシオンは睨み合って、何をしているんだ」

「アレン様。ヒース。お茶にしましょう」

ニッコリと笑顔でアレンの腕をとったマユリは、

「フィル様、シオン様。ご一緒にお茶にしませんか」

と2人に声をかけた。


同時に振り返った2人は

「もちろんだ」

と美しい笑顔で答えた。


ああこの世界は美しくって、ちょっぴりくすぐったい。

フィル様ともっとお話しをしよう。

きっともっと好きな物が増えるはず。

呪いなんて怖い謎もまだまだ沢山あるけれど、きっと乗り越えられる。

ニコニコしているとフィルが傍にやって来て、誰にも聞こえないように小さな声で耳打ちした。


「ねぇ、マユリ。君にだけ言うね。

私の本当の名前は、フィリップ・サン・スィール。

真の名前は秘密なんだ。知られると支配されるからね」

「そんな大事な事を、どうして…」

「マユリには私の命をあげたいから。まぁ、もう君のものだけどね」

そう言うフィルは今迄で一番嬉しそうに笑った。



頭を抱えたい私の冒険のお話は、ここからまた始まる。



















これで、一応このお話は終了と致しました。拙いお話を読んで下さった方に感謝を。きっともう一度文章力を上げて、書き直すと思いますが、今回物語の難しさと書くことの楽しさを知ることができました。次は短い物を書いて修行です。機会があれば、読んでいただけると幸いです。

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