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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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帰って来た森の家

フィルとマユリは出会った時の事を思い出していた。


泉の傍で泣いていた少女に、水の中から「邪魔だ。」と言って声を掛けた。


住む世界の違う一人ぼっちの2人が、泉のほとりで出会った。


異世界に投げ出され、訳も分からず途方に暮れて泣くマユリと、

呪いを受けて、未来に何の希望も見ていなかったフィル。


会うはずのない2人の人生が何故かここで交差した。


不思議な縁で結ばれ、フィルの呪いは解呪され、マユリは多くの人と出会った。

怒涛のこの数か月が嘘のように今は静かだ。

久し振りの2人だけの夕食が済むとフィルが暖炉に火を入れた。


暖炉の前の特等席は気持ちの良い温かさに包まれ、薪の燃える音だけが聞こえていた。

フィルは長椅子の肘掛けに気だるげに寄りかかって、行儀悪く座っていた。

そこに蜂蜜を入れて少し甘くした紅茶のマグカップをマユリが持ってきた。


「お疲れですね」

「うん。ちょっとね。これ蜂蜜入り?」

フィルにマグカップを渡すと、長椅子の端にマユリも座った。

少し離れたその位置に苦笑をして、カップに口を付けた。

そのほのかな甘さに自然と笑顔になる。


「不思議だね。又、ここに2人で居る」

「そうですね。元気で、ここに」

マユリとフィルは暖炉の火を2人で眺めて、ぽつりぽつりと話す。


「明日から城に行くのかな?」

「行かないといけないと思います。でないと、皆さんがこちらに来ますよね」

「そうだね。仕方ないね」

「でも、結婚って、夫を決めるって。私には烏滸がましいお話で…」

困った様に言葉が途切れる。


「大丈夫。私に決めたらいいだけだよ」

「そんな。フィル様。冗談でも、ありません。皆様は王族ですよ。私は一般人」

「でも、私じゃなければ、シオンやジークのお嫁さんになっちゃうよ」

「それこそ、恐れ多いことです。私なんて、あり得ないでしょう?」

呆れたようにフィルを見て言うと、


「皆、望んでいる事だよ。分からないの?」

「私ごときが皆様の誰であっても、結婚なんてできませんよ。無理です」

「簡単さ。結婚するって、一言言えばいいだけ」


「そんな、簡単に……」

フィルの軽い口調に絶句して、思わずぽかんと口が開いてしまう。


「うふふ。何? その顔。皆本気なんだよ。疑っているの? マユリとずっと一緒に居たいんだ」

フィルは可笑しそうにマユリの頬を人差し指でつついて言った。

「一緒に居るって、私なんかと一緒に居るメリットなんてありません」

眉をひそめて、不思議そうにフィルの顔を見上げる。


「メリットって何? 君の傍は温かくて安らげて、ただ一緒に居たいんだ。何かをしてもらう必要はないよ。ああ、でもおやつや料理は作ってくれると、とても嬉しいけど」

「そんな事、城のシェフの方がずっと凄いと思いますが」

「君の料理やおやつは愛が溢れているから。とても美味しくて幸せになる」

「褒め過ぎです」

頬を染めてマユリは顔を両手で覆った。


「皆、君に癒されるんだ。君という人が好きなんだよ。特に私が」

(好きって…、好きって、フィル様。そんな夢の様なお話。

私、信じられません。王子様ですよ。私に何も取柄はないです。ごく平凡な一般市民です。

そんな。夢の様な事。 これは一時の夢。本気にしてはいけません)


「疑っているな。駄目駄目。全部本当のことさ。そして、君がきちんと決めないと母上が勝手に決めてしまうよ」

「私の結婚相手ですか?」

「そう。間違いなくね」

「そんな事が?」

「有言実行の人だから。諦めた方がいいよ」

マユリは顔を覆った指の間から恨めしそうにフィルを覗く。


「私どうしたらいいのですか?」

「だから、私に決めなさい。君、私が一番大事でしょ?

私にはキスできたけど、ジークやシオンでも助けるためにキスできる?」

悪戯っぽく笑ってフィルが言う。

驚いて一瞬思考が固まった。

(あの時もしもジーク様やシオン様なら、私は口付けできただろうか。命が掛かっていたとしたら、私はどうしただろう)


「それしか方法がなければ、きっと。 私。できます」

きっぱりと言うとフィルをじっと見た。

「そんな。 嘘だろ? 私だけだろ。マユリ、嘘だと言って」

驚いたように目を瞠ったフィルがマユリを見つめる。

「命を救えるなら。私、できます」


「私が特別ではない…。信じられない。私が、マユリの特別ではない……?」

落ち込んだ様にがっくりと項垂れた。


頭を抱えて横目でじとっとマユリを見ると、

人一人分離れていたマユリの傍に坐ると、ガバッと両手で腰に抱き付いた。


膝の上から紫水晶の瞳が恨めしそうにマユリを見上げる。

フィルの行動に驚き、その姿のあまりの色気に思わず息を飲む。

(何。何なのこれ。フィル様。私、妹ですよね。まるで、本当に落ち込んでいるみたいです)


「酷い。マユリは本当に酷い。私と皆は一緒なの? マユリにとって私って何なの?」

「そ、それはもちろん大事で。私の命に代えてもいい方です」

「それなのに、他の人間と同じなの?」

「そ、それは…」


(あ、あれ? 大事って。私、命に代えてもって。それ普通じゃない。一緒じゃ…ない)

気が付けば顔は火照り、全身が一瞬で熱くなった。


「あれ?マユリ。急に体温が上がったね。どうしたんだい?」

膝の上からマユリの顔を見てくるフィルが意地悪そうに聞く。

「あれ?顔も首も真っ赤だよ。どうしたのかな?」


マユリはフィルと反対側に顔を背けて

「フィル様が膝にお顔を乗せているからです」

とぼそぼそと呟く。


「ねぇ。本当に私は皆と一緒?」

たたみかけるようにまた聞くフィルはマユリをじっと見つめた。

「あ、あの、ちょっと……違うかと…」

満足そうにニッコリと笑ったフィルは、起き上がると両手でマユリを抱き締めた。


「良かった」

安心したような声が頭の上から響く。

恥ずかしさで身体は硬直してしまったが、あまりのショックで反対に頭は冷静になった。


「でも、結婚は一生の問題です。もう一度ゆっくり考えて下さいませんか?

私なんて美貌も権力もないし、身分とかマナーとか。相性とか。何もないのですから。

皆さんに相応しい方はそれこそ沢山居るでしょ?

身分相応という言葉もありますし、私が傍に居るより他の方との方が幸せになれると思います。

私も自分が幸せになるためにも、しっかり考えようと思います」


「そうだね。マユリがきちんと選ばないとね。結婚は成人してからだから、あと1年はあるからね」

「はい。皆さんが後悔するなんていけませんから」


「私は私以外の選択は許さないけどね」

「あ、あの、それはフィル様が間違っていると思いますが…。笑って言わないで下さいますか」

「最善で、最高は決まっているよ」

「何だか違う人のようです」

「君の一番は…ね。ここに居るから。安心して」

知っていると思っていた人が何だか違う人に変身したように思えるが、


「取り合えず、恥ずかしいので少し離して頂けますでしょうか?」

「仕方ない。でも膝枕はしてね」


その後しばらく、膝の上で満足そうに笑う笑顔のフィルを眺める事になった。









前回から時間が随分経っていて驚きました。初心者のくせに何ということでしょう。努力不足でした。反省します。

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