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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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秘密だったのに

「マユリは解呪の為に、あなたに口付けをしたの」

「はぁっ? く、くち……って」

窓の前に立っていたマユリは、驚きで動けなくなった。


(嘘! 何で、王妃様。秘密なのに、それ言っちゃダメです。

言ったら、知られたら、恥ずかしくて金輪際フィル様に会えません。

どうしよう。秘密だったのに。

どうしよう、どうすればいいのかしら。バレちゃった)

王妃の言葉を聞いたフィルは、驚いた表情で目を瞠り、口元を片手で覆った。


「口付け? キス…って?」

「そう。又、あなたを救ってくれたの」

「私に、 マユリが……。私に口付けを…?」

「そう。解呪の為。あなた、どう思う?」

王妃の言葉が理解できた時、一瞬でフィルの顔が真っ赤になった。


「私に…。 あの時に…。 口付け……した? 

嘘だろう……。 何で…、 何で、私は何も覚えていないんだ」

立ち上がったフィルが、怒ったように怒鳴る。


(ええっ! 何故? 怒るの、そこですか? 覚えていないことに何の問題が?

覚えていない方がいいと思うんだけど。キスは好きな人とするものよね。

私、嫌われてはいないと思うけど、恋人じゃないし。)


「そう。 なので、彼女は恥ずかしがってあなたに会わないの。

会えないのよ。 うふふ。 乙女心なのね」

「私に会ってくれないのは…。話もできなかったのは…。」

「あなたならどうするのかしら?」

フィルは頬を赤く染めて、何とも言えない顔をして考え込んだ。


「じゃ、そういうことで、 後はねぇ…。 本人に聞きなさいね」


と満面の笑顔で隣の小部屋のドアを大きく開け放った。

そこには、隠れることもできなかったマユリが、赤い顔をして立っていた。


マユリを見つけたフィルは、素早い動きで傍に来た。

すぐ横からフィルの見下ろす様な視線を感じるが、恥ずかし過ぎて顔は上げられない。

視線ををさまよわせながら、少しずつ離れようと後ろに下がっていると、腕を掴まれた。


「ねぇ、今の話。本当?」

逃げられなくなったマユリは俯いたまま、こっくりと頷いた。

「そうか。 でも、私は君が来てくれた時のこと以外、何も覚えていないんだ。

だから、恥ずかしがらないで。 それとも、私のことが嫌いになったの?」

少し悲しそうなフィルの声に、思わずフィルを見上げた。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい! 

私、意識のないフィル様に、とても失礼なことをしました。 

私なんかが、許可もなく、勝手にフィル様に……」

頭を下げて、苦しそうに謝罪するマユリを、フィルは両手でそっと囲い込むように抱きしめた。


「私を救ってくれた。2度。2度もだよ。それも、命がけで」

「そ、そんな大それたことは…。当然なことかと」

「誰にでも出来る事じゃないよ」

「でも、でも、私は……」

俯くことしかできない。


頭の上から嬉しそうな声がする。

「やっと、捕まえた。もう逃げられないからね。

私は怒っていなし、恩人の君にお礼がしたいんだ。

でも、残念だな。私の記憶がない。

ねぇ、私が覚えていられるように、もう一度キスしてくれない?」

(何で。何で、もう一度私が、キ、キスなど。できません。絶対にできません。

何てことを……。何と恐ろしいことを笑っておっしゃるのでしょうか)

心の中で絶叫していても、声にはできない。

フィルの腕の中にいる現状と言われている内容に、声もなく体が強張る。


マユリは思わず後ろに一歩下がろうとした。

「逃げちゃダメ」

フィルは嬉しそうにまた笑って、ギュッとマユリを抱き寄せた。


熱くなった頬がフィルの胸にぴったりとくっついて、頭も体もうまく動かない。

離れてもらおうと、両手でフィルを押しているが、びくともしない。

「でも、良かった。嫌われてなくて。本当に安心した。また一緒に暮らせる。

私は君が傍に居てくれないと、寂しくて堪らないんだ」

頭の上から、優しい声が降ってくる。


その言葉は恥ずかしかったが、嬉しくもあった。

(私も同じですよ。一人は嫌です)

何だか安心して力が抜けると、右手をすくい取る様に握られた。


そのまま、手を引かれて小部屋から王妃の部屋に戻ると、

「ね。言った通りでしょう」

と王妃がマユリに微笑みかけた。

「はい」

と恥ずかしそうに小さく頷いた。


王妃の前に立つとフィルは満面の笑みを浮かべ、

「母上。私は嫌われていませんでした。

なので、これから一緒に森の家に帰ります。皆にそうお伝えください。

では、私達はこれで失礼致します」

と言って一礼すると、スタスタとドアに向かって歩き出した。


「えっ。一緒に帰る? 今からって。フィル。そんな。皆がそんなこと許さないわ。

マユリは置いて行きなさい。あなた、そんな我儘を……」

「もう、皆のことはいいのです。止められるだけですから。

私は自分の心に正直に行動したいと思います。

私の幸せはここにありますから」

とマユリとつないだ自分の手を持ち上げると、マユリの指に軽く口付けた。


「なっ、何を!」

思わず手を引っ込めようとするが、離してはもらえない。

「うふふ。これで私の記憶が一つ増えた。私からも君に、キス一つだね」

(わ、わわ。フィル様が悪戯っ子だ。こんな事…。でも、何てカッコいい!)

見惚れるマユリは引っ張られるままに、ドアまで来てやっと気が付いた。


「王妃様。本日はありがとうございました。失礼致します」

と歩きながら頭を下げて、やっと挨拶をすると

「もう。仕方ないわね。マユリ。また直ぐに、来るのよ。待っているわ。その子は置いてね」

と王妃は諦めたような苦笑を浮かべて、片手をひらひらと振って退室の了承としていた。



そのまま、マユリはフィルに手を引かれたまま急ぎ足で城内を歩いた。

急ぐ2人の姿に、すれ違う人々は思わず視線を向けるが、足が止まる事はなく

程なく城の奥まった部屋に到着した。

重厚なドアの前に護衛騎士が2人立つ、人の気配のない部屋。


「この部屋は何ですか?」

「ここはね。転移の魔法陣があるんだ」

「ジーク様が行き来していたあれですか?」

「そう。ここから、森の家に帰ろうね」

フィルは笑顔をマユリに向けて言った。


護衛騎士は直ぐに部屋に通してくれたが、

「フィル様。魔力を使うと呪いが発動するのでは?」

と思わず聞いてしまう。


「うん。呪いはほとんどというか、消えているね。誰かのお陰みたいだよ」

(何と言えばいいのでしょうか。この笑顔。少し悔しくなってしまいます)

言葉にならない複雑な表情になってフィルを見上げる。


「ごめん。ごめん。もう、言わないから。こっちに来て」

と2人で転移の魔法陣の上に立つ。

「離れると危ないから、私にしっかりとつかまってね」

と言うと、マユリをしっかりと抱き込む。


おそるおそるフィルの背中に両手を回して、

「こんな感じでいいのでしょうか?」

「うん。でも危ないから、もっとしっかり抱き付いて」

マユリはギュッと両手に力を入れて、離れないようにくっ付いた。


「うん。いいね。そのままで」

嬉しそうな声がする。

(離れたらどこかに飛ばされてしまうのかしら。恐いなぁ。大丈夫なのかしら)


思わず目を瞑ると、全身が不思議な浮遊感に包まれた。

「はい。着いた。大丈夫?」

こわごわと目を開けば、森の家の居間に立っていた。

「うわぁ。凄い。帰って来たんだ。フィル様。本当に一瞬です。凄い」

とキラキラした瞳で抱き付いたフィルを見上げると、


「うん。お帰り。私のこと少しは凄いと思ってくれるかな?」

「凄いです。本当に魔法使いなんですね。凄い。尊敬します」

「そう? 少し照れてしまうな。でも、このままでいいの?」

と言うと抱き付いている腕をそっと撫でた。


「あっ。私ったら、いつまでも、ごめんなさい」

と言うと、急いで魔法陣の上から外に出た。

「私はいつまでもマユリに抱かれていたいけど、この家も久しぶりだしね。

掃除して住めるようにしないとね。また2人で楽しく過ごそうね」

と言うと赤くなったマユリの頬をそっと片手で撫でた。


(やっぱり、意地悪だ。フィル様少し変わった。そして、綺麗過ぎ。もう、攻撃力が半端ない)

ちょっと拗ねた気分になったが、

「どうした? 疲れたのかな? 」

綺麗な紫水晶の瞳がこちらを見て優しく細められた。


慌てて目を逸らして、掃除道具を捜しに動き出した。

「お。お掃除をしますね。あ、食材あるかな~」

些か、挙動不審な動きにはなったが、森の家での生活がまたスタートした。


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