戸惑い
唖然として、シオンの消えたドアを見つめた。
(何だったんだろう。現実のこと。今のは? でも、キスされたのは… 本当のこと?)
思い出すと頭から湯気が出そうで、どうしていいか分からなくなり、両手で口を覆って、そのまま動けなくなった。
シオンが出て行った後にナネット達が戻って来たが、視線が微妙で居たたまれない。
(今の話は全部…聞こえたわよね。ソファーに座って惚けている今の自分は。ああ、恥ずかしい。
こんな子供が、大人に対応できるわけない。
恋愛なんて、私。片想いしかしたことないし、お付き合いなんて夢だったし。
ましてや、好かれるなんてなかった。こんな、平凡な美人でもない一般庶民。
何の冗談だろう。信じられないこの展開。これは私の夢… よね)
と思って頬を抓れば痛みがあった。
「ああ。現実、みたいです……」
がっくりと項垂れた。
時間は少し巻き戻り、
シオンがマユリの部屋を訪れる少し前。
シオンはアレンと向かい合っていた。
「おい。あれのネックレスはどうやって手に入れた」
アレンがいつになく高圧的な口調でシオンに言い放った。
「あれと言いますと?」
「マユリの着けていたやつだ。とぼけるな」
冷たい視線で睨む。
「ああ、あれは母上がマユリにプレゼントした物です。何か問題でも?」
「問題だらけだ。 お前は知っていたのか?」
「何のことでしょうか? ささやかなお礼だと言っておりましたが」
シオンはアレンの言葉が理解できずに、反対に問いかけた。
「本当に知らなかったのか? 魔力を感じなかったのか?」
「加護を付けているとは聞きましたが…」
「それで、誤魔化していたのか。お前でも騙されたとはな」
アレンは肩をすくめて言った。
「騙すとは?」
「あれはな、魔族の呪いの付いたネックレスだ」
シオンが呪いという言葉に反応した。
「呪いですって! マユリに何の呪いが掛けられたのですか?
それで昨日から部屋から出て来ないのですか? マユリは無事なんですか?」
真剣な表情で、アレンに詰め寄った。
その様子にアレンは驚いて、一歩後退った。
「そ、 そうか。 知らなかったのか…。 嘘には見えんな。
お前を信じよう。あれには、2人の人間の認識を入れ替える呪いが掛けられていた」
「認識を入れ替えるとは?」
「この場合は多分、フィルとお前だ」
「それに何の意味が?」
不思議そうにアレンに尋ねる。
「マユリにとって、一番大事なのは多分フィルだろうな。 そこはお前でも敵わないんじゃないか。
それこそ、あいつが無意識で身を捨てられる程だからな」
嫌そうに目を顰めてアレンが言うと、
「そうですね。悔しいですが、そこは否定はできないかと」
「そこで、お前達2人の認識。詰まる所のマユリの想いを入れ替えれば……。 どうだ?」
シオンは目を閉じて少し考え、大きく頷いた。
「では、母上の元で働くというのは、私の傍に居るという事ではなく、フィルの元に居るという認識だったのですね。」
少し悲し気な目をしてアレンを見つめた。
「多分そうだな。あれはそういうものだ。ユニコーンがなんとか祓ったが、非常に強い呪いだったぞ。
あれは普通の者が手に入れられる物とは思えないんだが、ヘレネ様はどこからあんな物を手に入れたんだろうな」
強い視線でシオンを見つめて、アレンが問い質した。
「入手先は私には分かりませんが、マユリの気持ちを捻じ曲げていたという事ですね」
「そうだな。ヘレネ様はお前の為にと、そうお考えだろうな」
その時シオンの頭に中には
『愛の勝利者はたった1人』と言った、ヘレネの声が響いた。
「マユリに謝らないといけないようですね。
しかし、そのままであったら良かったのに。 余計な事を……」
「聖人君子のシオンとは思えない言い草だな」
アレンが呆れたように苦笑した。
「マユリには悪いですが、私の幸せが手から零れましたからね」
どことなく、拗ねた様な声でシオンが言った。
「まあ、フィルが呪いに飲み込まれた時に、あいつが口付けで解呪したんだ。その時点で、他の者は勝てないな」
「真実の愛の口付けと言う奴ですか? おとぎ話でしょ。本当にそんな事で解呪できるんですか?」
「古来からの最高の解呪法だぞ。俺の知る中でもこれ以上の方法はない。愛が無ければ無駄なだけだがな」
「で、マユリはフィルに口付けをしたんですね」
「そして、呪いは解けた」
「そうなんですね」
複雑な顔をしたシオンは、それからマユリに会いに行ったのだった。
シオンが部屋から出て行ってから、ずっとマユリは部屋の隅でじっと膝を抱えて座っていた。
1時間位、そのままで動かなかった。
ナネットは声も掛けずに静かに見ていたが、段々と心配になっていた。
その時、堰を切ったようにマユリが叫んだ。
「無理。もう、無理。分からない。どうしたらいいの!」
何かを考えようとしても、フィルとシオンの顔が浮かんでは消える。
すると、恥ずかしさが一杯になり、思考はループするばかりでまったくまとまらない。
赤い顔をして、八つ当たり気味に脇にあったクッションをボスボスと叩き続けていた。
「ああ。無理! 私では解決できない! ナネットさん~ 助けて!」
やっと動き出したマユリに一安心と、眉を下げて
「私にもわかりません。ですが、ここは女性同士。王妃様にご相談してはどうでしょうか? 女性目線できっと良い方法を教えて下さいますわ」
(まあ!本当に。王妃様なら。この気持ちを分かって下さる。そして、この国の権力者! いいかも)
「流石、ナネットさん! 今、私を助けられる方は王妃様だけですね。謁見の許可を取って頂けますか?」
「直ぐに行って参ります」
ナネットが部屋を飛び出して行った。
程なく、「お茶を飲みにいらっしゃい」という、連絡が入った。
読んで下さる方。ありがとうございます。終わりまで、お付き合い下さると大変嬉しいです。よろしくお願いいたします。




