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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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傍に居て欲しい

シオンの声が聞こえた。

「出ておいで」


くるまった布団の中からそっと前を覗くと、そこに優しく微笑んだシオンが居た。

「マユリ、話をしよう。待っていたんだよ」


「こんな格好で、お目にはかかれません」

布団の中から小さな声で言うと、

「いいから。早くそこから出ておいで」

といつもの柔らかい声がした。


「周りには誰も居ませんか?」

「私だけだよ。安心して」

と目の前に手を差し出された。


手を伸ばすと、その手をヒョイとつかまれて、布団の中から引っ張り出された。

フラフラしながら立ち上がる。

こちらを見たシオンが片手を口元にやり、小さく笑った。

「凄い頭」

頭に手をやると、見事に髪が爆発している。

恥ずかし過ぎて熱くなる頬を隠すように少し俯いて、両手で髪を梳いていると、


「格好なんて気にしないで。 それで、話をしても大丈夫かな?」

と笑い声交じりで聞かれた。

「はい。大丈夫です」

と頷くと、シオンは傍に居たナネット達に目をやり、

「君達は少し席を外してくれ」

と言った。


「そ、それは……」

とナネット達が躊躇うと

「話をするだけだ」

動き出さないナネット達を一瞥すると


シオンが少し厳しい口調で

「皆、下がりなさい」

と命じた。


直後に、ナネット達は一礼すると、静かに部屋を出て行った。

シオンは握ったままのマユリの手を引いて、ソファーに一緒に腰掛けた。

いつにない厳しい声のシオンに、驚きつつ緊張していると、


「で、いつ私と帰るんだい?」

とシオンがにっこりと笑い掛けた。



(そうだった。ヘレネ様の所でお仕事をすることにしていたのに。

直ぐに帰ると約束して出て来たのに、あの事件ですっかり忘れていた。

なんて無責任な私。でも、でも……。帰る…? ここから帰る? 

私が帰る所って? ………。 私はどうしたいの?)

俯いて黙ってあれこれ考えていると、


「マユリ。私と城に帰ってくれるんだよね」

と笑顔でまた尋ねられた。

(私どうしたんだろう。あれだけ、決心していたはずなのに。

でも、あの時、私。フィル様に約束した。)

「私……。あの…」

戸惑った表情のマユリを見て


「ここに、残るんだね」

シオンは横に座ったマユリの片手をギュッと握ると、悲しそうに呟いた。

(何故? そう思われたのでしょう……)

思わずシオンの顔を見上げた。


「ネックレスはどうしたの?」

と聞かれた。


「あの…。あの、ヒースクリフが角で触れると壊れてしまって……。

折角ヘレネ様が下さったのに。すいません。」

「壊れた。 そう。壊れたんだ……。 そう……か。気にしないで。

母上には私から言っておくから。でも、本当にここに残るの?

フィルの傍は、これからもきっと苦労するよ」


「苦労って。でも、私はフィル様の傍に居たいだけなんです。 

それで……。あの、あのう……。シオン様、恥ずかしいです。この手」

と握られた手を、恥ずかしそうに赤くなった顔で見て言った。


「手は気にしないで。 それで帰らないって、私の事は嫌いなの?」

シオンは悲しそうに眉尻を下げて言う。

そんな、愁い顔もあり得ない程美しい。


「私がシオン様を嫌うなんて。そんな、大それた事、あり得ません」

頭を何度も横に振っていると、

「じゃ、一緒に帰ろう」


「それは……。やはり、私はフィル様に約束して……」

「私は君が居ないと寂しいし、悲しいよ。私よりフィルの方が大事なんだ」

握った手にもう片方の手を添えて、シオンがその美しい顔を顰めて嘆く。


悲し気な表情に目が潰れそうだった。

「一度はお約束をしたのに、期待を裏切って申し訳ありません。でも、やっぱり、フィル様の傍に居たいと思ってしまったのです。すいません」

と深々と頭を下げる。


「駄目なんだね。私では…」

寂しそうな声が聞こえると、申し訳なさで涙が溢れて来た。

顔を上げる事もできずに、涙が頬を伝う。

俯いて黙っている事しかできなかった。


その時、ふわりと両手で抱きしめられた。

強い力ではないのに、シオンの腕の中にしっかりと抱き込まれていた。


ああ、あの時と一緒だ。

城の廊下で、令嬢達に意地悪を言われたあの日。

シオンのローブの中に抱き込まれて助けられたあの日。

あの時と同じバラの香りに包まれた。

泣きそうな位安心したあの時を思い出した。


「ねぇ、マユリは私の事をどう思っているの?」

抱き込まれた身体に声が響いてくる。

心臓があり得ない程脈打っている。

「大好きで、尊敬しています」

思ったよりもちゃんと言えた。


「それでも、私の傍には居てくれないんだ」

息を飲んでしまった。

いつも優しいシオンの期待に沿えないことが苦しくて仕方がない。


でも、大きく息を吸うと、

「シオン様は、美して、優しくて、何でも知っていて、音楽の神様に愛されていて、素晴らしい歌い手で、楽器は何でも演奏出来て、誠実で、私の様な者でも大事にして下さって、公平で、偉い人なのに少しも鼻にかけず、すべての人が見上げる銀の月の様な素晴らしい本当に完璧な人だと思います」

抱き締めた腕の中で一気に話すマユリに、シオンは思わず笑みが零れたが、

「それでも、フィルを選ぶんだ。私じゃない。何故?」


「フィル様は、私の恩人なんです。

王子様にこんなことを思うのは不遜だとは思うのですが、この世界に私が居られたのは、フィル様が居てくれたからなんです。

シオン様は月の様に見上げて憧れる大好きな存在。

フィル様は私が私であるために必要な存在なんです」

シオンの腕の中で、一生懸命に話した。


じっと腕の中に居るマユリの頭に顎を乗せたシオンは、

「ねぇ、マユリ。もし私が呪われたら、助けてくれるかい?」

と呟くように聞いた。

「当たり前です。シオン様も私の恩人です。かけがえのない大事な方です」

「じゃ、呪いを受けた時は、私にも口付けをしてくれる?」


一瞬で頭から湯気が出そうな程、体中が熱くなった。

(何で、何で、知ってるの! 嘘。誰。誰が言ったの?  でも…。きっと。私。)


「シオン様の呪いが解けるなら。私、何でも致します」

決意の籠った言葉に、

「そうか」

と嬉しそうな顔になったシオンは、マユリの顔を覗き込んで、視線を合わせた。


頬に手を当てて、こちらを見つめるシオンの瞳に自分が映る。

あり得ない美貌のアップに、見惚れて目が離せない。

マユリの唇に柔らかい物が触れた。


思わず目をみはった。

何が起こったの? 驚きのあまり、マユリは身も心もフリーズしてしまった。

(キス? 私。今、キスされた!)


気が付けば、思わず両手で口元を覆っていた。

「うふふ。顔が真っ赤」

とシオンが妖艶な流し目でこちらを見る。


「……。な、なっ! 何が…、何……。嘘。う、嘘……」

あまりに動揺して、うまく言葉にならない。

「呪いはまだ受けていないけど、先に解呪してもらっておこうと思って」

シオンは機嫌が良さそうに笑っていた。


(解呪って。私。 私に。 シ、シオン様が)

身体中が火照って、思考も視線も定まらない。


「キスされたのは、私が初めてでしょう?」

言葉もなく、コクコクと何度も頷く、


「 は、はい……」

とやっと返事ができた。


「これで、君は私の事が忘れられないね。君に口付けた最初の男だから。

私ね。君がとても好きなんだよ。

だから、フィルが嫌になったら、私の所においで。

それとね。君のネックレス。私の事を一番に思うような作用があったんだ。

私は君と一緒に居たかったんだ。  ……ごめんね」

また、マユリの頭に顎を乗せてシオンが喋る。


「そ、そんな。シオン様は、かけがえのない大事な方です。

ネックレスなんて、関係ないです。今も大好きです」

シオンの謝罪に焦ったように答える。


「そうなんだ……。 嬉しいな」

シオンはマユリの髪を撫でながら片手でマユリをギュッと抱き寄せる。

「フィル様とシオン様は比べられません。

お二人程大事な方は、他にいないんです」

「じゃ、何かがあれば助けに来て欲しいな」


「私が助けになるのでしょうか」

「また、キスしてくれれば、私は元気になるよ」

「そ、それは、恥ずかし過ぎますので、できれば違うことで」

「そうか。じゃ、悲しいけど。この手を離してあげよう」

と言うと、マユリの手を持ち上げると、その指先に軽く口づけた。


マユリは驚きの連続で、また身体が固まってしまった。

「じゃ。またデュエットしようね。待ってる」

マユリの頬を一つ撫でると、ふわりと身をひるがえすように後ろを向き、

そのままドアを開けて出て行った。

読んで下さる少数の方。本当にありがとうございます。いつも感謝してます。評価がもらえる程の文章を書ければいいのですが、後10年位は修業が必要だと思っています。次はもっと読める物にしたいものです。

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