引きこもり
あ~。ため息しか出ない。
気が付いた時には自分の部屋のベッドの上だった。
城の人達に迷惑を掛けて、その上に又、気を失って。
もう、迷惑な事この上なしだ。
できうることなら、穴を掘って頭まで埋まりたい。
私はこんなに迷惑な人間ではなかったはずなのに。
普通の平凡な人間だったはずなのに。
どうしてこうなったのか。
思わず布団の端を握りしめて大きなため息をついた。
「ああ、気が付きましたか? ご気分は? 大丈夫ですか?」
心配そうなナネットの顔が目の前にあった。
「私のこと、見えますか? お水飲みますか? 痛い所はないですか?」
矢継ぎ早に質問されるため、答えを口にできずに、ひたすら頷いた。
安心したように目を閉じて、大きく一つ息を吐くと、ニッコリと笑顔になった。
「ああ、無事でよかった。心配しました」
ナネットの横に立ったルルも何度も頷いていた。
申し訳なさに身が細る。
「もう、私、どうしていいのか分からなくて…」
「無事ならいいのですよ」
優しい言葉に、また布団の中に潜ってしまいたくなる。
「私って。本当に迷惑な子供ですね」
「本当に。でも本当に子供なんですから。大人に頼って下さいませんか?」
布団を握った手に、そっと手を重ねて微笑むナネットの後ろに光が見える気がした。
ああ、ここには甘えてもいい大人が沢山居る。
何だか、温かい思いに包まれて、くすぐったくなる。
大事にされているんだ、と実感する。
「私、疲れました。今日は凄ーく疲れたんです。
とっても疲れて、もう誰かに甘やかしてもらえないと、立てません」
素敵な笑顔の大人に上目遣いで言うと、両手を大きく広げてくれた。
柔らかな胸に寄り添うと、花の香りに包まれる。
そっと両手を背中に手を回すと、ルルも2人に抱き付いてきた。
3人でお互いを抱いて、くっ付いてクスクスと笑い合う。
「さ。お腹が空いていませんか? 昼はとっくに過ぎましたから」
笑いが落ち着いた時に言われると、急にお腹が空いていることに気が付いた。
「もう、何でも食べれそう。何か食べさせて下さい」
ナネットに抱き付いたまま甘える。
「仕方がないのう。ここでしばし待て」
腰に手を当てて胸を張ったナネットが偉そうに言うと
「ハハーっ。ありがたき幸せ」
マユリはニコニコして頭を下げた。
食事をして、お茶を飲んでいると、ドアがノックされた。
フィルの声が聞こえた瞬間、マユリは固まり、両手を胸の前で×にして、頭を横に振った。
緊張して、背中に嫌な汗が流れる。
ジリジリと後ろに下がり、部屋の隅に隠れる。
フィルの声が聞こえないように、両手で耳を塞いで小さくなる。
ベッドの後ろに隠れて、ついでにベッドの布団も頭から被ってしまった。
少しすると、ナネットが布団の端から、顔を覗かせて
「いいんですか。フィル様。落ち込んでおられましたよ」
「ええ。私も落ち込んでます」
泣きそうな声で小さく呟いた。
それからも布団を被ったまま、部屋の隅にじっと座っていた。
「おい。フィルを追い返したそうだな」
頭の上からアレンの声がした。
「意地悪言わないで下さい。顔を合わせるなんて」
考えただけで、顔は真っ赤になり、布団の中の温度が一気に上がる。
「お前は酷いことをしたわけでもないだろうが。感謝されているぞ」
「私がどうやったかはご存じないでしょう?」
「まあ。皆には言わないように言っておいたからな。でも直ぐにばれるぞ」
(そうなるだろうけど、知られるだろうけど。
アレン様の馬鹿。恥ずかし過ぎて会えないと言ったじゃない。
でも、会えないのは困るなぁ。)と考えていると
「じゃ、暫く、ここを離れてみるというのはどうだ?」
アレンが笑って言った。
「ここを、離れる?」
「美しい所を見に行くのはどうだ?
落ち着くまで俺が連れて行ってやるぞ。世界は広くて旅は楽しいぞ」
(旅!素敵。なんて魅力的な言葉。あの湖はホントに綺麗だった。フィル様と暫く顔を合わせずに、居られるし。ちょっといいかも…)あれこれ考えていると、
「駄目だぞ」
固い声がまた傍から聞こえた。
布団の隙間からこっそり覗くと、ジークとシリウスがそこに立っていた。
一瞬、フィルかと思い固まって、いよいよ床に伏せたが、声で2人だと分かった。
(駄目って、何が駄目なのかしら? 私が駄目なのかしら)
思わず、布団から目を出すと
「お前。なんで布団でダンゴ虫になっているんだ?
隠れているつもりか? アレン様とどこに行くつもりだ。
城の者をあれだけ心配させたばかりで、何をするつもりだ。
勝手にまたどこかに行くなんて、馬鹿な事を考えるな。」
と目の前に怖い顔をしたジークが居た。
びっくりして、布団の陰から思わずジークの顔を見つめると、
「そうだぞ。これ以上皆に心配を掛けるな。ましてや、アレン様なんかと旅なんて行かせるわけないだろう」
シリウスも怒ったように言う。
「おい、なんかって、それはどういうことだ? なんかって」
「アレン様と旅なんて、帰って来る気ゼロだろう。そのまま連れて行かれるに決まっている 」
シリウスが怖い顔をして、アレンに言い放つ。
「失礼な奴らだな」
苦笑しながらアレンが言うと。
「やっぱり。否定はしないんですね」
シリウスがジト目でアレンを見ていると、
「まあ。マユリがどうしたいかだな。帰りたくないと言うなら、俺は希望を叶えるだけだ」
「おい。マユリ。何でここに居たくないんだ?
せっかくフィルを助けたのに。顔も見せないなんておかしいだろう」
ジークが不思議そうに布団の上から声を掛ける。
布団の中にいよいよ潜り込んで小さくなる。
「聞かないで下さい」
小さな声がする。
「おい。ダンゴ虫。出ておいで」
シリウスが、優しく布団をポンポンと叩く。
「恐くないよ~」
「駄目です。私。無理です。出られません」
とダンゴ虫は丸くなる。
「おい。ジークとシリウス。お前達が居るとマユリは布団から出てこれない。
ダンゴ虫が自然に出て来るまで待ってやれ」
「本当か?」
「本当です。お二人が居ると、動けません。」
布団の中から小さな声が聞こえた。
2人は顔を見合わせ、小さくため息をついた。
「それでも、フィルには会ってやれよ。落ち込んでいるぞ。せめて会わない訳を教えてやれよ。頼む」
とジークが言うと、2人は部屋を出て行った。
「おい。いつまでもそのままでは居られないぞ。早く話せよ。俺が言うのは嫌だろう?」
布団のダンゴ虫の横に座ってアレンが言うと
布団が小さく動いた。
アレンもしばらくして部屋を出て行ったが、マユリはそのまま布団にくるまっていた。
暫くして、優しい声が聞こえた。
「マユリ。出ておいで。私と話をしよう」
シオンがしゃがみ込んで、こちらを見ていた。
ありがとうございます。もう少しで終わる予定です。宜しくお願い致します。




