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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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帰ってみれば

アレンに眠らされ、マユリが1日寝ていたその日。

フィルは両親やアレン、ジョイル達にこの2日間の説明を求められていた。


マユリがヘレネの屋敷で働くと聞いたあの日。

マユリが自分の傍から居なくなると分かったあの日。

どうやって自室に戻ったのかもはっきりしないが、

マユリが居なくなると考えただけで,


心が冷えて、冷えて、冷えて……。目の前が暗くなってしまった。


絶望したと言ってもいいのかもしれない。

森の家に住み始めたあの時も絶望したと思うが、自分で人の眼から逃れたくて森の家に行った。

その為、寂しいというだけではなく、ほっとした想いもあった。


10年が過ぎ、1人で過ごすことに慣れ、諦めと共に漫然と日々を生きていた。

そんなある日、突然マユリが森にやって来た。

何も知らない異世界の女の子。

呪いも顔の痣も関係なかった。


最初は自分が保護者として、マユリを世話していたつもりだった。

可愛い妹。

自分はマユリを守る兄。

心地良い立ち位置だった。


2人で笑い合い、2人で日々を重ね、2人だけで暮らした。

日々の暮らしはシンプルだが、それでフィルに足りない物はなかった。


名前を呼べば答えてくれる。

外から帰れば、家にマユリが居て、「お帰りなさい」と笑ってくれる。


「疲れたでしょう?」

とその日の自分に合わせた飲物や食事を工夫して準備してくれる。

何でもない日々の暮らしは、城での贅沢な物は何一つなかったが、温かだった。


互いが支え合って、お互いが必要とし合っていた。

自分の為だけの言葉と思いやり。

互いの存在が嬉しくて心が満たされた。


わがままを言っても、困った顔をして受け入れてくれる。

無条件に自分を必要と言ってくれる。

そしてあの日、自分の為に命を懸けてくれた。


どうしてそんなマユリから離れる事ができるだろう。

心が否定する。

マユリが傍に居ないなんて。

そんな生活はもう必要ない。

自分が幸せな想いを知ってしまった為、より辛く立ち上がれなかった。


暗い想いが自分を追い詰めた。

もういい。もういいんだ。

自分は必要ないんだ。

身体に力がはいらない。


気が付いた時には暗黒の闇の中に囚われていた。

「やぁ。フィル。もういいだろう? お前は不必要なんだ。もう寝ていてくれ」

と嘲る様な笑いを含んだ男の子の声が周囲に響いた。


そうだな。もう寝ていれば苦しい思いはしない。

私は必要されていないんだから。

何も考えたくない……。



意識が朦朧としていた。

闇の中に自分が解けていくようだった。


「フィル様!」

声が聞こえた。


「フィル様!しっかりして!」

何だ。ああ、何か温かい。

大事な声が聞こえる気がする。


「フィル様!フィル様。帰りましょう。一緒に!」

目を開けるとマユリが光を放って、そこに居た。

「マユリ……」

「ああ、やっと…。 迎えにきました」


気が付けば、両手は血だらけで、枯れる程の大声で叫んでいた。

そして、閉じ込められていたガラス球を、その小さな手で叩き壊した。

泣きたくなる程嬉しくて、安心して。

次の瞬間、白い光に包まれた後、気が付くと自分のベッドに寝ていた。


「それだけなんです。真っ暗な所にマユリが来て、ここに居た。そんな感じなんです」

フィルは重い自分の想いは何一つ話さずに、一言だけで説明した。


「そんな事で何が分かる!」

そこに居た全員から突っ込まれた。


それからはそれぞれが聞きたい事をフィルに聞いた。

結果、心の中には魔族の呪いがまだ残り、フィルは何らかの器として狙われているということが、はっきりした。


「まだ油断はできないと言う事か……」

集まったメンバーがそれぞれ頭を抱えていると


「マユリはどこですか? 何故ここに居ないんですか?」

マユリが居ないことに気が付いたフィルが皆に尋ねた。


「マユリは大丈夫だ。明日まで寝かせる。お前は邪魔するなよ」

少し不機嫌そうなアレンが言った。


「明日なら会えますか?」

「そうだな。皆でお礼を言わないとな」

王がフィルをじっと見て、話を締めくくった。


そして次の日の朝、マユリは城から逃げ出していた。


朝、目が合った途端に走り出したマユリを見て、訳の分からないジークは一瞬驚いたが、まあどうせ皆で会いに行くからと、追いかける事もしなかった。


そして、家族と共にマユリの部屋に行けば、侍女も探している最中だった。

「朝、着替えた後からお姿が見えないのです」

ナネットが青い顔で王に報告した。


また、攫われたのかと、全員が青くなり一斉に動き出す。

城の中を隈なく探すが見つからず、アレンの姿もない。

ロルフと城の外に出ているマユリが見つかる筈はなく、ましてや大鷲の訓練場を捜す者もいなかった。

皆は事件が起こったと思い込んだ。


そんな大騒動が起こっているとは露知らず、

程なく、中庭にロルフ隊長がふわりと降り立った。


その姿を見付けたジークが傍に行き、慌てた声で

「ロルフ隊長。大変なんだ! マユリが行方不明だ。どこに居るか知らない……か?」

と言い掛けた時に

ロルフの背中にアレンとマユリが居ることに気が付いた。


「どういうことだ?」

地の底から響くような声がした。

「なんだ? 気分転換に湖までロルフに連れて行ってもらっただけだが」

「誰かに外に出ると言いましたか?」

「いや。急に思い付いたことだったからな」


「アレン様だけならいいのです。マユリが居なくなれば皆が心配するのです」

ジークが当然というようにアレンを睨むと

「何だ。それは。子供でもあるまいし。それでは息が詰まるぞ」

と呆れたように返すアレンにため息をつきつつ


「マユリ。君なら分かるだろう?城の全員が心配していたんだぞ。朝から君を探して大騒ぎだったんだからな」

とマユリに集まって来ていた周囲の人々を指差して言えば、

その人の数に恐れをなした。


自分はどれ程の人に迷惑を掛けたのだろう。

申し訳なさで身が竦んだ。

急いでロルフ隊長の背中から滑り降りると

「申し訳ありませんでした」

と周囲に深々と頭を下げた。


そして、後ろを振り返ると

「ロルフ隊長。本日はありがとうございました。ご迷惑をお掛けしましたが、本当に楽しかったです」

と、又深々と頭を下げた。

「いえいえ。私も楽しかったです。また飛びましょう」

とロルフは大きな羽でマユリをそっと撫でてくれた。

嬉しさで思わず涙目になる。


「おい。ジーク。マユリは悪くないぞ。私が連れ出したのだからな」

「そうでしょう。しかし一言伝言を頂ければ、無用の騒ぎでした」

「それはそうか。まあ、俺が悪かったな」

とアレンが苦笑交じりに言うと


「違います。私がここに居たくなかったから、アレン様は悪くありません… アレン様は……」

言葉が続かず、涙が溢れてしまった。


マユリの頬に伝う涙を見たジークとアレンは慌てて

「いや。すまん。泣かせるつもりはないんだ。心配だっただけで…」

「マユリは悪くない。悪くないぞ。泣くな。困ったな」

2人が交互に焦ったように言うが、涙は止まらない。


「あなた達。私のマユリを泣かせるってどういうことなの?」

怒りを帯びた低い声が後ろからした。

ジークとアレンの前にすっと立つと、王妃は2人を冷たい目で眺めた。


「マユリ。もう大丈夫。私が来ましたからね。こんな男達は排除しましょうね。でも無事でよかった。とても心配したのよ」

と優しく胸に抱き抱えられれば、優しい花の香りに包まれた。


「すいません。私がアレン様に我儘を言ってしまったために、大変な騒ぎを起こして」

と涙声で王妃を見上げれば

「あなたが無事ならいいのよ。心配はいらないわ」

と優しい声が上から降ってくる。


「申し訳ありませんでした」

ともう一度言うと、

「皆、あなたが大事だから騒ぐの。怒ってる人なんかいないわ」

と顔を覗き込んで、王妃は悪戯っぽく笑った。


「マユリ!無事だったの?」

その時フィルの声が聞こえた。

フィルがこちらに走ってくる。

その姿が見えた途端、あの解呪のキスを思い出した。


一気に顔が赤くなり、心臓の鼓動が跳ね上がる。

恥ずかし過ぎて、顔を合わせることなど到底できない。

気持の整理ができたと思っていたが、これでは前と変わらない。

やっぱり、無理。

頭の中がグルグルして目が回る。


「マユリ!どうしたのしっかりして」

王妃に抱き止められたことだけは分かったが、その後はもう意識が遠くなっていた。












読んで下さる方。ありがとうございます。いつも感謝しております。もう少しで終わる予定ですので、このお話にお付き合い下さると大変嬉しいです。


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