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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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空の散歩

「おい。どうした?」

座り込んんだマユリをアレンが立ち上がらせようと、手を伸ばした。


恨めしそうにアレンを床から見上げたマユリは、不服そうな顔をして

「もう、私、立ち直れない。どうしたらいいのですか?」

「何でだ? お前はフィルを助けただけだろうが」

両手でその身体を引き上げ、不思議そうにマユリに言う。


「その方法が……。分かってはいますが。

分かってはいるのですが……」

小さく頭を振って呟く。


「古来からの、最高の解呪方法の一つだぞ」

「その方法が。恥ずかし過ぎるんですよ」

分かってくれないアレンに、何だか非常に腹が立ってきた。


「もう時間はなかったし、他に方法は無かった。お前の心があいつを救ったのに。何が問題だ」


「アレン様には分かりません。私、初めてだったのに……。

とにかくアレン様。酷いです!」

ツンとそっぽを向いて怒ったように言うと、アレンは困ったように

「そうか。乙女の心は俺には分からんが。済まなかったな」

と言うと、マユリをヒョイと片手で抱き上げた。


「ひやーっ!アレン様。何ですか?」

抱え上げられて、驚くと同時に非常に恥ずかしい。ここは人通りのある城の廊下だ。

行きかう人々が、思わずこちらを振り向いて行き過ぎる。


「まあ。お詫びかな?」

と言うとそのまま、ずんずんと中庭に歩いて行く。

マユリはアレンに抱き上げられて恥ずかしくてしょうがない。


真っ赤な顔を両手で覆って

「降ろして下さい」

と言っても、

「お詫びをしないとな」

と笑うアレンは気にもしないで、中庭を突っ切り、沢山の人が演習をしている場所にやって来た。


城の中庭の奥に、広々とした騎士達の演習場があった。

城の中庭の奥にこんなに広い場所があるなんて、と周囲を見回していると

空には大きな鷲が飛び交っている。

青い空に悠然と翼を広げる鷲達は何とも美しく、その姿から目が離せない。


「ラルフはいるか?」

「おや。アレン様。珍しい。こんな所に、いかがされましたか?」

大勢の鷲達の前に立っていたラルフが直ぐにやってきた。


「ラルフ。頼みがあるんだが」

「何でしょう」

大きな鷲の瞳が好奇心で輝いた。


「少し、時間をもらいたい」

「これは珍しいことを。私の出来る事であれば、いかようにも」

「では、演習中に悪いが、少しの時間、私とマユリを乗せて飛んでくれないか?」

アレンはロルフに抱え直したマユリを見せて言った。


「あ、アレン様。お仕事中のロルフ隊長にそんな事を……」

びっくりしたマユリがアレンの言葉を遮る様に言う途中で、

「いいですなぁ。承知いたしました。

アンガス副長。後は頼んだ。私はしばらくアレン様にお付き合いする」

と言うと大きく羽を広げた。


アンガス副長と呼ばれた大鷲は、返事をすると直ぐに命令を出し始めた。

「彼は自慢の副長なのです」

命令を出している副長のその姿を見ると、嬉しそうに目を細めた。


「さあ、乗って。また一緒に飛べるとは光栄の至り」

とマユリに振り向くと、嬉しそうな声で言った。

「すまないな。ロルフ。これが、落ち込んでいるのでな」

とマユリの頭をぐりぐりと撫でて、アレンが笑った。


「それでは、私のとっておきの場所をお見せしましょう。マユリ。元気が出る事間違いなしですからな」

「おい。ロルフ。マユリには随分と甘いな」

「私は女の子には優しいので。さ、早く乗って下さい。行きましょう」

ロルフがマユリにその翼を伸ばした。



アレンに後ろから抱きしめられてロルフの背中に乗れば、

(ああ、フィル様と一緒にこの背中に乗って来た時のことが随分昔の事みたい。でも相変わらずこの背中のモフモフは最高だわ。癒される~)

と背中の羽を撫でていると、ロルフが羽を大きく広げ、一つ羽ばたくと一気に上昇した。


大きな力も感じないのに。あっという間に城の上に居た。

演習をしていた、大鷲達の中を更に上昇すると一気にスピードが上がった。

(矢の様な速さって、こんな風かしら)と考えていると、眼下に広がる景色が刻々と変わる。

城の近くの川をどんどんと遡って行く。


「アレン様。凄いですね。城に来た日に見た風景とは違います」

「向きが違うからな。今日のロルフはサービスがいいようだ」

「ロルフ隊長。そうなんですか」

「言わぬが花ですよ」


アレンに抱かれている今の状況は少し恥ずかしいが、眼下の風景の美しさにはかなわない。

アレンやロルフにあれこれ質問をしている内に大きな湖の上にやって来た。



鏡のような青い湖面は空と森、山の姿を映し、周囲には青々とした深い森が広がっている。

遠くには白い雪が山頂を飾る険しい峰々が連なり、山の端は紫色に翳んでいる。

手前にある山は濃い緑に染まっている。

上を見れば青い空は高く澄み、白い雲が薄くたなびいて流れている。

空と山と湖のコントラストが美しい。


(写真で見るアルプスやスイスの風景みたい。なんて秀麗で優しい風景なのかしら)

感動して、言葉もなく辺りを見回していれば、

ロルフが湖の湖面近くまで下降し、水面すれすれを低空飛行する。

小さなさざ波がたち、ロルフの姿が水面に映る。

鳥の声と風の音しか聞こえない。

自然の懐の中に抱かれた気持ちがした。


マユリは大きく深呼吸をした。

(ああ、私。こんな素晴らしい風景を見てる。ここで生きてる。

大好きな人達がここに居て、私を呼んでくれる。一人じゃないんだ

何だか嬉しくて、くすぐったくて、温かい。)

思わず、マユリは大きな声で歌い出していた。


秋の歌。故郷の歌。四季の歌。山の歌。

思いつくままにこの風景から連想する歌を歌う。

突然歌い出したマユリに、アレンもロルフも驚いたが、

その美しい声に2人共聞き惚れて言葉もなかった。


マユリの透明感のある、柔らかい声は自然と溶け合う様で、聞く者の心の奥の郷愁や

子供の頃の記憶を呼び覚ますようだった。

母の子守歌のように、自分を優しく包み込むような、そんな気持ちにさせる歌だった。

アレンもロルフもこの美しいギフトには心を打たれていた。

そして、この少女は稀有な存在だと再認識していた。


マユリが歌って気持ちがすっきりとした時、タイミングよくアレンが声をかけた。

「気が済んだか?」

「はい。ありがとうございました。少し、落ち着いた気がします」

ニッコリと笑顔で返事をすることができた。


「しかし、マユリ。あなたの歌は本当に素晴らしい。

なんだか湖や森の木々がキラキラ光っているような気がしますよ」


「ロルフ隊長。そんな事はないと思います。褒め過ぎです。

でも、こんな綺麗な所に連れて来てくれて、ありがとうございます。

本当に最高の場所ですね」

「いえいえ。マユリが喜んでくれるなら、何時でも、何度でも」

ロルフの優しさに思わず、両手で背中に抱き付いた。


「しかし、マユリ。お前の歌は美しいな。驚いたぞ」

「本当ですか? シオン様のようにはいきませんが、歌は好きなんです」

マユリはロルフの背中に顔を埋めながら幸せそうに言った。


「俺は驚いたぞ。本当に周囲が浄化されたようだぞ」

「そんな事。私の歌にそんな力はありません」

クスクス笑って言えば

「ないとも言えんだろうが」

真剣なアレンの声に驚くが、まあそんなことはあり得ないと思う。

それが日本人の常識だ。


「まあ。いい。そろそろ帰るぞ。いいか?」

「はい。アレン様。ロルフ隊長。私の為にお時間をいただきありがとうございました。

この風景は一生忘れません。本当にありがとうございました」

と微笑んで言うと

「そうか。よかったな。では帰ろう」

と城への帰途についた。


その頃、城では「マユリが居ない」とフィル達が探し回って、大騒ぎになっていた。

















まゆりを



誤字、脱字報告ありがとうございました。本当に私の物語を見て下さる方が居たんだ。と実感して感激しました。基本評価とか恐ろしくて見れなかったのですが、今日思い切って見たら、本当に読んで、身分不相応な評価を付けて下さる優しい方も居て、驚くと同時に嬉しかったです。本当にありがとうございました。誤字はこれから気をつけますが、目が節穴なので……。丸投げですが、またよろしくお願い致します。

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