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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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いたたまれない朝

ジョイスはマユリの傷ついた両手をそっと握った。

眉を顰めて、少し怒った声と表情で

「ヒール」と言うと、両手は温かな白い光に包まれた。


「凄い。治りました。痛くないです。ありがとうございました」

マユリはジョイスを見上げてニッコリしたが、


「またケガしましたね。

私、あなたに言いましたね。

身体を大事にするように言いましたよね……。つい、この前です」

と怖い笑顔でジョイスに静かに言われた。


周囲の温度が1~2度下った。

「はい。すいません」

と身体を小さくして、俯いて言うと

ジョイスは頭を振って、小さくため息をついた。


「困った人。でも、お帰りなさい。頑張ったんでしょ。無事でよかったわ」

と苦笑を浮かべたが、頭を撫でられた。


その後、軽く食事を食べさせてもらい、又ベッドの中に入れられた。

「昼に眠れないですよ~」

と訴えるが、ジョイスに背中をポンポンと軽く叩かれている内に、いつの間にか寝入ってしまった。

ジョイスは眠ったマユリの横の椅子に座ると、またため息をついた。


しばらくするとジョイルがやって来て、ベッドの中のマユリを静かに眺めた。

「不思議な子だね。この子は。

何でこんなことができるんだろうな。2回もフィル様を救うなんて…」

(本当に何故この時に、異世界からやって来て、我が身を捨てるような行動で、フィルを救った。

この普通の娘がやった事が不思議だ)とジョイルが思っていると、


「そうね。愛は一種の魔法かもね」

「今日はえらくロマンチストだね」

ジョイスが小さく微笑んでジョイルを見上げる。


「私達にはできないことをやり遂げたからね」

ジョイルも少し安心したように頬を緩めて、小さく微笑んだ。

「魔法じゃないのに。でしょ」

二人でベッドの中の小さな少女を静かに見つめた。



「マユリ。 マユリ。 ねぇ… マユリ。」

(うん? 誰? 呼んでる?)


「マユリ。ねぇ。マユリ。早く起きて。 聞いてよ。時間がないんだから」

(うう…… 。誰? 呼ぶの…誰?)


「いい加減にしてよ。マユリ。僕が分からないの?」

「あ。 ヒース。 ヒースなの?」

「ああ、もう。やっと気がついた」

「でも、ヒースどこに居るの? 私見えないんだけど」

「当たり前。これ君の夢の中だよ」

「どういうこと?」


「あのね。僕ね。君を助けるので。フィルの心の中に入ったでしょ。あれね。魔族の呪いだったんだ。全身で浸かってしまったから、僕、穢れちゃったんだ。」

「穢れって。ネックレスの時は……」


「あれは、僕の浄化で力を使っただけ。でも、今度は穢れに全身で浸かってしまったから。しばらくは里で休んで来る。だから傍を離れるね」

「大丈夫なの? 暫くって。どの位? 本当に大丈夫?」

「一か月位、里で過ごせばいいと思うから。それまで元気でね」


「ヒース。ごめんなさい。私の為に……」

「謝らないで。僕はマユリの守護聖獣だよ。君を助けられて嬉しいんだから。褒めて」

「ヒース……」

周りは真っ暗だが、傍にヒースの気配がする。


「帰ってきたら、抱きしめてね。ついでにキスしてくれると最高」

「もう。ヒース。キスは嫌だけど、抱きしめるわ。ありがとう。大好きよ」

「うん。これで安心した。」

「うん。ヒース。待っている。待ってるから!」

「ああ、時間切れ……だ。マユリ、話せて嬉しかった。少しの間だけ。さよならだよ」

傍にあったヒースの気配がしなくなった。



「ヒース……。 ヒース。」

泣きながら今度こそ本当に目が覚めた。

「どうした?」

心配そうなアレンの顔が目の前にあった。


「ヒースが、ヒースが。穢れたって……。里に」

アレンに勢い込んで訴えると

「ああ、分かった。分かったから、落ち着け。里で静養するんだな?」


「私のせいで……」

唇を震わせてアレンを見上げた。


「お前を守るのがあいつの使命なんだから、役に立てて喜んでいるぞ」

アレンは笑ってマユリの頭を撫でて言った。

「そんな……」

泣きそうな顔をして布団の端を握りしめていると


「そんなものだ。ひと月もすれば帰ってくる。心配するな」

「本当に?」

「俺が嘘をついてどうする」

アレンはマユリの顔を覗き込んで、頬を軽く摘まんだ。


「信じてもいいですか?」

「いいぞ。だから泣くな」


マユリは大きく頷くと、

「ありがとうございます。アレン様。大好きです」

と言うと、涙をぬぐって安心したようにふわりと笑った。


マユリの言葉と表情に少し動揺をした様子のアレンは

「もう今日は寝ていろ。後の事はこっちでやっとく」

と言うと、大きな手でマユリの眼を塞ぐと眠りの魔法をかけた。


マユリは唇に微笑を残してあっという間に寝てしまった。

「ジョイス。こいつは明日まで寝かしておけ。心身共に疲れているからな」


「過保護」

ジョイスが流し目でアレンを見ると、目を逸らしてアレンは部屋を出て行った。



その次の日。

「ああ、よく寝た」

背中をぐっと伸ばして、ベッドから起き上がって周りを見た。

(んんっ。ここ、あれ、救護室。私、ああ、そうか。昨日は怒涛の1日だったなぁ)

と、思い返していると、ジョイスがやって来た。


「起きたの? 身体はどうかしら?」

「お世話になりました。もう大丈夫です」

と笑っていると朝食が運ばれて来た。


食事を食べると元気が出た。

「フィル様は大丈夫ですか?」

「あらあら。最初の言葉がそれ?」

ジョイスがコロコロと笑って言うと、

「はい。お元気でしょうか?」

「もちろんよ~。あなたが助けたんでしょう。直ぐ会えるわよ」


(んんっ? 会える。直ぐに? フィル様と。ちょっと待って。私がフィル様と会う。私。呪いを解くために、何をした? そうよ。私。私……フィル様の、フィル様の唇に……。駄目だ。絶対に。どんな顔をして、会えばいいの。会えない。合わせる顔がない……。どうしたらいいのかしら。これから私、どうしたら? ああ~ もう。)

グルグルと考えがまとまらず、頭を抱えてしまった。


それでも、いつまでも救護室に隠れているわけにも行かず、とにかく自室に帰ろうとそっと部屋から出て歩き出すと

「ああ。マユリじゃないか。お前もういいのか?」

と廊下の端から声がかかった。


離れた所にジークが立ってこちらに手を振っている。

フィルと同じ姿と声に、震え上がってしまった。

恥ずかし過ぎて、ジークの姿を見る事もできず、反射的に思わず反対方向に走り出してしまった。

「おい。マユリ。どうしたんだ?」

ジークの声は聞こえるが、止まる事は無理だった。


とにかく、離れたくて走っていると、アレンに捕まった。

「おい。どこにいくつもりだ?」

片腕でヒョイと抱き止められ、見上げた先にアレンが居たことに安心したように、

「アレン様」

と名を呼ぶと、縋りつくようにその体に抱き付いた。


「どうした?」

「恥ずかしいんです。

フィル様に合わせる顔がないのに、ここにはジーク様やシリウス様、3人も同じ顔の人がいるんです。私。居たたまれません。どうしたらいいのですか?」


「何でだ?」

不思議そうにマユリに尋ねるアレンに

「私。私。フィル様に……」

もじもじとして呟くと


「キスしたな」

「それは、言わないで下さい」

と言うと、へなへなとその場に座り込んでしまった。








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