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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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最強の解呪方法

マユリは駆け出した。


心臓がどきどきして身体も心もきしんで悲鳴を上げる。

思うことはフィルの無事だけ。

フィルが倒れた。そう思うだけで身体に力が入らなくなる。


走る自分の身体がもどかしく、気は急くが足が出てこない。

早く、早く。一刻も早く、フィルの元に。

涙で前が滲んでしまう。

何故? 何故? 何故?

何で自分はフィルの傍に居ないんだろう。

何故、離れていられたんだろう。

何ができるわけでもないけれど、離れていた自分が信じられない。


その時ふわりと身体が浮いた。

気が付けば、アレンが自分を抱き上げて走っていた。

「この方が早い」

不機嫌そうな声が頭の上から聞こえた。


程なくフィルの部屋の着いた時、

「何だよ。この部屋。酷く臭い。こんな穢れた所には近付けないよ」

ヒースクリフが叫ぶと、部屋の前から後退った。


フィルの部屋はジョイルや魔法使い達が何人も居て、金色に光る魔法陣を多数展開していた。

アレンの姿を見てジョイルが

「ああ、アレン様。私共もそろそろ限界です」

と悲しそうに言った。


アレンがマユリをそっと床に降ろすと、

「流石の私でもフィルには触れない。今は呪いを押さえてはいるが、そう長くはもたない」

恐ろしい最後通告に心は引き裂かれそうになるが、ベッドの上のフィルの姿が見えると、マユリは一直線にフィルに駆け寄った。


アレンもジョイルも傍に寄せ付けない程の呪いが、マユリには一切障壁にならないことに周囲の人々は一様に驚き、あっけにとられていた。


「フィル様。フィル様。しっかりして。負けちゃダメです。フィル様」

ベッドの横に跪き、フィルの手を両手で握りしめて叫ぶように声をかける。

しかし、一切反応のないフィルに

「アレン様。アレン様。 助けて下さい。何とかして」

縋るように後ろに立つアレンを見つめた。


アレンはマユリをじっと見て

「俺にはこれ以上の解呪はできん。しかし、お前なら方法が1つだけある」

「何でしょう。私ができる事なら、何でもします。早く教えて下さい!」


「それはな。真実の愛の口づけだ」

一瞬聞き間違いかと、アレンを見つめるが

「愛の口づけだ」

大真面目な顔と声でアレンが繰り返す。


(何?それ。眠り姫のあれ?真実…… 愛…… 口づけ? 私? 私が? 私がフィル様に? 口づけって。キスのことよね。 私がするの? 呪いが解ける? 

そんな……、そんな、私にキスされるなんて、フィル様に失礼では。第一そんな事で呪いが……)


「古来からの、最強の解呪方法だ。それで駄目ならもう助からない。マユリ。お前が。お前ならできるんだ」

マユリの心を読んだようにアレンが言った。


(方法がない……。アレン様でも打つ手がない。

なら私がここで迷っていては駄目だわ。できることはやらなければ。でも、恥ずかしい。駄目。そんな事思っている時間が無駄だわ。)

心を決めたマユリは、両手をフィルの頬に添えて黒く染まっていく顔をじっと見つめた。


(このままでは美しい紫水晶の瞳は開かない。

マユリと呼ぶあの声も聞くことができなくなる。

この世界に来て、何度も、何度も救ってくれた人。

大好きで、自分の命に代えても生きていて欲しい人)


「神様。私の命を捧げますから、この人を助けて下さい」

小さく呟くと、決心したようにフィルにそっと口付けをした。


唇が触れた次の瞬間、マユリはフィルの胸の上に崩れ落ち、そのままピクリとも動かなくなった。


「マユリ!」

アレンやジョイル達が焦ったようにマユリの名を呼ぶが、マユリもフィルもピクリとも動かなかった。











区切りのいい所と思うと短めで終わってしまいました。自分ではもっと短い話だと思っていたのに、この回数。長くなってしまうのは文章力の無さと反省しておりますが、、もう少しお付き合い下さると嬉しいです。読んで下さる方ありがとうございます。

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