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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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シオンの夢

「父上。」

少し高い子供達の声が近づいて来た。

「父上!待って」

2人の10歳位の男の子が、腰に飛びついて来た。


思ったよりも重いその体重に少し驚くが、2人の子供達を見下ろすと、銀色の髪を肩の所で切った。自分によく似た双子達だった。

「お前達、重くなった」

「父上!」

口々に言いながらその両腕に、それぞれぶら下がろうとする。

「行儀が悪い」

「久し振りに父上とお出掛けできたんです。嬉しい」

と2人共その腕にかじりついて笑い声を上げる。


「悪い子達だ」

そう言うと、両腕を大きく一振りした。

子供達は高く放り投げられられて、かなり遠くの草の上にうまく転がって着地した。

「キャー。面白い。空を飛んだ!」

子供達が嬉しそうに笑うと、また駆け寄ってくる。

「ねぇ。もう一度。もう一度投げて。父上」

「仕方のない子供だ」

と言うとさっきより少し高く、遠くに子供達を放り投げた。

大喜びで子供達が草の上で転がって笑っている。


「まぁ。旦那様。子供達がけがをしませんか?」

「あの位なら、大丈夫だ。ここは草原だし」

「まったく。男の子と言うものは。乱暴なことを喜んで」

「まぁ、そんなものだろう」

黒髪の女性が横に立つ。


その腕の中には銀の髪の赤子がすやすやと眠っている。

「良く寝ている」

とにっこりと笑って言うと、隣に立つ、女性の頬にそっと口付ける。

女性は嬉しそうに笑顔を返すと足元から

「僕達も。僕達も。父上。母上。ねぇ、僕達にもキスして」

2人が笑ってせがむと

2人を両手に抱き上げて、その柔らかい頬にそっとキスをする。

「母上も。母上も、お願い」

瞳を輝かせてせがむ2人に、優しくキスをする黒髪の女性。


「ここは本当に綺麗ですね。5人で来れて嬉しいです。また家族で来ましょうね。でも旦那様。そろそろ、お食事に帰りましょうか。この子が風邪をひいてもいけませんもの」

「そうだね。次は花が咲いた頃にピクニックに来よう」

「ほんとに?やったー!父上約束ですよ」

「分かった。約束だ」

「まぁ。大丈夫ですか?そんな安請け合いをして…」

「いや。私も来たいから…。君と一緒に」

「まぁ。旦那様……。約束ですわよ」

頬を赤く染めた黒髪の女性の肩をそっと抱いて、歩き出した。

「では、屋敷に帰ろう。〇〇………」


声が聞こえなくなった。

名前が聞こえない。あれは私だが、あの黒髪の女性は……。


思わず、シオンは飛び起きた。

ベッドに上に座っていた。

(あれは…。あれは……。マユリなのか? 私の願望が夢になったのか。それとも未来の予知夢なのか? それにしてもなんというか。ひどく現実的な夢だった。私は…、私は……。ああなりたいのだろうか。しかし、幸せそうな家族だったな……。私か?)


シオンは恥ずかしさに頬を染めたが、ここは自室で誰も居ない。

安心したシオンはまた横になると、小さく幸せそうにため息をついて、目を閉じた。


その日はヘレネが友人との約束で、急に出掛けることになった。

マユリは突然出来た時間に、何をしようかと考えた。


(そうだ。おやつを作って、いつもお世話になっている侍女さん達にお礼をしよう。お茶の時に出せば、私のお菓子でも喜んでもらえるかも)


ナネットとルルに相談すれば、いいアイデアだと賛成された。

すぐにシェフに了解を得て、厨房の端を借りることになった。

シンプルな紅茶のクッキーとバタークッキーを大量に焼いた。

甘い香りがして、厨房の人々が興味津々にこちらを覗き込む。

「よろしかったら、どうぞ」

とクッキーを皿に乗せて手渡せば、笑顔で受け取り、早速味見をする。

シェフを始めとして、厨房の人々は

「何か懐かしい感じで、旨い。味がいい」と好評だった。


これなら、侍女さん達も喜んでくれそう。

じゃ、次にナネットとルルに得意のフワフワパンケーキを作ろう。前に話した時に「食べたい。」と言っていたから。

喜んでもらえるかな?

いつものように、「美味しくなーれ。美味しくなーれ。美味しくなると嬉しいな」と歌いながらメレンゲを作るマユリを、ナネットとルルが嬉しそうに見ている。


そこにシオンがやって来た。

厨房に居た人達は、滅多に見る事のない館の主人の姿に動きが止まってしまった。

「マユリを見に来ただけだから、君達は仕事を続けて」

と言葉を掛ければ、小さく頷きそれぞれの仕事に戻った。


シオンはナネットとルルの傍に行き、マユリの様子を眺める。

「何をしているのかな?」

突然隣に立ったシオンの声に驚いて深々と頭を下げて挨拶をする、2人に小さな声で聞くと

「私達にパンケーキを焼いて下っているのです」

「パンケーキ?」

「フィル様やジーク様の好物だと聞いております」

「へぇ~。私も食べてみたいな」

「マユリ様! シオン様も食べてみたいとおっしゃってます」

と声を掛ければ

「まぁ。食べて下さるのですか?喜んでご準備しますね。しばらくお待ちいただけますか?」

と満面の笑みで答えが返って来た。

「じゃ、私は邪魔だろうから、いつもの音楽室にいるからね」

と言うと、厨房を出て行った。


マユリは張り切ってパンケーキを焼く。

もっとフワフワで美味しくなるように、心を込めてパンケーキを焼いた。

そして、シオンの前に皿を置いた。

白い皿の上には、ふんわりと大きく膨らんだ金色のパンケーキが、フルーツと生クリームと一緒に美しく飾られていた。


白い皿から、甘い香りがふんわりと漂う。

美しい色どりの初めて見るパンケーキにシオンは驚いていた。

「お口に合うとよろしいのですが。どうぞ、お召し上がり下さい。すぐに萎んでしまいますから」

と微笑んでいるマユリはあの夢の中の女性に酷似していた。

思わず、微笑み返すとパンケーキにナイフを入れる。


まるで空気を切っているみたいだ。驚きのままに一口、パンケーキを口に入れるとその軽さにまた目を見開く。

「美味しい……。こんなパンケーキは初めてだ」

「ありがとうございます」

シオンの誉め言葉に頬を染めて、嬉しそうに頷く。


美味しそうにあっと言う間に食べ終えて、お茶を優雅に飲んでいるシオンは

「フィルやジークも好きだって聞いたけど、私もこれは好きだな。また作ってくれる?」

「もちろん。喜んで。でも本当にこんなものがお口に合ったのですか?」

「うん。マユリはこのクッキーも焼いたのだろう? これも美味しい。料理上手で素敵な女の子だね」

思いもかけない言葉に顔から火が出そうになる。


その頃、ナネットとルルも幸せそうにパンケーキを食べていた。

そして、食べ終わった2人はマユリのそばに来ると、小さな声で

「美味しかったです。マユリ様。いくらでも食べれます」


嬉しそうにナネットとルルに微笑むと

「良かった。また焼きます。食べたい時は言って下さいね」

と小さな声で答えた。


「私の分も忘れないで?」

「シオン様……。本気ですか?」

「うん。本気。他の物も食べたいからね。よろしく」

(シオン様。もしかして食いしん坊。でも気に入ってもらったのなら嬉しい)


その日のお茶会は楽しく終了した。

もちろん、屋敷の侍女達にもクッキーは好評で、あっという間に全て無くなった。














もう少し続きます。読んで下さる方、ありがとうございます。面白い物が書けるように頑張っていますので、どうぞよろしくお願い致します。

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