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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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満月の魔法

満月の夜。


夜中にふと目が覚めた。


ベッドの上から空を見ると、大きな満月が中空にぽっかりと浮かんでいた。

「ああ、今日は満月なんだ。」

この世界の月も日本と同じ、暗い夜空に銀色に光っている。

何だか眠れなくなったマユリは、ベッドの上に体育座りで座った。


銀色の月の光が高窓から差し込んで、部屋の中に影が長く伸びる。

「綺麗な月…。フィル様は、何をしているのかなぁ…。私はここです。ここに居ますよぉ。フィル様…。そばに居てくれないと、夜は恐くて寒いです。声が聴きたい……。私、何でここに1人なのかなぁ…」

満月をジッと見つめて、遠い城に居るフィルに話し掛けた。


森の家に居た時は、夜中に飛び起きると、必ずフィルがマユリの手を握り、「大丈夫だよ」と言ってくれた。

大きな手の温かさと、静かな声に安心して、眠ることができた。

フィルの姿のない今、寄る辺のない心細さに身が震える。

「フィル様。フィル様……。会いたい…」


「マユリ……。マユリ…。元気だろうか? マユリの声が聴きたい」

何処からともなく、自分を呼ぶフィルの声が聞こえた気がした。


「空耳? フィル様の声? 私は、私は、ここに居ますよ……」

「ん? マユリ。マユリの声が聞こえた気がする…」

「フィル様。本当にフィル様? 私の声が聞こえるんですか?」

「本当にマユリ? 君なの? 不思議だけど、聞こえるみたいだ」


「なんて、不思議。でも、嬉しい! お元気ですか?変わりはありませんか?」

「うん、こっちは変わりはないよ」

「そうなんですね。良かった」

「君こそ変わりはない?困ったことはない?」

「皆様お優しいので、困ることはありません」


「私は困ってるよ。君が居ないから寂しい」

「え⁉ 私…。私も、フィル様に会いたいです」

「マユリはいつ帰ってくるつもりなの?」

「ヘレネ様次第なので。でも、早く帰りたいです……」

同じ想いに2人共クスリと笑ってしまった。


「こうして話せるなんて、月の光の魔法かな?聞いたことはないけど、どうしたらまた話せるのか、何の魔法なのか、調べないとね。まだそちらに居るのだろう?」

「はい。もうしばらくは、きっと…。また、お話ができると嬉しいです」

「そうだね。でも今はいつこの魔法が解けるのか分からないから、できるだけそちらの様子を話して?」


それから2人は、毎日の生活を報告し合った。

それだけなのに、話が途切れる事はなく、あっという間に30分位経った時、雲が満月を隠した。

その瞬間に声が途切れた。

確認するように何度もフィルの名前を呼んだが、返事が返ってくることはなかった。


名残り惜しく満月を見上げるが、薄く雲がかかり、月は朧に見えるだけだった。

何故か起こった不思議は、唐突に終了した。

ひと時の魔法の時間が終わってしまった。


でも、久しぶりにフィルと話をすることができた。

声を聞けば嬉しくて、また話ができるかもしれないと心が弾む。

フィルの元から離れて自立しようと考えていた癖に、たった1週間離れただけでこんなに寂しがっている。


こんな事では自立なんて程遠く、大人の女性とは言えない。

どれだけフィルに依存しているのだろう。

これから1人で生きていくためには、もっとしっかりしないと。

理性ではそう考えるが、気持ちは嬉しくて仕方がなかった。


マユリは布団に潜り込むと、

「おやすみなさい。フィル様。良い夢を」

と小さく呟いた。



フィルは突然終わった会話を残念に思った。

それでも久しぶりに聞こえたマユリの声に思わず、にやけてしまった。

元気そうで、自分と同じで寂しいと思っていた。

何だか、嬉しくて安心する。

気持は一緒だと思うと、帰ってくる日を待つことができる。


また話せるように調べて、準備をしよう。

ヘレネも元気になっている様子だし、森の家に帰る日も近いようだ。

2人で過ごす平和な日々を思うと、今の寂しさも我慢できる。

「おやすみ、マユリ。いい夢を。早く帰っておいで…」



次の日。

ナネット達が髪を整えてながら、鏡に映るマユリに聞いた。

「どうしました?何だかとても嬉しそうです」

「ウフフ。あのですね。昨日、何故かフィル様とお話ができたんです」

「本当ですか?魔法でしょうか?」

「分からないけど、話せました」

「それはようございました。本当にマユリ様はフィル様がお好きなんですね」

「はい! もちろん。 大好きです」

元気よく笑顔で答えるマユリを、困った顔をしてナネットが見る。


「うーん。そんな感じではなく、男の人としてですよ」

「え。男の人として、好きって…。そんな、恐れ多い」

ナネットとルルが思わず鏡の中のマユリの顔を見つめる。


「私なんて。フィル様のペットみたいなもので……」

「ああ、もう。マユリ様。あれだけの素晴らしい男性方に望まれているというのに。気が付いていないって。本気ですか?」

「望まれるって……。私を望むって。そんな人、どこに居るんですか?私、不細工ですし」

真面目な顔のマユリの言葉にナネットは呆れて


「もう。本当に何なんですか。フィル様は置いといて、ジーク様もシリウス様も妻にと言われたじゃありませんか」

「お二人共、冗談がお好きですから」

「アレン様もそうでしょう?シオン様だって、そばに置きたいと言われたでしょ?」

「あれは、私を助けるための、優しいお気持ちであって……」

(もう。本当に鈍い。この娘は何にも分かってない。どれだけ鈍感なのかしら)


ため息をついたナネットは、

「王子様方もアレン様も、シオン様だって、皆さん本気ですよ。皆さんマユリ様が好きなんです」

と言い切った。


衝撃の事実だった。

しかし、長年雪だるまと馬鹿にされ続けて来た日本人で小市民のマユリには、どうしても信じられない。

(冗談を真に受けてはいけない。そんなことがあるのだろうか?でも、でも。私があの美しい人達に望まれる。ない、ない、ありえないこと。ペット以上に思われるはずがない。期待してしまうと後のショックが半端ない。うん、これ大事。間違えてはいけない。まあ、嫌われていないなら、嬉しいし、有難いことだと思っていれば、間違いないわ)


「もし、そうなら嬉しいことですが、お嫁さんはあり得ないでしょう?」

「そこは私には何とも言えませんが……」

「でしょう?好意に甘えてはいけないと思いますが、嫌われていないなら、嬉しいです」


「マユリ様って。もう本当に。謙虚なんだから。もう、可愛い」

と言うと、ギュッと抱きしめるとルルも抱き付いてきた。

3人でぎゅうぎゅうと抱き合っていると、何だか可笑しくなって、笑いが止まらくなった。

3人でコロコロと笑っているとノックの音がした。


シオンが不思議そうにドアを開けて、部屋を覗き込んだが、3人共笑いがとまらない。

「君達、何があったの?楽しそうだね」

シオンの笑顔に、3人共笑いが一瞬で止まった。








このお話を読んで下さった方、本当にありがとうございます。初心者のため、拙い文章ですが、頑張っております。試行錯誤の毎日ですが、面白い文章になれば、と思っております。

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