それぞれの思惑
ジークとシリウスは驚いていた。
「いやー。マユリってすごいな」
「本当に、ここまで愛されていたとは、驚いたなぁ」
「どう、アプローチしようか、考える間もないな。私達はもう一ひねりしないと」
「そこは頭脳担当のお前が考えてくれ。俺は実行部隊だからな」
「ちなみに、マユリは私の嫁にするからな」
「何だよシリウス。俺も嫁にしたいのに」
「私だから、マユリじゃないと駄目なんだ」
「俺だって、見分けて欲しいんだからな」
「お前は次だ」
「何の順番だよ」
「とにかく、マユリは私の嫁にする。フィルにはもったいない」
「何気にひどいぞ。お前」
ジークとシリウスが2人で相談していた。
アレンは呆れていた。
誰も彼もマユリを引き留めようと、やっきになっている。
これはどうしたことだろう。マユリを連れて帰る予定だったが、どうも周囲が許さない様子だ。マユリ自身は仕事と言う言葉に揺れていた。
もう一押し、種を巻いておくべきだな。
いざとなったら転移して連れて帰れば言い事だし。
まあ、もうしばらくは様子を見るか。黒いオーラがアレンの背中に広がっていた。
どうしたらいいのだろう。
あれから、王様達から許可が降りないとフィル様が苦笑して言う。
「マユリ、愛されてるね~。皆が納得するまで、迷惑かけるけど付き合ってあげてね」
と一応困り顔で、面白そうに言う。
後ろでナネットとルルが嬉しそうに大きく頷いている。
(納得って何?いつまで続くのかしら。そして、許可が出ないって、そんなの有りなのかなぁ。解せぬ。謎でしかない。でも久しぶりにフィル様と一緒だ。嬉しい)
今日のフィルはゆったりとして、時間を気にしていない。
お茶を一緒に飲むのも本当に久しぶりだ。
「フィル様、ナネットのお茶美味しいでしょ?このお菓子も美味しいです。お一ついかがですか?あ、お茶のお代わりもどうですか?あ、この果物剥きましょうか?」
と嬉しそうにニコニコと笑顔でもてなす。
そのマユリを見て、フィルも嬉しそうに笑顔を返している。
「君達、何なの。このだだ甘い雰囲気は」
「これ、いつもだよ」
ユニコーン姿のヒースにジークが言った。
あれからヒースは常にマユリの精神衛生上、人型の姿が禁止されていた。
人型になると、マユリが一切目も合わせてくれない上、ユニコーン姿でも手の届く範囲には近寄ることを許さなかった。
傍に行こうとすると悲鳴を上げて泣き出すという、何とも悲しい状態のため、ヒースも誰かと一緒に傍に行くようにしており、その為には形振り構わず、男であってもついて行くという、非常に彼にとっては辛い状況であった。
そして目の前には、嬉しそうにフィルに笑顔を向けるマユリが居る。
大好きな自分の乙女が違う男には、こんなにも優しい。
ただ傍に居たいだけなのに、それも許してくれない。
つれないマユリに、悲しくなるが、それでも離れられない。
2人の楽しそうな姿を見ては羨ましそうに、ため息を付いてしまうヒースに
「もう少ししたらきっと、許してくれるさ。今は拗ねているだけだから」とジークが慰めた。
マユリが城の人々にあれやこれやと、引き留められていた時。
ヘレネが笑っていた。
扉の陰から引き留められるマユリの様子を見ては、クスクスと笑っていた。
何の力もない子供に、周りの大人達が言葉を尽くして、ここに居る事を願う。
なんと滑稽なことだろうか。
この娘をどう動かせば、この先はどう動くのだろか。
考えるだけで、面白くて仕方がない。
どう、出し抜いてやろうかしら。扇の陰でクスクス笑いが止まらない。
「母上。どうなさいました?楽しそうですね」
「あら、シオン。ねぇ、あなたはどう動くのかしら?」
「何のことでしょうか?」
ヘレネは扇の先でシオンの胸を軽く突くと、
「マ・ユ・リ」 と言った。
「なっ、何の話ですか?」
「お・バカさんね」
「え、え?」
「助けてあげなくもない…。 と言ったら?」
「そ、それは……」
「どうせ、音楽で一緒に。と話したくらいでしょ?」
「そ、それは……」
「それで、欲しい物を手に入れようなんて、10歳の子供以下ね。我が息子ながら、その頭脳は空っぽなの?欲しい物は動かないと手には入らない」
「それは……。はい」
「仕方のない子。足掻くって言葉、知っているのかしら?愛は戦いよ。1人しか勝者は居ないの。手に入れなければ味わうこともできない水。手に入らなければ乾いて死ぬだけ。まあ、手に入れて捨てるということも、否定はしないわ。全てはあなた次第。で、どうしたいの」
シオンを確かめる様にもう一度扇で胸をつく。
「私は手に入れたい。で、どうすれば…」
「うふふ。いい目になったわ。じゃ、あなた。お使いに行って来て」
「お使いですか?」
「そう。ああ、楽しくなってきたわ」
首をかしげるシオンを見て、またヘレネは扇の陰てクスクスと笑う。
次の日マユリは王様に呼び出された。
執務室に行くと王妃と3つ子、シオンが待っていた。
皆の目がこちらを見ているため、少し緊張したが、ヘレネの指導通りの美しい挨拶をした。
「マユリ。体調はどうだ?」
「はい。回復して元気になりました。ありがとうございます」
「うむ。元気そうで安心した。そして、綺麗になったな」
王の言葉にマユリは、はにかんで頬を染めて頭を下げる。
「実はマユリ、今日は折り入って、そなたに頼みたいことがあって、呼んだのだ」
「私の出来る事であれば、なんなりと」
「ああ、詳しくはシオンから聞いて欲しい」
シオンはマユリの傍に立つと、少し辛そうに話し出した。
「実は、母上が少し体調を崩して、元気がないんだ。それで、この間君と過ごした時間が楽しかったこと。フィルの看病がとても上手だったことを聞いて、君に我が家に来て欲しいと言うんだ。君には申し訳ないが、しばらく話し相手に来てくれないだろうか」
「私なんかが、ヘレネ様のお相手は。身分不相応です」
「母上は君がとても気に入っている。話すと元気が出ると言うんだ。マナーの師匠の願いと、私の頼みを聞いてくれないか?」
「もちろん、ヘレネ様の為なら、何でも致しますが、本当に私なんかでお役に立てるのでしょうか?」
「君がいいんだ」
シオンがマユリを真っ直ぐ見て言った。
「では、私は何をすればよいのですか?」
「私の家に来てくれればいいよ」
「私、頑張ります。それで、御病気ですから1日も早い方がよろしいですね」
「うん。できれば今日にでも、準備などは必要ないから」
「はい。ではすぐに用意して参ります」
「あ、馬車で半日位の所だから、君の侍女達も一緒にね。知らない人ばかりより、安心でしょ?」
「私1人でも大丈夫だと思いますが」
「ドレスを着るように。母上が言うよ」
「納得致しました。では侍女共々、これからよろしくお願いいたします」
「私の頼みだよ。マユリを歓迎する」
シオンの笑顔に倒れそうになったが、何とか踏み止まった。
「ヘレネをよろしく頼む。」 王が言う。
「私の師匠です。精一杯お手伝い致します」
マユリが部屋を急いで出て行くと、シオン以外の全員が寂しそうにその背中を見送った。
部屋に戻ったマユリが、今からシオンの家に行ってヘレネ様のお世話をすること、侍女達も同行することをナネット達に話した。
面倒を増やして詫びるマユリに、2人は別れの日がまた先送りされ、その上にシオンの家に行けることを非常に喜んでいた。庶民は旅に出る事はほとんどなく、その上にヘレネの家と言えば、国1~2の美しい城だと聞いている。そこに行けるのだ。2人は嬉々として荷物をまとめ、あっという間にマユリの旅装も整えた。
「ああ、もう準備できたんだね」
フィルが部屋にやって来た時には、すっかり旅支度ができていた。
「私はここで、待っているから、早く帰っておいで。マユリがいないと寂しいからね」
「はい。精一杯頑張ってきます」
「うん、ヘレネ様が早く良くなるといいね」
「できるだけ早く帰ってきます」
「無理しちゃダメだよ。……行かなくてもいいと…」
「フィル様。大人げない。ヘレナ様は私の師匠。呼ばれたら行くのが弟子の務め」
「でも……」
「待ってて下さい。お兄様なんですから」
マユリはフィルの両手を握って言った。
寂しそうで、悲しそうな、置いて行かれる子犬のような目をするフィルの両手を、もう一度ギュッと握りしめて、
「大丈夫。直ぐ帰ってきます。そしたら森の家に帰りましょう」 と微笑んだ。




