ヒースクリフ
アレン達の目の前に、白い大きなユニコーンが現れた。
「お久し振りですね。アレン」
「これは、これは、長…。これは、どういうことですかな?」
「3兄弟の花嫁選びですな」
フィル達が驚いて目を見開いた。
「まだそんな事をやっているのですか?」
「3兄弟は100年振りですから、祭りですよ」
「あそこで笛を吹いている奴を攫っただろう」
「乙女は大事にしておりますよ、攫うなど」
「勝手に連れていけば、攫ったと言うだろう」
「まあ、見解の相違ですな」
「まったく……。ユニコーンと言う奴は…」
「まあ、マユリ様の歌を聞き終わるまでは、もうしばらくお待ち下さい」
「その後は、連れて帰るぞ」
「マユリ様のお心のままに…。あ、しかし、そちらの方は呪い持ちですね。これ以上はそばには来ないでください。子供達が怯えますので」
とフィルを横目で見た。
「私に怯える?」
「呪いがまだ残っておりますな。我ら清浄な者にとっては、ちょっと……。大人はまだ我慢できますが、子供らには……」
「では私はここで待っていましょう」
アレンとジーク、シオンがマユリの方に歩き出した。
マユリは横笛で、子供達のために童謡を何曲か吹いていた。
「マユリ。そろそろ歌って欲しいな」
ヒースクリフが鼻先でマユリの頬をつついて言った。
「くすぐったいなぁ。止めてよ。で、何を歌ったらいいかな?」
「バラの歌、知っているかい?」
頷いて立ち上がったマユリの目に、アレン達4人の姿が目に入った。
マユリはその姿を見て、花が開くように笑顔になった。
4人に大きく手を振ると、4人も軽く手を上げる。
安心したマユリは胸の前に軽く手を組むと、静かにバラの歌を歌い始めた。
ユニコーンの子供達が、マユリのそばに近付こうと我先に集まってくる。
ヒースクリフが邪魔そうに子供達を鼻先で押しやるが、子供達は嬉しそうにマユリをとり囲んで離れず、そばに座りこんだ。
透明感のある声が草原に染み入るように流れる。
ユニコーン達はその美しさと清浄さに、心を奪われて全員がうっとりと聞き惚れた。
マユリがバラの歌を歌い終わると、ユニコーン達は輝く瞳でじっと見つめ、次の歌を期待して待っていた。
そばに立っていたヒースクリフが、緩く編まれたマユリの髪の髪紐を解くと、少し癖の付いた腰までの長い髪が背中に広がる。
嬉しそうにヒースクリフがその髪の中に頭を突っ込んだ。
「もう、悪戯は止めて。次の歌が歌えないわ」と笑った。
マユリは讃美歌を歌うことにした。
(清浄を好むであろうユニコーンであれば、きっと好きだろう。メロディも美しいし。この草原で歌ったらきっと気持ちいいはず)
続けて歌っていると、何だか周囲の風も心地よく、草も花もキラキラと光り、空気も澄んで行くようだった。
草原全体が緑色に輝いた。
マユリが歌い終わってお辞儀をすると、ユニコーン達が皆マユリの前に行って、膝を折り、優雅に頭を下げる。
お礼をしたユニコーン達はそれぞれ森の中に消えて行き、草原に残ったのは長とヒースクリフだけになった。
ヒースクリフはマユリにぴったりと寄り添い、黒髪の間から嬉しそうに頭を出して、何となく笑っているようにも見える。
「帰るぞ」
アレンがマユリに手を伸ばして言うと
「勝手なこと言わないでよ。マユリは帰らない。僕とここに居るんだから。大事にするよ。男どもは勝手に帰れよ」
とアレンの前に体を割り込ませて言った。
マユリは目に前にある、ピンクの体と銀色のたてがみがまるで縫いぐるみの様で、思わずその手触りを確かめたくなり、そのたてがみを撫でていた。
「ほら、もう僕がお気に入りでしょ。僕達は乙女の永遠のアイドルだからね。だから邪魔しないで、さっさっと帰れよ」
「何だこいつ。このピンク。長!こいつは……一体何なんだ」
「アレン様。まあ、落ち着いて下さい。ヒースクリフ、いい加減にしなさい」
「長。マユリがここに居れば、あの歌が毎日聞けるんだよ。この声が自分を呼んでくれて、その上にそばに居るだけで、とっても温かい。極上の乙女でしょ」
マユリの髪の中から頭を出し、キラキラの瞳でこっちを見て長に訴える。
「それは、惹かれるな」 長が呟く。
「何をしているんだ」
ジークとシオンがマユリにぴったりとくっ付いているピンクのユニコーンを冷たい目で睨んでいるが、まったく気にした様子もなく、
「羨ましいだけだろう?傍に居たいのにさ。人間の男って、面倒くさいよね、マユリ」
とマユリに頭を擦り付けようとした時、顔を上げたマユリがふわりと動き出した。
少し遠くに立っていたフィルのそばに一心に駆けて行く。
息を切らして走って来たマユリは頬を赤くして、満面の笑みでフィルを見上げて言った。
「フィル様。迎えに来て下さったのですか?」
(目の前に走って来た娘は誰だろう?)フィルは思った。
長い髪を揺らして輝く瞳でこちらを見ている、子供体型だったフィルの妹のマユリは跡形もなく、いつの間にかほっそりとした娘に成長していた。
「う、うん。走って大丈夫なの?皆で迎えに来たんだ」
毎日顔を合わせていたはずなのに、よく知っていたはずなのに、急にマユリの成長をはっきりと認識したフィルは、どうしていいのか自分自身、戸惑ってしまった。
「呪い持ち。マユリに近付かないでよ」
いつの間にかマユリの前に立ったヒースクリフが言った。
「マユリは僕のそばに居ればいんだから、呪い持ちの男なんて引っ込んでいてよ」
金色の瞳でフィルを睨み付け、マユリの体にその首を巻き付ける。
「ヒースクリフ。フィル様に対して、何て失礼な!あなたは私を攫ったのですよ。私からすれば、あなたは加害者で、人攫いの罪人、いえ、罪馬? ま、そういうものなんですからね」
「君は僕の乙女なんだから、加害者なんて言わないで。僕は守護したいだけ、そばに居たいだけなんだから、仲良くしてよ」
「私はあなたの乙女ではないし、仲良くする義務も砂粒程もありません!」
ヒースクリフと鼻を突き合わせる様にして、しかるように言い放った。
マユリの怒った様子にヒースクリフは目に見えてしゅんと落ち込んだ。
「ひどい。でも、どうしたら許してくれるの?」
マユリの胸に顔を擦り付けて何度も謝るヒースクリフは、ピンクの縫いぐるみの様な動物で、何だか何時までも怒っているこちらの方が悪いようで、フィルを見上げて困ったようにため息をついた。
「そんな、あざとい馬の言うことなんか、聞かなくていいぞ」
アレン達が後ろから声を掛けた。
「清浄な聖獣である僕に対して、それはないでしょう?アレン」
「こんな、薄汚れた奴に構うことはないぞ」
「僕が君を守護してあげる。こんな呪い持ちや汚れた男どもと一緒に居ると、君まで汚れてしまうよ」
「何だこれ。ユニコーンって、こんななのか?」
呆れたようにジークがアレンに尋ねた。
「とにかく、僕は僕の乙女を守護するんだから、離れないよ」
マユリの体にびったりと首を巻き付けて、離れようとしない。
「ヒースクリフ。私は今お城でお世話になっている、言わば居候の身。あなたを連れて行くことはできません」
「そんな事は気にしないで。ユニコーンを拒否できる場所や者はこの世界のどこにも存在しないから。まったく心配ないよ」
「俺達が拒否するぞ」
ジークが言うと、嘲るようにヒースクリフが
「僕達は行きたい所に行って、乙女を守護する。拒否できる者も力もない。これは世界の真理さ。結界もユニコーンには無力だから」
「残念だが、それは間違いない」
アレンが苦々しそうに肯定した。
「では、とにかく城に戻ろう。早く戻らないと、皆が心配しているから。それでいいかな?」
少し冷静になったフィルがそう言うと、全員が気が付いた様に頷いた。
「長様。お騒がせをしました。ではこれで、失礼いたします」
マユリが長に頭を下げると、足元に魔法陣が金色に輝いて広がった。
光が消えて目を開けると、全員が城の中庭に立っていた。
読んで下さる方が居た。と思うと嬉し過ぎます。拙い者を温かく見守って下さる。日本に10人位の目標ですが、少し増やしたくなります。皆様に感謝です。ありがとうございます。




