表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
27/56

ユニコーン

歌の会が済んで、マユリはちょっと疲れていた。


シオンやアレンの話、王や王妃の話。

自分の所に来て住めばいい、心配は要らない。歓迎する。

優しくて、どれも自分にとっては有難い申し入れだ。


でもいいのだろうか?

どれも自立した暮らしとは言えない気がする。

人に頼って生きていくのは、間違っている。祖母ならきっとそう言う。

では自分はこれからどう生きたらいいのだろうか。

どうしていいのか、難し過ぎて頭が回らない。

自分の不甲斐無さに酷く落ち込んだ。


よし、もう考えていても結論は出ない。

バラ園で癒されよう。1人でのんびりして来よう。

昨日私は頑張った。もう、今日はお休みにしてもいいよね。

と思って、バラ園に来た。


今日も咲き誇るバラが美しい。

バラの香りが周囲に満ちて、何だか幸せな気分になる。

(優雅な散歩だなぁ。バラ園独り占め…なーんて。本当どこの貴族様なの?笑っちゃう)

と一人でクスクスと笑っていた。


突然マユリのそばの空間がゆらりと歪み、その中心から何かが現れた。

(何?何かが出てくる。何?怪物?)

長い馬の顔がヒョイと出て来た。

仔馬の様だが、ピンク色の体毛が時々金色に光る。

たっぷりとした長い金色のたてがみと尻尾が地面まで豊かに垂れている。

その額には螺旋状の銀色の長い角が1本あった。

金色に光る瞳がこちらを見ると、すぐに嬉しそうにマユリのそばにやって来た。


「ユニコーン……、なの?」

お伽話の中の聖獣の姿に、驚きを隠せず両手で口を覆いながら聞いた。


「良く分かったね。君の名前は?」

「私はマユリです。あなたは本当にユニコーン…? どうしてここに?」

「僕はヒースクリフ。乙女を探しに来たんだ。そして、君が僕の乙女だよ。マユリ、じゃ行こうか」


「えっ?行くってどこに?」

「僕らの村に決まってる。じゃ行くよ」

ヒースクリフがマユリに寄り添うように立つと、その瞬間金色の光が2人を包んだ。

ゆらりとマユリ達の姿の輪郭が乱れて消えた。

「マユリ様!」

ナネットとルルの悲鳴の様な叫びがバラ園に響いた。


次の瞬間、異変を感じたアレンがバラ園に転移して現れた。

「マユリ!」

そこにアレンに答えるマユリの姿はなかった。


光が消え、目を開けたマユリの目の前には木々に囲まれた草原が広がっていた。

周囲は緑が深く、空気までが澄んでいて、気持ちのいい風が頬を撫でる。

甘い花の香りと緑の匂いがする。

「ようこそ。ユニコーンの里へ」

ヒースクリフの声に自分の周囲を見ると、白、黒、茶色、色々な色のユニコーンがそばに立って、興味深そうに自分を見ていた。


(わわっ。こんなにユニコーンが一杯居る。角が一杯。ウワー縫いぐるみみたい)

思わず手を伸ばして触ろうとしてしまった。

「この乙女がヒースのお姫様?」

(お姫様?私が?ど庶民の私が?ないわー。何という間違いよ)


「そう。マユリが僕の乙女。兄さん達はどこ?」

「あっちの天幕だよ」

木々の奥に赤い天幕が見えた。


「マユリ。行くよ」

「待って。私はお姫様ではありません。何故私を連れて来たの?間違ってます」

「うーん。説明はあっちでするよ。取り合えず、来て」

(取り合えず、話は聞かないといけないてわね。分からない事だらけだし、ここがどこかも分からない。仕方ない。ついて行くしかないみたいね)とついて行くことにした。


大きな天幕の中には5頭のユニコーンと美しいドレスを纏った、正にお姫様と言える2人の女性が座っていた。

(あれ? これは昔話の童話によくある3兄弟が花嫁を連れて来て、その中で最も優れた花嫁を連れて来た者を王様や跡継ぎにするという、あれかしら?)

そんな事を考えながら、周囲を見回していると、


「よくおいで下さいました。3人の乙女達。貴方のお力をお示し下さい。そして我らの力となって下さい。そして、最も優れた乙女のその夫となる者を長と致します」

と厳かに大きな白いユニコーンが言った。


(やっぱり。でも嫁の力で長にって、本人の力はどうなるのよ。その上に私はお姫様でもなければ才能もないのに。何考えてるの?ヒースクリフ。馬鹿なの?どうするのよ)

と温厚なマユリには珍しく、馬鹿だ。と思って横のヒースクリフを見ていると、


「第1の乙女。あなたの才は何でしょうか?」

「私は国の第1王女で布を織る才がございます」


「第2の乙女。あなたの才はなんでしょう?」

「私は国の第2王女。商売の才で国を豊かに致します」


「第3の乙女。あなたは…」

「私は姫ではありません。才能もありません。ここに連れて来られたことが間違いです。そして、長の座を花嫁の才能で選ぶこと自体が間違いだと思います。ヒースクリフ、ごめんなさい。私はあなたの乙女ではないと思います」と言って、頭を下げた。


「間違いじゃないよ。僕は君を迎えに行ったんだ。あなたの歌に心を奪われたんだ。歌ってよ」

「私の歌で何かを判定するのでなければ、喜んで歌います。皆さんが喜んでくれるなら私も嬉しい。いかがでしょうか」

白いユニコーンに尋ねた。


驚いていたユニコーンだったが、興味を引かれた様で

「分かりました。歌っていただけますか?」 と言った。

「では、笛はありますか?縦でも横でもいいのですが」

直ぐに横笛が届けられた。


マユリは音を確かめるように、指慣らしに少し吹いてみた。

少し音は割れるが素朴で、何とも懐かしい感じだった。

1曲吹いた時には小さなユニコーン達がそばに集まっていた。


その頃、城では王を始めとした人々が集まっていた。

マユリがバラ園から攫われたことに全員が怒っていた。

特にアレンは激怒していた。

「アレン。どこに連れ行かれたか、わかるか?」

「ユニコーンの仕業だから、あいつらの里で今頃、3人の乙女ごっこでもやっているだろうさ。しかし、マユリは姫という立場ではないんだが…」


「何だ?その3人の乙女ごっことは」

「昔から3兄弟がそれぞれ花嫁を連れて帰り、その嫁の才能で長を決めるんだ。まったく……、下らん」

「じゃ、マユリは花嫁として攫われたのか?」

フィルとジークが叫んだ。


「マユリはどうなるんだ」

「まあ、選ばれたわけだから、花嫁としてあいつらに大事にされているはずだ」

「でも、花嫁って、結婚させられるんではないのか?」


「私が連れ戻す」

アレンが転移しようとすると、ジークとフィルと、シオンが一緒に行くと言い張った。

「チッ!全く面倒な。どいつもこいつも…… まあ、仕方ないか。行くぞ」


4人の足元に魔法陣が展開され、金色の光が輝いた。

光が消えると4人は小高い丘の上に立っていた。

4人の目の前には草原が広がり、木々の奥に赤い大きな天幕が見える。

その前の広場に色とりどりのユニコーンが群れてゆったりと座っていた。


その前方に座ったピンクのユニコーンに、背中をゆったりと預けるようにして座った黒髪の娘が笛を吹いている。

何だか懐かしく郷愁を誘う曲調が風に乗って流れてくる。

ユニコーン達が楽しそうに耳を傾けている。


背もたれになっているピンクのユニコーンは、嬉しそうにその首をマユリに巻き付けて、マユリの顔を覗き込むようにじっと、見詰めている。


マユリは目を閉じて、次々と軽やかで楽し気な曲を吹いている。


「あいつはいったい何をしているんだ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ