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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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リハビリ

毎日ポーションを飲み、少しずつ食事を食べ、足を動かす。

ベッドの端に腰掛け、足を床に付ける。

足踏みをして、足を動かす。

ベッドの横に立てた時、ナネットとルルと3人で抱き合って泣いてしまった。


そしてまたポーションを飲み、回復魔法を受ける。

呪いで受けたダメージは思いの外に大きかったようで、回復は非常にゆっくりだった。

それでも毎日リハビリを続け、ベッドの周囲をナネットに支えられて1周歩くことができた。


「あれ、マユリ様、背が伸びてます。この間切った髪も腰まで伸びてます」

ナネットが驚いた様に言った。

「ああ、ほんとだ。ポーションとヒールの日々で、身長も髪も伸びたみたいね。痩せてしまったけど、すっかり少女らしくなって。綺麗になったわよ」

ジョイスがカルテを書き込みながら、こちらを見て言った。


「ポーションにそんな作用があるのでしょうか?」

「うん。こんな使い方をしたことないし、毎日飲ませるなんて考えもしないから」

「でも、マユリ様が綺麗になったのは間違いないので、良かったのではないでしょうか」

珍しく、ルルがマユリの髪をブラッシングしながら言った。


「そうね。肌も髪もきれい。後は早く元気になって、誰かさんに見てもらいましょう」

ジョイスがマユリの頬をつんつんと突いて笑う。

マユリは恥ずかしさに身を縮こまらせたが、部屋の鏡を思わず見てしまった。

そこには、太っていた頃のマユリの半分位になってしまった。ほっそりとした知らない少女が映っていた。


(嘘みたいに細い。誰よ。今までは痛いことが先で、自分の手足が細くなったことは分かっていたけど。ビフォーアフターって、こんな感じ? 私の目が見える。二重顎がない。髪も腰まで伸びてるって、やっぱり呪いの市松人形?身長どのくらい伸びたのかしら。明日立った時にみてみようっと)

自分の変身振りに、ちょっと嬉しくなって、ニマニマしているとアレンがやって来た。


「どうだ・少しは歩けるようになったか?」

「ベッドを一周しました」

「それだけか。回復が遅いな」

「でも、身長が伸びたそうです」

「本当か?ちょっと立ってみろ」

ベッドの手すりにつかまって、よろよろと立ち上がると、

「背が伸びても俺の胸までだ。小さいな」

「アレン様が大きいのです」

190cmはあると思われるアレンを見上げているとふらついて、前に立っていたアレンの胸に倒れ込んだ。


「あ、すいません」

と言ってすぐに離れようとしたが、何だか馴染みのある、その胸と両手の感覚に思わずに体を預けてしまった。

(あれっ?何だか凄く安心する。この感じ。あんなに痛い思いをしてたのに。私、本当はすごく頼っていたんだな)

と無意識にアレンの胸にすりすりと頬を擦り付けてしまった。


アレンは思いもかけないマユリの行動に驚いたが、思わず1度ギュッと抱きしめると、そのまますぐにベッドに寝かせた。

「まだまだだな。しっかり運動しなさい」

と言うとさっさっと部屋から出て行った。


(ふーん。師匠照れている。マユリは天然のたらしのようですね。これは面白い。ジョイルにも教えてやらねば)とジョイスがほくそ笑んだ。


マユリのベッドサイドテーブルの上にある花瓶には、花が10本になっていた。


そして一週間程すると、マユリは1人で部屋の中を歩けるようになった。

「おお、だいぶ歩けるようになったな」

「はい。アレン様のお陰です。ありがとうございました」

「では、マユリに。聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「もちろん。なんでしょう?」

「そうか。ではジョイルと、面倒だが、3つ子も呼ぶか。ジョイス頼む」


程なくして、ジョイルと3つ子が病室にやって来た。

フィルがすぐにマユリのそばに行き、横に座る。

「どうしたの?大丈夫?」と小さな声で囁いた。

「聞きたいことがあるそうです」


「では、マユリ。あのケガをした日。お前は何か呪文の様なものを言って、毒を吹き飛ばしたのだろう?それは何だ。魔力のない、お前は魔法を使えない。何をしたんだ」

「私あの時の記憶はあまりないんです。何をしたのでしょう」

「マユリ。あの時君は、ベッドの上に膝を折って座り、手を叩いて何か祈っていたように見えたよ」

あの日を思い出し、少し辛そうにフィルがマユリに言った。


「手を叩く……。ああ、祝詞を奏上したのですね」

「祝詞とは何だ」

「私の国の神様に捧げる歌と言いますか。誓いと言いますか、お願いと言いますか。毎朝、神官が祈るものです」

「お前は神官なのか?」

「いいえ。私の家は昔から、小さいですが神様の社を守って来たんです。そのため、私も幼い時から祈って来ました。あの時は祖母の夢を見た様な気もしますが、よく覚えていません」


「そうか、じゃ、今からそれを私に見せてくれないか?」

マユリは頷くと直ぐにベッドの上に正座して、両手を付き、深々と頭を下げた。

そして柏手を1つ打つと、何となく空気が変わり、2つ打つと部屋が凛とした清浄な空間になった。

良く響くマユリが祝詞を奏上すると、言葉は分からないが部屋の中に居た、人々は何となく頭を垂れて、マユリの声に聞き入る。

マユリがもう一度深く頭を下げて、頭を上げると部屋はいつもの空間に戻った。


「何か分からないが、気持ちのいい物だな。魔法の類ではないが、マユリにはきっと神の守護があるのだな」

アレンがジョイスとジョイルに同意を求める様に言うと、2人共に頷いていた。

「神への歌と言われると魔の物には辛い筈なのに、何だかこの清浄さが気持が良くて、マユリの様だわ、不思議な気分」

ジョイルの肩にスピネルが乗って、アレンに言った。


「そうか。スピネルにも分からないか。では私ごときでは分からないな。マユリ。いい物を見せてくれた。ありがとう」

「そんな。私の方こそ、いつもありがとうございます」

「さ、マユリ、もう休みなさい。男はさっさと出て行って」

「また追い出すのか。マユリと俺達は話もしていないのに」

ジョイルと3つ子はあっと言う間に、ジョイスから部屋の外に出されていた。


ドアの外で文句を言う3つ子の声を聞きながら、アレンに頭を撫でられて少し嬉しいマユリは直ぐに寝入ってしまった。


それから、毎日フィルがやって来て、マユリの散歩に付き合うようになった。

マユリが動けなくなった時にベッドまで運ぶ係だ。

目標は1人でバラ園まで歩くことにした。


「背が伸びたね。顔が私の胸の所だ」

「フィル様の顔が近くなりました」

「何だか、違う娘みたい。痩せたし、ほっぺが摘まめなくなった」

「それはいかがなものかと……」

「ごめん」

他愛もない話をして、笑い合う。

何とも楽しい一時だが、突然スイッチが切れたように歩けなくなる。


「駄目ですね。私」

「焦っても仕方ないよ。ゆっくりでいいよ」

「でも、早く元気になりたい」

「私もそう思う。一緒に帰ろう」

フィルの言葉に思わず笑顔になると、

「あ、久しぶりのマユリのエクボだ。これは変わらないね」

嬉しそうにエクボをつつくフィルを見て、ナネットとルルは何となくそっと目をそらした。


それからも運動を続けたある日、ついにバラ園に1人で行けた。

バラ園の東屋に1人で座っていると、シオンがやって来た。

「久しぶり。やっと元気になったんだね」

「はい。ありがとうございます」

「お見舞いに行けなくてごめんね」

「いいえ、毎日お花やお菓子ありがとうございました」

「私は面会謝絶だったからね」

「アレン様は強力ですから」

2人は顔を見合わせて笑った。









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