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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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解呪の終わり

程なく、ジョイスがフィルを連れて来た。


ベッドにうつ伏せに寝ていたマユリが、片手を伸ばした。

ベッドの横に跪いたフィルが声もなく、その手を両手で握った。

ホロホロと涙をこぼしながら、2人はしばらく見つめ合った。


「フィル様……」

「マユリ。マユリの馬鹿。私を庇うなんて。何を考えているんだ。私が、守らないといけないのに」

「私は、フィル様が無事で、嬉しい」

フィルの手をマユリがギュッと握りしめて言った。


「マユリ。一日も早く、元気になるんだよ」

「はい……。はい。私、元気になります。待ってて下さい」

泣きながら、でも嬉しそうに笑顔を見せるマユリの頭をフィルが撫でて

「もっと笑顔を見せて」と言うと、


不機嫌そうなアレンが

「もう、いいだろう。疲れさせるな。早く出て行け」

と言ってフィルを追い出した。

マユリは嬉しそうにフィルの背中を見送ると、幸せそうに眠ってしまった。


何故かアレンは2人を見ているとイラッとして、邪魔をしたくなる。

マユリの伸ばした手も微笑みも何となく腹立たしい。

ロルフが「助けたくなる娘」と言ったその気持ちが今は何となく分かる気がした。


次の日には少し起きていられるようになったマユリだったが、まだ食べ物を受け付けなかった。そのため、水代わりにポーションを飲むようになった。

1人で座ることもできないため、アレンに抱かれたままカップを両手で持って、コクコクと一口ずつポーションを飲むマユリは、リスの様でなんとも微笑ましい。

ジョイスは気難しいアレンの腕の中のマユリを見て思わず笑顔になってしまう。


毎日の治療は今も痛みが強く、終わるとぐったりとしてしまう。

その後はカップ1杯のポーションを、アレンに支えられて飲むとまた眠ってしまう。

マユリは1日をほとんど寝て過ごしていた。

それでも、10日程で背中の傷はほぼふさがり、肩から腰までの十文字の赤い傷跡になった。


「もう少しで解呪が終わるからな」

「ご迷惑をお掛けして、すいません」

「謝るな。それより何か食べろ」

ぶっきら棒に言う、アレンに弱々しく頷く。

「ありがとうございます。優しい方ですね、アレン様は」

アレンは照れたように明後日の方を向いて

「早く、寝ろ」と言った。


次の日。

ナネットとルルがやっと許されて救護室にやって来た。

2人共マユリの顔を見るなり、大泣きしてしまった。

両側から、マユリの手を握り、

「ああ、マユリ様。助かったのですね。本当に助かったのですね」

「良かった。これからはまた私達がお世話します。任せて下さい」


「おい、おい、2人共。病人だからね。あまり張り切って世話をしてはダメだよ」

ジョイスが勢い込んだ2人の様子に笑って言うと

「分かっております。まずはお食事から」


ナネットとルルはマユリが起きると少しづつ、ポーションを口に含ませた。

はっきり目覚めている時には果物などをごく少量口に入れる。

体を拭いて、無残に切られた髪を残念そうに背中の少し上できれいに切り揃えた。

「あんなに綺麗な黒髪だったのに、こんなに短くなって。私がまた綺麗にしますからね」

新しい寝巻を着せると、またマユリは眠ってしまった。


次の日治療が済むとマユリはポーションを飲みながら、ベッドの横のテーブルを見た。そこには白い小さなバラの蕾が1輪花瓶に生けてあった。

マユリがその蕾にそっと触れるとにっこりとした。

「どなたからか、分かりましたか?」

「フィル様」

「当たりです」

マユリはまたすぐに寝てしまうが、起きる度に蕾に触れてにっこりした。


アレンは毎日治療をしているこの娘が気に入っていた。

気を失う程の痛みを我慢して、感謝を忘れない。

抱いていると温かな子犬を抱いているようで心地いい。

柔らかな頬と滑らかな黒髪もスベスベで触ると気持ちいい。

しかし、フィルと一緒に居る姿を見ると何となく腹立たしい。

繋いだ手を振り払いたくなる。

黒い思いが自分でも分からない。

もう直ぐ終わるはずの解呪を少し力を抜いて、少しずつ先延ばしにしていることはアレンだけの秘密だった。


それでも、3日もすれば、解呪の作業はほぼ終了した。

「終わった。よく頑張ったな」

アレンがマユリに微笑んで言った。

「ありがとうございました」

腕の中からアレンを見上げて言うと。

「マユリ。本当に良く頑張ったね。後は体の回復よ。毎日ポーションを飲むのよ。そして解呪ができたのは、アレン様のお陰です。私からも感謝致します」

ジョイスが頭を下げて言った。


「まあ、もう暫くは、私もここで様子を見よう」

「それは、願ってもないことです。居て下さるなら、安心です。また色々ご教授下さい」

「そんな。これ以上私のためにお引止めするわけには……」

アレンはマユリの頭を撫でて

「気にするな。責任もあるし、呪いは怖いからな」


「マユリ、できるだけこの人を引き留めるのよ。こんな人だけど、凄い魔法使いなの。私達はこの人から盗むものが沢山あるの」

ジョイスが可笑しそうに笑いながらマユリにウインクをした。


「まあ、仕方ないか。面倒だが、ここに居る間は教えてやらんこともない」

「では早速ジョイルに連絡します。喜びます」

「呼んだ?」

ジョイルが転移してそこに現れた。


次の日3つ子が揃ってやって来た。

「マユリ、痩せたね。大丈夫かい?」

「心配したよ。本当に良かった。早く元気になるんだよ」

「何で君達も来るの。邪魔なんだけど……」

「うるさいよ、フィル。お前だけの物じゃないだろうが」

「ジークもシリウスも、後で来ればいいのに」

「この時間だけしか、会えないんだから仕方ないだろう」


「ジーク様。シリウス様。フィル様。寝たままですいません。ご心配をおかけしました。後はリハビリを頑張ります」

「マユリ。私は誰?」

「もう、ジーク様です。分かりますって」

「はい。当たり」

「さ。面会時間はもう終わり。はい、はい。男は処置の邪魔。また明日ね」

ジョイスが笑いながら3人を追い出した。

「また明日ね~」

マユリの顔を見て安心した3つ子が帰って行った。


マユリの体力はほぼないため、話をするだけでも息切れして、また寝てしまう。

5~10分座っていることも背もたれがないとできない。

ポーションを一気に飲むこともできない。

ナネットとルルが様子を見ては、ポーションを一口ずつ飲ませるが、1本を1日掛けて飲むような状態だった。

合間を見ては足を動かし、マッサージをして落ちた筋肉に刺激を与える。

マユリは目覚める度に、ベッドサイドテーブルの上で毎日1本ずつ増えていく花を見ては、そっと花びらに触れて微笑む。

その姿を見て、ナネットとルルは微笑んでいた。


それでも毎日のポーションと回復呪文で、少しずつマユリは回復していった。

座る時間が長くなり、起きている時間も長くなっていった。

スープが少し食べられるようになったのは、ほぼ20日後だった。

傷もほとんど目立たない程薄くなった。

毎日ナネットとルルが手入れをした肌は白く光り、カサカサだった頬も前のようにスベスベとして、吸い付くような手触りだ。


「何だか凄く綺麗な肌になったみたい」

「私共渾身の肌の美しさです」

「ああ。お風呂に入りたい」

「私が抱いてお風呂に入ろうか?」

「ここにも馬鹿が居た。フィル。勝手にここに入り込むな」

とジョイスが言うと、摘まみ出された。















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