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魔法は何もつかえないけれど  作者: ちくちく
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アレンの解呪

傷の表現がありますので、嫌な方はご注意下さいませ。傷が治るまではもう少しの予定です。よろしくお願い致します。

アレンはこの世界でも5本の指に入る優秀な魔法使いだった。


王族に連なる身分だったが、国の為に何かをすることはなく、気ままに過ごす自由人だった。誰の言うことも聞こうとせず、自分の興味のあることだけに貪欲で、何物にもとらわれない人間だった。そして、今は山の洞窟に1人で住み、気ままな独身生活を送っていた。

そんな人間がロルフの願いを聞いて、ここに来たということが僥倖だった。


そして今、マユリを助けるために、ここで頑張っている。

ジョイスは信じられない思いで2人を見守っていた。

ジョイスとジョイルは以前一時期、アレンを師匠として師事していたことがあり、その実力が並びないことを知っていた.

そして、多分この解呪ができる人間はアレン以外にはいない。

今もマユリの背中に当てられた指先から、解かれた呪いが花火のように光って周囲に飛び散っている。

マユリの傷は徐々に出血が止まり、傷口も少しづつ盛り上がっている。

確実に昨日よりは回復している。絶望の夜から今は希望の光が見えた。


「マユリ! マユリ!」

その時、フィルの声がしてドアが開いた。

その瞬間、目を上げてドアの前に立つフィルを見たアレンは

「呪い持ちが。この部屋に近付くな!」

と一喝すると、片手を一振りしてフィルを廊下の端まで吹き飛ばした。


壁に激突したフィルは床に倒れ込んだ。

アレンは何事もなかったかのように再びマユリの背中に手を滑らせる。


閉じられた救護室のドアを見て、座り込んでいたフィルは『呪い持ち』と言われたことにショックを受け、項垂れてしまった。

「気にするな。そして俺達に出来る事は祈ることだけだ」

いつの間にか横に居たジークがフィルに手を差し伸べて、立たせた。


アレンの解呪が始まって5日目。

マユリが急に身じろぎをして、目を開けた。

その瞬間、絹を引き裂くような大きな声で悲鳴を上げて、大きくのけ反った。

「ああ、気が付いてしまったか。もう一度眠れ」

アレンがマユリの目に手を当てて言うと。マユリはまた意識を失い、アレンの肩に倒れ込んだ。


その悲鳴に、驚いた3つ子がドアの前に集まっていた。

フィルは自分の身代わりになってしまったマユリの悲鳴に、気が気ではなかった。

不安で自分の不甲斐なさに身の置き所もなく、両手を握り閉める。

「フィル。皆同じ思いだよ」

シリウスがフィルの肩を抱いて部屋に戻った。


7日目、マユリの意識が徐々に浮上してきた。

(何?目が開けられない。体中が痛い。特に背中が痛い。手足に力が入らないし、何で目が開けられないの?そして、胸が温かい。ん?私は誰かに抱かれている?何で?何があったの?頭がぼーっとしていてよく分からない。)

抱かれていることに気が付いたマユリが、思わず動いて体を離そうとすると頭の上から声がした。


「じっとしていろ。治療中だ」

知らない男の人の声に、一層身を引こうとすると、

「我慢しろ。もうすぐ終わるからな。もう少しだ」

(ああ、そうか、私。けがをしたんだった。でも背中に手が触れている。背中が寒くて熱い。ちょっと。素肌に触られている。うそ。素肌って、裸なの?私)

一気に恥ずかしさがこみ上げて、体が熱くなった。多分顔は真っ赤になっただろう。


「オイオイ。熱が出たのか?体が熱くなったぞ。おいジョイス。熱が出たみたいだぞ」

「違います。マユリが気が付いたんです。マユリ。体が痛む?」

マユリが小さく頷いて、唇を嚙み締めた。

「解呪が済んだら、回復して上げるから、もう少しだけ我慢してね」

優しい女性の声に少し安心して、背中の痛みを必死に我慢した。


ベッドにまた横になった時にはぐったりとして、またすぐに眠ってしまった。


次の日、アレンの治療が始まると、その痛みで目が覚めた。

視線を上げるとアレンの顔が見えた。

白髪で金色の瞳の精悍な顔の青年が自分を抱いている。

そして自分の裸の背中に手を滑らせている。

体を固くして、少しでも離れようとするが、余計に抱き込まれる。

「今日はもう気が付いているんだな。痛いだろ?寝かせようか?」

マユリは小さく頭を振って、我慢した。

アレンの指が動く度に背中が焼かれるように痛みが走る。


しばらくしてアレンの治療が終わった時、マユリは大きくため息をついた。

「我慢強いな、マユリ。私はアレンだ。君の治療をしている。毎日少しずつでないと君の体力が持たないから、もうしばらくかかる。そこは理解してくれ」

「はい」

掠れた小さな声がやっと出た。


「おい。ジョイス。マユリにポーションを飲ませてくれ。今なら意識がある」

「マユリ、水が飲める?一口ずつ、飲んでみて」

口元に淡いピンク色の水が入ったカップを当てられた。

水を少し口に含んで飲み込むと、乾燥した喉が潤うのが分かった。

しかし、その一口を飲み込むことにもひどく疲れる。

カップ半分ほど飲むだけで、眠たくなり、そのまま眠ってしまった。


次の日マユリは背中の痛みでまた目が覚めた。

背中が焼ける様に痛い。思わず顔を顰め悲鳴を上げないように唇を噛む。

「唇を噛むな、血が出てる」

アレンの声は聞こえるが、痛みで意識が朦朧とする。

アレンから離れようと体は動くが、アレンがより強く抱き込む。


男性に抱かれていることが恥ずかしくて、一気に体が熱くなる。

「ジョイル。この娘、熱が出て来たみたいだぞ」

「意識があるから、恥ずかしがっているだけです……。馬鹿」


「馬鹿って。師匠に言う言葉か」

ジョイスはその言葉を無視して、

「マユリ、もうすぐ終わるからね、頑張るのよ」

と笑い掛けた。


治療が終わるとまたピンクの水の入ったカップを口に当てられた。

一口一口時間をかけて飲み込む。

全部を飲むことができると少し声が出せる様になった。

「フィル様……、は大丈夫ですか?」


「最初に言うことが、それか…」

ジョイスが額に手を当ててため息をついた。


「大丈夫。元気だよ。私はジョイス。何か欲しい物はない?」

「フィル様…。会いたい」

「うーん、ここは結界が張ってあるからね。フィルはこの間吹き飛ばされたし。アレン様の許可がねぇ……」

(吹き飛ばされた? どういうことかしら? 何があったのかしら?)

と考えている間にまた眠ってしまった。


アレンは今抱いている娘の頭と背中を見ていた。

白い背中に痛々しい十文字の傷。引き裂かれた皮膚はまだふさがっていない。

体が振るえるほどの痛みを黙って耐えて、毎日気を失う。

黒い髪の小さな体は、柔らかく温かい。縫いぐるみを抱いているようで、何だか気持ちがいい。

ずっとこうして抱いていたい気がする。そんな自分に驚いていると、ゆっくりとマユリの目が開いた。


黒い切れ長な目が、じっと自分を見ている。

(綺麗な黒い目だな。黒い髪に似合っている)

柄でもないことを考えた。とアレンは思わず苦笑してしまった。


その時腕の中のマユリが、小さな声でアレンに呼び掛けた。

「アレン様。お願いが」

「何だ?」

「フィル様に会いたいです」

「あの、呪い持ちか?」

「駄目ですか?」

「会わないと駄目か?」

「会いたいです。お願いします」

「うーん。駄目と言っても、その目は諦めないな。仕方がない。じゃ、私の居る時に、少しだけだぞ」

マユリが笑顔になった。







私の拙い物語を読んで下さる奇特な方。いらっしゃいましたら、本当にありがとうございます。そして楽しんでいただけたら本当に幸せなことだと思います。感謝しかありません。

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