令嬢達
本日、2話目です。私のお話を読んでいる方がいるとも思えませんが、一応。犬は大好きですが、犬をさげすんだ表現として悪口にしています。ワンちゃん達ごめんなさい。嫌な方はとばして下さいませ。いじめはいけないですよね。
次の日、マユリは図書館に行こうと廊下を歩いていた。
図書館は静かで、日本に居た時もマユリの大好きな場所だった。
(昨日の絵本の絵はキレイだったから、あの画家の画集を探してみようかな)
あれこれ考えて歩いていると、前から4~5人の貴族の女性がやって来た。
道を譲ろうと廊下の端に寄ったが、令嬢たちがその前に立ち塞がった。
「あらっ。何だか黒い小さな犬がこんな所にいるわ」
「本当。頭の悪い雑種の犬が」
「城に迷い込むなんて。その上に身分不相応に歩き回って。馬鹿な犬の様ね」
「恥を知らないって。浅ましいわ」
「ここが、自分に相応しいかどうか、分からないなんてね」
「無知って、罪よね」
「馬鹿な犬なんですもの。知性なんて」
「その上に不細工で、デブ。どうしようもないわ」
「珍しい珍獣なんでしょう。一時のね」
マユリを取り囲み、頭の上で笑いさざめいて悪意を投げつける。
長身の令嬢達に、言葉でも現実でも見下されているこの圧迫感は半端なかった。
こんな刺されるような、悪意は経験したことがなかった。
(本当に知らないことばかり。この世界の常識は分からない。フィル様のことですら、知らないことだらけだった。マナーも人も、この世界のことわりも。何も知らない。日々自分でも思っている事を、今言われている。返せる言葉は何もない。力も言葉もない私ができることは何もない。だから今は、ただこの言葉の暴力が過ぎ去るのを待つしかない)と思っていた。
「返す言葉の一つもないなんて」
「愚か、としか言いようがありませんわね」
「本当に、やはり、場違いの犬なのね」
「どちらがでしょう?」
男性の声がすると同時に、マユリは腕を引かれ、柔らかい布に全身を包まれた。
何が起こったのか、一瞬分からなかったが、自分がローブの様な服の中に隠され、片手で軽く抱き留められていた。
目の前は服で何も見えないが、バラの香りがした。
寄り添った体に響くように聞こえる声に、誰かが分かった。
「小さな子供に、皆さんは何を言っているのでしょう」
「私達は常識を教えて差し上げていたのですわ」
「ええ、困ることがないように」
「可哀想でしょう。間違ったことをしては」
令嬢達は突然現れたシオンに浮足立って、慌てたように言葉を連ねる。
「私にはそのようには聞こえませんでしたが」
温度のない冷たい声に、周囲は見えないが、令嬢達がたじろいたことが感じられた。
「そう。じゃぁ、私達は失礼するよ」
とマユリを服の中に抱えたまま、シオンが踵を返して歩き出そうとすると、媚びを含んだ声で令嬢達がシオンに声を掛けた。
「シオン様。あちらで私達とお話を……。」
「品のよくない方と話をするほど、暇ではない。行くよ、マユリ」
周囲が息を飲むのが分かった。
シオンのローブの中で、何も見えないまま庭の見えるバルコニーに連れてこられ、ベンチに座るとやっと服の中から出された。
「誰も居ないよ。大丈夫。私だけ」
シオンの柔らかい声に、胸に手を当て何度か深呼吸をした。
「ありがとうごさいました。私、どうしていいか分からなくて……」
「うん。品のない人達だったね」
一気に気が緩んだ。
「わ、私……。泣きたく…ない。あんな事ぐら…い」
後は声にならなった。涙が溢れて言葉も涙に飲み込まれる。
「ん。よく頑張ったね」
頭に手が置かれ、優しく撫でられると、もう我慢ができなかった。
「私は見てないからね。ほら、君も見えない」
シオンはそっとマユリを胸に押し付けるように、抱きこんだ。
バラの香りのシャツを両手で握りしめ、温かい胸に縋りつくようにして、肩を振るわせて泣いた。
「私、何も望んでない。誰も騙してない。知らないのは罪なの?私、フィル様に恥をかかせたくない。足手まといになりたくない」
途切れ途切れに小さな声で、自分に言い聞かせるように繰り返していた。
そして、しばらく泣いてから気が付いた。
私、女神のシオン様に抱き付いて、あろうことかシャツまで濡らしてしまった。
シオンに抱かれた今の状況は……。一気に全身が真っ赤になり頭から湯気が出そうになった。
「あれ、急に体が熱くなった。熱が出たの?」
「いいえ。恥ずかしい状況に、今気が付きまして」
「そう」
とシオンが抱いていた手を離して、覗き込むようにマユリの顔を見た。
「うふ。真っ赤。リンゴみたい」
と笑うシオンに余計に赤くなってしまったが、なんとかお礼を言うことができた。
その日の午後、フィルに会って相談した。
「お願いです。私にここの常識とマナーを教えて下さい。このままではフィル様に恥をかかせてしまいます」
「マユリは、ずっと、この城に居たいの?」
「私は。ここに居るべきではないと思っていますが、何も知らないと、私がフィル様の恥になりますから」
「私の事なんか。考えなくていいけど、知識はある方がいいよね。母上にいい先生をお願いしようね」
「できれば、1日も早く分かるようになりたいです」
「頑張り過ぎないで。私が居るんだから」
「自分の為でもありますから」
次の日、連れて行かれた広間に、月の女神様が微笑んで待っていた。




