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雨の雫  作者: 海堂莉子
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プロローグ

 ざあざあと叩き付ける激しい雨、轟々と唸る強い風。足元には水たまりとは言い難いほどの湖のような雨水。

 紺色の制服は濡れ、倍の重さになっていた。

 並みのシャワーよりも強く叩き付けてくる雨を顔面で受け止め、天を仰いだ。

 目を開けることすら出来ない。


 どんどん降って私を壊してくれればいい。

 そうでなければ、悲しいこと、イヤなこと、全て洗い流して……。

 お願い……、私をそっちに連れて行って……。

 おいて行かないで……。


 心でそう呟いていると、不意に顔面にかかる雨が止んだ。


 雨が止んだ……? そんなわけはないのに。雨音はしっかりと聞こえているのに。


 ゆっくりと目を開けると、目の先にはビニール傘。

「こんなに濡れたら、風邪を引いてしまうよ。これを持って、早く帰った方がいい」

 声をかけたのは見知らぬ若い男。びしょぬれの私にはその男がどんな顔をしているのかさえ、視界がぼやけて解らなかった。

 その言葉は、今の私には、一番欲しくないものだった。

「いらない……。こんなのいらないっ。放っておいてよ。余計なことすんなっ!」

 私は傘を振り払うと、その男をキッと睨みつけ、走ってその場を後にした。


 優しさなんていらないんだよ。声なんてかけてくんなっ! 偽善者ぶるなっ!


 とにかく一人に、誰もいない所に行きたかった。

 こんな雨の中、外を歩いている人なんていないと思っていたのに、とんだ災難だった。

 バシャバシャと大きな音を立てて、走り続けた。

 やがて足を止めたのは、小さな馴染みの公園。ブランコと滑り台と砂場しかない小さな公園。人があまり来ないから、ここでよく話をした。二つ並んだブランコに乗って。


 まただ…。


 頭の中から追い出そうとすればするほど、次から次へと押し寄せてくる。


「空……」

 小さく呟いた言葉が激しい雨に呑まれてやがて消えて行く。その言葉を本当に口にしたのかさえも定かではないほどに、すぐに消えてしまった。

 ブランコの下のくぼんだ部分に雨水が溜まって小さな池が出来ている。雨粒が落ちる度に小さな波紋が広がる。スロー再生したらどんな風になるのか見てみたい気もした。どうでもいい考えを打ち消すように両足を高く上げ、小さな池に真っ逆さまに落とした。

 大きな水飛沫が私の頬にまでかかったが、気にならなかった。

 私はまだ波が立っているその小さな池をぼんやりと見つめていた。激しい雨と強風の中を。


 私の肩に優しく温かい手が置かれるのを待って。


 望んだ温かい手が置かれることはないと知っていても尚、待たずにはいられなかった……。


皆さんこんにちは。新作始動です。

ご存知の方もいるかと思いますが、更新は平日は毎日、土日祝日はお休みとさせて頂きます。

前作とはがらりと趣が変わります。コメディ要素は極めて低いかと思います。

頑張って参りますのでよろしくお願いします。

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