エピソード7 工房と教会見学とジレンマ
本日から最後の登校となります。
オレ達は西地区にたどり着き、まず最初に思ったのが、今まで地区とは違ったあちこちの工房でモクモクと煙を上げており、少し空気の悪そうな場所だった。
「イーサン様、スノウ様、この工房が帝国一の鍛冶屋でございます」
おぉー そう言えば居たんだヒュンメルよ〜
空気過ぎてわからなかったから少しびっくりしたぜ。
ヒュンメルお勧めの鍛冶屋を覗いてみると、背の小さい髭モジャなおじさんが無言で高熱の鉄を叩いていた。
「兄さん、あの方は我々と少し種族が違うような気が……」
「そうだね、ドワーフという種属の方だよ。この帝国には極数名のドワーフが居て、主に武具の開発等に携わっているんだよ」
フォー! ドワーフキタァー! ファンタズィだぜ!
よく見るとこの工房にはドワーフ以外の人種(人だが)もいて、何やら型に何かを流し込んでいる。
前世でも見たことないので社会科見学的な気分でテンションが上がってきた。
「型に流し込んでいるのは青銅ですね。大陸の至る所で青銅の材料が取れる事と作り方も簡単なので、安価で量産しやすく鉄に比べて錆びにくいのが特徴かと思います」
今日はやけに饒舌なヒュンメルだ。
さてはヒュンメル鍛冶マニアだな、可愛い奴め。
「そして、あちらのドワーフの方は、熱した鉄を叩いて鍛える鍛造加工をしております。時間がかかるため大量生産には不向きですが、硬度は青銅よりも硬いです」
ヒュンメルの説明が終わるとドワーフのおじさんがやって来た。
「ヒュンメル! さっきから五月蝿いのお、邪魔をするなら帰ってくれ」
どうやらヒュンメルとは知り合いのようだが、今はちょっとお怒りの様子なのでここは退散させていただきましょう。
ヒュンメルはドワーフおじさんに何か話しているが、オレとイーサン兄さんは先に工房から出て、ヒュンメルを待った。
数分後にヒュンメルが出てきて「申し訳ありません。お待たせいたしました」と謝られ、こちらも気にしてない旨を伝えた。
そろそろ日も傾いてきたので寒くなる前に帰路に立ったのだが、少し歩いているとこの景観には場違いな教会があった。
「兄さん、こんな所に教会があるんですね」
「帝国では珍しいよね」
「はい、無宗教と聞いていましたので」
「そうだね、帝国は帝王が全てと教えられてあるからね」
「兄さん、少し覗いてもいいですか?」
「そうだね、時間がないから余り長居はできないよ」
オレは扉を開けると、そこには老朽化が目立つ大きなステンドグラスがあり歴史を物語っていた。 また、教会内部の作りや信仰している像を見て、聖グラン教の教会である事に気づいた。
聖グラン教は西の魔法国家、聖グランパレス皇国の【不義理を許さず、弱者を守り、常に誠実であれ】という教えであり、ほぼ全ての国の宗教とし存在している。普段は中立国だが聖グラン教を支持している国々に対して、その教えの通り公平な立場で時に国々を守り、時に罰を与える国である。
オレからしたら堅苦しいそうな国だけど……
「すみませーん! どなたかいらっしゃいますか?」
オレの呼びかけに一人のお爺さん神父が現れた。
「おぉ、こんな時間に何のようじゃお嬢ちゃん。この時期は聖堂が冷えるから、奥で暖かいお茶でもどうじゃ」
優しい神父様の好意に甘えて少しお邪魔をした。
聖堂の奥は居住スペースになっており、一人で住むには些か大きく感じた。
「この教会は見ての通り信者も少なく、何にもない所じゃ」
神父がオレ達に話しかけている時に奥の方から
「そんな事ないよ、オレ達は神父様の味方だよ」
「私も神父様は優しくて神様だと思ってる……」
子どもの声の方に顔を向けると、奥の方からゾロゾロと二十名近くの子ども達が神父の側に行き、まるでオレ達から守るようにこちらをみている。
「これこれお客様に失礼じゃぞ」
「だって、こんな時間だから、またあの貴族が金返せって神父様に暴力を振るいに来たんだと思ったんだもん」
「ふぅん……貴族が暴力ね」
思い当たる節があるのかイーサン兄さんが一瞬悪い顔をして呟いた。
「すまぬが、座る所はそのボロ椅子でもかまんかのぉ」
神父が指差すところには年季の入った背もたれ付きの椅子が四脚並んでいた。
全ての椅子の脚の長さがガタガタになっていて、座ってみたが、やはり座っても安定せずカタカタと音を鳴らしていた。
神父は椅子のガタつき等気にする事なく、お茶を準備しながらポツリと語り出した。
「見ての通りボロボロの教会じゃが、この子達の事を考えると中々離れる事が出来ずのぉ。子ども達を助けるためにはお金が必要で借金をしたんじゃが理不尽な利息でのぉ。立ち退けと言われておるのじゃ」
実際に外に出るまで知らなかった。
今目の前に困っている人がいる。オレはこの人に何ができないか考えていると、一人の男の子が俺が持っている串焼きの袋を凝視していた。
「たくさん買っちゃって食べきれなくなっちゃったんだ。太ってもいけないし、かわりに食べてくれる?」
現在では女装中の身なので女の子口調で話しかけると、男の子は顔を真っ赤にして何か言おうとしている。
「女はすぐ太るとか気にするからな、まぁ仕方ないからオレが貰ってやるよ」
ふん、ウブな奴め。
でもその後ろの子ども達の所に持って行き、人数には到底足りない串焼きをみんなで分けながら仲良く食べていた。この串焼きでこんなに喜んでくれるとは嬉しくもあり悲しくもあった。
帰りに「またいつでも来てくれて良いからのぉ、子ども達も喜ぶからのぉ」
と神父さんは優しい表情で、子ども達と手を振ってくれた。
「兄さん……今日子ども達に行なった事は、何の解決にならない唯の偽善でしょうか?」
「スノウ……自分の気分による一部の施しでは何も変わらない。むしろ期待だけさせてしまうから偽善とも言えるね。今回の事を踏まえてどのように環境を変えていくか。貴族も含めてね。どうすれば良いか考え、その為に正しく力を使う。それがこの王族の役目だとボクは思うよ」
「………………」
「スノウ一人で考える事じゃないよ。一人で思い詰めるより、様々な人からの意見も聞きながら答えを導き出していくのも大事かな。人を使う事も必要だからね」
イーサン兄さんの言葉が心に沁みる。まだまだオレは力不足だ。
痛い事は嫌だから、他の方面で頑張ろうと思ったが世の中そんなに上手い事はいかないもんだ。
話をしながら歩いていると、いつの間にか北区に着いていたので、馬車に乗り込んだ。
ふと先程は聞けなかった事が頭によぎり、イーサン兄さんに聞いてみた。
「兄さん、さっき教会で貴族の話が出た時に反応したよね? 何か知っているの?」
イーサン兄さんは少し考えてから言葉を選びながらオレに伝えた。
「以前からチェックをしていた貴族だ。スラムの悪人との関わりや子ども奴隷売買疑惑等しているのだが、バックに王妃派の高位貴族が付いていて中々立証出来ないんだ。ボクが余り大きく動くと母上を刺激してしまい、より動けなくなってしまう。現状時を見計らうしかないんだ」
相手を焦らせて動いてもらうように仕向ける必要があるのか……
「兄さんそれならこういうのはどうです。ボクと兄さんが城下の視察で老朽化が進む教会に保護されている孤児達の現状を知った。
そして教会の経営も苦しくこのままだと孤児達はスラムしか行く場がない状況となり、治安の悪化に繋がる恐れがあると父上に提言する。
そこで、ボクと兄さんの宝飾や調度品を商人に売却し、王族が教会の為に私財を投げ打った噂を商人達に広げてもらう」
「なるほど、皇族が教会に献金したとなれば、貴族達も体裁を保つ為に同じように献金を行うだろう。そうすると母上や兄上、その貴族達も渋々従う事になるだろう。
しかしそれでは……また母上達から理不尽な目にあわされるよ」
本当は仕返しが怖くて不安だが、それ以上にオレは王妃派貴族達にムカついている。
「それも覚悟の上です」
オレのその言葉で、何故かイーサン兄さんは悲しそうな表情をしていた。
何とか投稿でき、やり切った感があります。
急いでいたので誤字脱字等あるかも知れないです。
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