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病室

「えっと」


アガサはちら、と左を見る。

ベッドに上半身を起こし、もう一人を見るアルミドラ。

ちら、と右を見ると、背の高い男が立っている。

ドラゴン王子、ドレイクだ。


何故こんな事に?


アガサの表情は・・・怒っています。ええ、それはもう。


「どうして付いてきたのかしら?そして、何故部屋に入ってきたのです?」


ドラゴン王子をキッと睨むが、ちっとも応えてはいない。

それどころか可愛いななんて笑っている。余裕綽綽だ。


対するガッカリ王子、アルミドラはアガサだけでも胃がシクっと痛むのに、噂のドラゴン王子までここに来て、動揺は隠せない。


「その・・そこの・・・ドラゴンとやら。アガサと私は話をするので遠慮してはくれぬか?」

「いや。我もアガサの動向が気になるんでな。我を気にせず話すが良い」

「ドレイク様。出ていってくださいな」


アガサはつつ、とドレイクに近寄り・・バチッ!!デコピンをした。


「があっ!!さ、さっきよりも痛いでは無いか!嫁御殿!」

「嫁じゃありません。ドラゴンのくせにこれくらいで痛がってどうするのです。さあ、出ていって」


ドアをさっと開けると手で『ご案内〜』な仕草をするアガサに、


「分かった・・」


ドラゴン王子は渋々出て行く。

彼の乱入により間の抜けた空気抜きになって、空気の緊張感が少なくなった。


「ごめんなさい、ミドラ様。・・・お見舞い、遅くなって申し訳ありません」

「いや。ありがとう・・アガサが来てくれて・・ほっとした」


ほっとした、か。

嬉しいよとは言わないのね。


「アガサには申し訳ない事をしてしまった。婚約破棄が、早く進むよう、父に言っておこう」


ああ。やはり婚約破棄なんだわ。

婚約破棄は望んでいない、したく無いとは言ってくれないのだわ。

やはり・・・政略結婚だから。愛してもらえなかったんだわ。

ううん、いて欲しいと・・望まれる事もなかったのだわ。

王妃に相応しいからという利便があっても、私はミドラ様に・・傍にいて欲しいとは・・


ああ、ダメ。

めげちゃダメ。

そこで諦めたら、本当に・・離れてしまう。


「ミドラ様!」

「なんだ?」

「私は、ミドラ様にとって何だったのでしょう」

「何だった・・?」

「政略結婚の相手、だけだったのでしたか?」

「・・・・」

「ミドラ様、言ってください」

「アガサは・・・ドラゴン王子とは・・・楽しげにするのだな」

「え」

「私にはあんな・・軽々しい・・態度はしたことがなかった。堅苦しい、上品な微笑み」


そして不満げな顔で彼女を見る。


「アガサの笑顔など、何年も見た事が無かった。私では・・アガサを・・笑顔には出来ないのだと、分かったんだ」

「ミドラ様・・・ミドラ様だって!私に笑顔どころか・・微笑むことさえしてくれなかったくせに!私のせいばかりにしないでくださいませ!!」

「そうだな。だから・・私達は・・」


ああ、ミドラ様!!私を諦めないで下さい!!

私は貴方のそばにいたいのです・・!

アガサは必死で言い募る。


「ミドラ様!!私が先に聞いたのですよ!私とは政略結婚の相手だけだったのですか!」


アルミドラは口を半開き、ぽかんとした表情だったが・・突然笑い出した。

なんだかヤケクソな、引きつった様な笑い声だった。


「ヒャハ、ハハハ!!ああ!アガサでも怒鳴るんだな!初めてだよ、アガサに怒鳴られるなんて!

「申し訳「だから!どうしてアガサはすぐそうやって・・もっと・・私にも心、を・・」


彼は下を向き、ゆっくりと深呼吸をする。


「今更だな。私が・・アガサに対して至らなかったのだ・・君は時期王妃だが・・ひとりの女の子だったのだ。私は今更・・それに気が付いたのだ。隣にいる婚約者さえ、どう思っているのか理解しようとしもしなかった私では・・王としての勤めなぞ到底無理だと・・分かったのだ。アガサを王妃には、もうしてやれない・・だから・・私から離れるといい」


ふと。

彼は頭に何かが触れるのに気付く。アガサの手が、彼の頭に触れたのだ。


「私・・もうミドラ様には触れられない、触れたく無い。そう思っていました。本気で穢らわしいと・・調書で『してなかった』と書かれていても、傍にも寄りたくない。そう思っていたんです」


アルミドラの髪をゆっくりと手櫛で梳きながら続ける。


「でも、ここに来るまでずっと、私はあなたへの思いを、出会いから最近までの二人を鑑みたのです。小さな頃から幼馴染みとして傍にいて、12歳からは学園で、14歳からはお妃教育で城に住んで、3食ほとんど一緒に食べて。ずっと一緒に過ごしました。家族よりも一緒に過ごしました。ダンスの時も練習も、パーティーもミドラ様が一緒でした」


髪を梳いていた手が離れ、彼を両手で包む。


「私も・・ミドラ様を慮らなかったです。あなたの悩みに気付いていながら、見ているだけでした。何を悩んでいるのかが・・聞いたら怒るだろうと・・ミドラ様、私は天才ではありませんのよ?」

「アガサ・・?」

「貴方のために、一生懸命頑張ったのです。貴方に『頑張ったね』って誉めてもらいたくて」

「・・・・そうだね。アガサは負けず嫌いで頑張り屋で、強情だった。それなのに私は・・アガサに嫉んで妬んで、ああ、格好悪い。君の努力を私は・・・本当の馬鹿だ」

「ねえ、ミドラ様」


アガサはニコッと笑った。


「私、今回の事、怒っていますの。だからミドラ様は、私に償わなければなりません」

「赦す訳ではないんだな?」


アルミドラも困った様な様子で苦笑する。


「私からミドラ様への罰は・・私に一生尽くす事ですわ。嫌なら言ってくださいませ」

「尽くすとは、例えば?」

「そこはご自分で知恵を使ってくださいな」

「うーむ・・そうか。君を笑わせる、とか?」


そしてアルミドラはアガサをくすぐった。


「きゃあ!ミドラ様!それは反則です!きゃあ!」

「ハハハ!では、これはどうだ?『アガサ。大好きだ』」


耳元で囁かれ、彼の声と吐息がくすぐったくて、アガサはさらに笑った。


「きゃはは!!もう!!このくらいじゃ、許しませんよ!」

「うーん。もっと精進しなくては。アガサ」

「はい?」

「私のお願いも、聞いてくれるか?」

「どうしようかしら。言ってみてくださいな」

「もっと砕けた口調で、もっと親しくしていこう。公式の場所以外な」

「ええ。わかりま・・・わかったわ」


アルミドラとようやく『和解』出来て、アガサは胸が一杯で・・幸せだった。



次で最終話です!

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